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マニアに伝える。裾野を広げない観光資源マーケティング。

製品開発企画では直感が大切で…ということはかつて関わった用途開発の職場でよく言われましたが、正確には上昇傾向またはその兆しがあるローレベルのターゲット情報をいかに早くキャッチするのかということでした。現代ではTwitterという最強のリサーチツールが存在するので、データを探し回らずに済むのでとても重宝しています。

2007年頃から積極的にインバウンド(当時山奥ではまだ積極的に受け入れていなかった)対応してきた宿屋の知人と話(オンライン)をしたところ、インバウンドのお客さんはとにかく日本について勉強をしてきており、聞かれることがとにかくマニアックなことが多いと言っています。それは国に帰ってから自分で調べたことをまとめ、様々な形で表現することに力を入れているからなのだそうです。海外ではマニアックな知識を持つ人ほどステータスが高いため、長期滞在をする人は単にエンターテイメントを求めてわざわざ日本へ来るわけではないそうです。

そのようなことを話していた翌日にMATCHAさんが主宰するfbグループの情報交換会「世界中の人が日本にどんな魅力を感じているのか?」でもスイスの観光マーケティングがマニアに対して積極的に情報を出していることが明らかになりました。マーケティングシェアを考える時三角形(△)をよく使いますが、頂点ほどマニアックな人で一般の人は三角形の底辺に向かって増加していく形です。日本は三角形の底辺である一般の人、つまり裾野を広げることに尽力しがちで、それに応じた情報コンテンツにあふれています。

スイスのマーケティングの考え方は真逆で、三角形の頂点を引き上げることに加えてセグメントを円(○)で考え、セグメントの円が重なる三角形の頂点に向けた情報コンテンツを用意し、プロモートしているそうです。ちなみに、ことほむ でもほぼそのようなことを偶然にも書いていました。(スイスの事例は知りませんでしたよ)

この傾向、実は日本でもアンダーグランドでかなり昔からずっと起こっています。「聖地巡礼」と言われるアニメーション作品のモデル地域へ出向く旅が表面化しており、一般の人も巻き込んでいる一例です。ところが、多くの地域で行われる「アニメ作品コラボ」での地域対応は、アニメを見ているファンの人と二次創作をしているマニアな人と混同している傾向が見られます。その原因はおそらく「作品の中で使われた実際の風景を確認しに来ているのだろう」という想定から現れていると考えているのですが、アンケートを利用してどのような目的で来たのかを尋ねたとしても、二次創作の世界を知らないと理解に苦しむ事が多いのではないかと予想します。

実は身近なCGの世界

少し前VRについて書きましたが、この中で触れているCGは3DCGとVRゴーグルを組み合わせたこれからの表現です。3DCGの敷居はまだ高く、参入するにはそれなりの知識や経験が必要なのですが、2DCGの世界=イラストの世界は紙上で行っていた作業をiPadなどで作業ができるようになり、早い人ならば小学生の頃から2DCGには触れているのではないでしょうか。そのCGと聖地巡礼、観光との関連を考えてみます。

紙上で描いても2DCGで描いても、自己満足で終わればどこにも発表することはありません。では多くの人は発表せずに終わっているのでしょうか?

ここで少しだけ歴史を振り返ってみます。2DCG普及の歴史は1980年代までさかのぼります。この当時はドットを使って描いており、主にゲーム用として描いています。この2DCGを発表するためにはインターネットはなかった時代ですので、プリントアウトするかフロッピーディスクに入れてコピーを渡すくらいしか方法はありません。しかし当時のプリンターは今のインクジェットとは違い、ドットを打ち込んでプリントする(白黒)タイプが主流です。そのためイラストを仕事にしていた人(プロ)は、紙上に描きオフセット印刷で複製する方法しか主な選択肢がありませんでした。コピー機も存在していましたが、プリンター自体も高価で、きれいに複製できるのは出版社か印刷会社だけ。カラーともなると莫大な金額がかかったため、素人では手が出ない領域だったのです。出版社が儲かった背景にこうした特殊な技術や工程が必要だった事がひとつ挙げられます。ああゼロックス…。

当時素人はどうしていたかというと、モノクロ印刷(ガリ版なども含む)を駆使し、一人では大変な作業のため複数人で「同人誌」という形の本を作り上げます。(同人誌の文化は明治時代までさかのぼりますが、今回は割愛)これらを発表する場所も同人誌を作っている仲間同士があつまり、現在のコミックマーケット(通称コミケ)という場ができあがります。1980年代にはパソケットという名で、CGをフロッピーディスク(FD)にコピーして発表(交換)する場も存在していました。

1996年にEPSONがPM-700Cという6色インクジェットプリンターを発表してから複製コストも下がり、2DCGはプリントアウトされコミケ会場内で発表(交換)されはじめます。そして2004年頃からISDN、ADSL、FTTH(光)と次第にインターネット回線の速度が上がっていくと同時に、さまざまなネットサービスが生まれ、2007年に「ピクシブ」という2DCGの発表に特化したサービスが誕生します。たしかβテスト時で1万人を超えた登録が集まったと記憶しています。

このように2DCGの歴史は短い間に激変していくわけですが、描くときの工程に大きな変化はなく、特に良いラストの背景についてはモノクロ時代でも各地に取材をしにいく旅はこの世界では日常でした。かく言う筆者も1980年代に取材旅行はよく行っており、石垣に残るノミ跡や建物の基礎、日常の町並みなどを撮影していると、現地の方に奇異な目で見られたことが未だトラウマです。(笑)

そしてこの世界、二次創作という分野がかなりのウェイトを占めます。アニメ作品の中で自分が推すキャラクター(作品内ではサブキャラだったりモブキャラだったり)にスポットを当てたイラストや小説・漫画を作り上げてしまう世界です。そのため作品の背景となる時代や場所、そのキャラクターはどのような行動を取るのかなど、現地に行って自身で追体験したり、イラストを描くための資料収集も同時に行ったりします。そうした旅の場合、メンタルが強い人なら一人旅でも大丈夫でしょうが、筆者を含めてメンタルがお豆腐でできている人は、できれば誰かと一緒に(話題を共有できる)、しかも知人・友人レベルの人と行動したい衝動に駆られます。そして念願かなって同行する人は決してマニアックな人ではなく、先に書いた一般的なファンというレベルでなので、奇異な行動はしないため観光関係の人の目に止まりやすい(今までの観光客と同じなので)傾向にあります。この人達をターゲットと勘違いしている可能性は高いのではないでしょうか? 旅のきっかけは実はマニアックな人が作っているにもかかわらずです。

ちなみに弊社でもキャラクター像制作時に資料を探し、検討し、行ける場合は現地に赴いて資料収集をしています。

これが裾野を広げないマーケティングで注目するところだとことほむでは考えています。
偶然にもスイスと同じだったとは気が付きませんでしたが。(;´∀`)


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