
経産省が示すこれからのデザイナーのあり方とこれまでの政策の歴史②
①はこちら↓
これからのデザイン政策を考える研究会より
前記事に貼った下図の方針は概ね変わらないように感じます。

2022年の「我が国の新・デザイン政策研究~海外のデザイン政策動向・教育事例調査、デザインが企業経営に与える効果の先行研究レビュー~詳細版報告書」三菱総研のレポートをデザイン政策室がまとめたものが基本となっており、より社会に実装されるデザインについて方向性を探っている内容となっています。
報告書の内容は概ね下記の通り。
デザインの対象領域拡大や創作主体拡大を通じたデザインの民主化。
「デザイン経営」推進による産業界のデザインへの関心の高まり。
高度デザイン人材育成を掲げるデザインスクールの登場。
各国・地域のデザイン政策の紹介(英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、デンマーク、フィンランドなど)とデザイン政策の概要・個別施策の紹介。
日本のデザイン政策の特徴と課題の分析と新しいデザイン政策に必要な観点の提言。
デザインが企業の価値向上や地域振興、行政サービスの改善、社会課題の解決にどのように貢献できるかの考察。
興味深い内容も含まれていますので、できればじっくり読んでみることをおすすめします。
注目ポイント:デザインの民主化
研究会資料中のスキーム図は、従来のデザイン・デザイナーの役割に対して大きな変化を求めているように感じます。

スキーム図では、産業政策での経済的価値でデザインの価値を位置づけていたものを、文化的価値・社会的価値を重視する欧米の考え方を取り入れようとする方向が見て取れます。
三菱総研の報告書中にも、各国の事例と社会実装効果について羅列されており、日本版にカスタマイズするタスクを現在行っていると考えられます。
前回記事に書いた文科省の「高度人材教育」は、美大をはじめとした各大学において進められており、2019年以降のデザインに関わる高度人材教育のカリキュラムをこなした卒業生も社会人として活躍し始めています。

しかし現状は「広義のデザイン」で意識が止まっており、経営のデザインまで広がっていないことが課題とされています。
この課題解決のために、「日本版デザインカウンシル」の設立を研究会では提案しています。

デザインカウンシルは、既存のデザイン協会などがその目的や理念を変更し、教育プログラムの充実や企業との連携強化などの機能面を強化することで成立させる算段と考えられます。

問題となりそうなことに、オペレーター程度のスキルしかないのに、デザイナーと語ることで、デザイン教育へ参入するケースに対してどのように対処するのかといった部分でしょう。
デザインに関する一定知識の認定制度またはデザイン教育を受けた実績記録がデザイナーには求められるようになる可能性があります。
注目ポイント:拡大するデザイン領域(デザイン経営)
デザインの定義で拡大する図から、関連する領域を示した資料が下図です。

③ インタラクション領域はまだエンジニアリングの世界と直結していますが、④ のシステム領域は思想・概念を含んだビジネス領域へ入っており、DXやAIのほか、IT/oTといった、データドリブンの世界を含んでいます。
視覚に頼るデザインから、感覚やデータに基づいたデザインが求められるようになるため、デジタルツールが利用できるだけではデザイナーとして認められなくなる可能性が高くなります。
少なくとも、経営知識やデータ分析知識が必要となることは間違いなさそうです。
先行研究の問題点が指摘されていることの先について


要約すると以下のようになります。
デザインの定義の揺らぎが存在する。
デザインの効果を議論する際、狭義のデザイン(意匠やUI等)と広義のデザイン(経営のデザイン)が混在することが多い。
デザイナーの定義が欠如している。
デザイン領域の拡大に伴い、デザイナーの役割も変化しているが、明確な定義が不足している。
効果測定の課題がある。
デザインの効果を測定する手法が確立されておらず、企業ごとに異なるデザイン活用の幅と深度に応じた評価が必要。
デザインの認識齟齬が発生している。
調査者と企業の間で「デザイン」の定義に対する認識の違いが存在する可能性があるが、先行研究ではこの点についてほとんど言及されていない。
調査対象の不十分さが目立つ。
多くの研究が、企業数の少なさや業種の偏りなど、調査対象の不十分さを課題として挙げている。
デザインに注力する企業の偏りがある。
調査対象として、特にデザインに注力する企業が選定される場合が多く、デザイン・リテラシーの低い企業の実態も把握する必要がある。
これらの問題に留意しながら、今後の研究を続けることが記されていることから、学術機関等への研究助成金は上記がポイントとなっていると考えられます。
そのため今後は定義がはっきりとなり、ガイドラインを通し、先述した認定制度などへ反映される可能性が考えられます。
注目ポイント:人口格差と地域振興(ローカルデザイン)
インタウンデザイナーという名称で、地域振興に注力するデザイナーを推奨している背景が下図です。

