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#4 ロックンロールベイベー、また明日ね

向こうで鍋の蓋を開ける音がする。8畳ほどの1K、7人。部屋は音で溢れていて壁も疲れてそうだ。耳は忙しく部屋を掻き分け鍋に到達し、今日もありがとうと心臓に返ってくる。

ひとりぼっちなのと夜が繰り返してることを同じ日に知った。まだ平仮名もわからない頃、綺麗な月が憎かった。テレビのエンドロールを読めないのに目で追う子供だった。アイスが冷凍庫にあることを遅く知り、まだ封が開いてないところに優しさを感じた。他にも、夏の暑い日に車の冷房の角度を少し上に向けたり、団子を一口目から食べさせてくれたり。

全部取り返したい。自動で掻き分ける五感に嫌気が差している。まだ歯が健康なうちに早く、噛みたい、全て。鍋も弾き語りも笑顔も夏のこたつも、全部あの時の月が知ってる。

7人で歌うロックンロールベイベー、お別れの歌。さよならcolorで笑う机。また明日ね。


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