デザイン政策にあるまじきクっソ醜いグラフ[図表1-2-1-10]ですが…。
矛盾点いっぱいで、なんでこのグラフを作ったのか理解に苦しみますけど、人口が半減することに対するエビデンスのつもりなの…かな?
左端の〜2千人規模の自治体で、2015年よりも人口規模別の生活必需サービス累計割合が2050年で増えちゃっている(それを読み解くのにも時間がかかりましたが…)から、サービスが充実していると捉えられるので、問題ないように見えます。(このグラフ、色々おかしいんで参考にならない)
人口が増加していっても2015年より割合が増えている…。
逆ならわかりやすいのですが…。ともあれ。
前回の記事で、"共創型ローカルデザイナーの出現”として書きましたが、実はちょっと唐突すぎる感覚を受けます。
確かに地域経済活性化のためにローカルデザイナー(インタウンデザイナー)のような人材は必要でしょうが、そのことと人口減少は無理やり結びつけている感じがしてなりません。
デザイナーの役割として、地域経済基盤となる産業を作る役割は担わないため、人口問題と地域経済問題が混同して捉えられていると考えます。
経産省のデザイン政策の資料でこの点だけが腑に落ちません。
どう考えても、ローカルデザイナー(インタウンデザイナー)はスケールしにくいビジネスモデル。持続可能とセットで資料には書かれていますが、スケールしにくいビジネスでは、持続可能にならないという矛盾が生じます。
グラフ選択や人口減少との関係について、論理的なつながりを考えることなく対応した感じがそのことを裏付けています。
念の為…スケールしにくいビジネスは、収益を大幅に増やすことが難しいため、長期的な成長が制約されます。
コストの増加:規模を拡大するためには追加のリソースやコストが必要ですが、スケールしにくいビジネスではこれが難しい場合があります。
市場の限界:特定の地域やニッチ市場に依存している場合、市場の拡大が難しく、市場に変化があった場合に対応が難しい場合があります。
このことから、元来のローカルデザイナーの役割とは違う文脈から出現してきたものと推測できます。
おそらくSDGsに影響され、苦し紛れに差し込まれたものと理解できるので、デザイン政策からは静かにフェードアウトしていく予感がします。
注目ポイント:デザイン経営とデザイナーのスキル
デザインが経営において企業価値をもたらすことの理解は広がっています。
そのうえで、デザイナーに求められる役割が分類されているので、この分類にしたがってスキルアップしていくことが重要になりそうです。

①〜④に向かうほど、領域が広くなることを指しています。
①最適化(optimization):
特定の問題解決に焦点を当てた役割。
②インテグレーター(integrators):
部門間のコミュニケーションを円滑化する役割。
③デザイン行為(designing):
色、形、空間、材質を扱う能力と文脈に適した素材などを用いた可視化。
④プロセスリーダーシップ(process leadership):
開発プロセス全体を通して新製品開発(NPD)の広い範囲に渡るプロセスに関与・主導する役割。
現在は③段階までがインハウスで認識されている状況で、多くのデザイン業者は②段階までが認識範囲ではないでしょうか?
注目ポイント:デザインカウンシル(中間組織)
「これからのデザイン政策を考える研究会」の第1回から第3回までの議論に登場しているのが「デザインカウンシル」です。
上記でも触れていますが、第3回のこれからのデザイン政策を考える研究会資料にも登場しており、1990年代後半まで日本にもその機能が有していた団体があったことが掲載されています。


存在していた機能が消失した理由はなにかを次の資料で説明しています。

一つ前の記事で流れをまとめましたが、上図はテクノロジーを追加したものになっています。
テクノロジーが社会実装されると同時に、団体や制度が民営化され、機能低下になったと分析されており(経産省の処理能力が足りないと思うが、それは置いておいて…)、今になって再考というより、無くなったことで色々不具合が出てきたと考えられます。
その結果が、各地のデザイン協会など、中間組織の会員減少へと繋がっていることの一因であるとも考えられます。
Society 5.0時代のデジタル人材育成
デザイン政策の一つ上位政策になりますが、これからのデザイナーのあり方と深く関係しそうな検討会が開催されています。
それが「Society 5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会」です。
基本的な考え方は「Society5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会 第1回資料」に掲載されている「スキル」。


IT技術とサービスが主軸になる「スキル」ですが、デザインの領域にもDXやAI導入、IT/oTが関連します。
したがって、これらの話も関連があると考えられます。
スキルを共通言語にすることについて

資料3 石原委員 資料より
資料を読むと、DXとAI導入に伴う人事異動や配置、転職等において、職業・職種に縛られない選択ができるようにすることが書かれています。

資料3 石原委員 資料より
これはデザインのスキルを細分化することで、他の領域への参入のほか、逆のことも考えられますので、スキルマネジメントが重要になってきます。
「職の共通言語」としての「スキル」
三菱総研の資料では、3階層に分けた社会構造レベルをスキルで接続することが書かれています。

政策・経済センター 研究提言チーフ(人材)/主席研究員 山藤様 資料より
このことから、スキルを「職の共通言語」として整備することが提案されています。
スキルを持っている人同士であればレイヤーが異なっていても、意思疎通が素早く行え、人材の流通が可能になります。

政策・経済センター 研究提言チーフ(人材)/主席研究員 山藤様 資料より

政策・経済センター 研究提言チーフ(人材)/主席研究員 山藤様 資料より
デザインの場合、先に書いた4つのレベル、①最適化、②インテグレーター、③デザイン行為、④プロセスリーダーシップを分解することで見えてくるするスキルが対象になると考えられます。