【#Real Voice 2024】 「たのしむ」 1年・川﨑雄斗
◯プロローグ
グラウンドから帰宅途中、遠くから雷鳴がかすかに聞こえた。それと同時に、汗で湿った髪を嘲笑うかのような強風が吹き荒れる。ゲリラ豪雨だ。かすかな水滴が私の腕に触れる。降り始める前に家に辿り着こうと、私はその歩みを進めた。
ア式蹴球部に入部して、半年が経った。この半年間、無我夢中で組織のために進み続けていたとは正直言い切れない。迷って進んで、また迷って、そんな半年間だったと思う。そんなに何を悩むんだと問われれば、ハッキリとした答えすらもない。ただ、これだけはずっと悩み続けているものがある。面白いものを追求することの良し悪しだ。
「ただいま」。もちろん、返ってはこない。家に帰るや否や、上京してきたことに対する虚無感に襲われる。その虚無感を噛み締めつつ、提出期日まで僅かに迫った部員ブログ作成のため、リュックを床にほっぽり出し、パソコンと向き合った。しかし、何を書こう。どう書こう。周囲を見渡すと、もう何ヶ月も弾いていない青色のテレキャスターが目に入る。ギターも、弾いてもらわなければ、ただの鉄の塊だ。すると視界に、ここ2ヶ月袖を通していないレプリカユニフォームが飛び込んできた。私にサッカーの面白さを教えてくれたクラブ、サガン鳥栖のものだ。今でも、鮮明に思い出す。初めてJリーグ、そしてサッカーを観に行った時の。ゴールネットが揺れた時のあの感情を…。
◯2019.08.04
目の前には煩雑に散らかった机とパソコンがあるはずだった、というか、べきであった。しかし、眼前には、想定とは全く異なる光景が広がっている。大勢の観客。鳴り響くチャントの音。反対のスタンドの照明の眩しさ。それに照らされるコントラストの美しい芝生。そこに立つ憧れの11人の選手たち。一眼見てわかる。眼前に広がるのは、何度も足を運び、サッカーの面白さを教えてくれた場所。サガン鳥栖のホームスタジアムの光景だ。
思い出の場所を目の当たりにしていることへの安心感と同時に、状況の飲み込めなさによる恐怖感に襲われる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」。
僕は叫んだ。しかし、周りの人は見向きもせず、試合に夢中になっている。その周囲の反応から、私はここが回想の世界でしかないことを瞬時に理解した。と、同時に周りから大きな歓声が響き渡る。その光景を見た私は、この試合がいつの、どことの試合だったのかも理解した。私が初めて観に行ったサッカーの試合である、2019年8月9日の大分トリニータ戦だ。今でも鮮明に思い出す。
後半45分。クエンカ選手(フアン・イサック・クエッカ・ロペス選手)が相手陣深い位置でボールを奪い、横にいる金森選手(金森健志選手)にパスをつける。キーパーは金森選手がシュートを打つと思い前に飛び出してしまい、ゴールは無人となってしまう。その時、金森選手はそのまた更に横にいる金崎選手(金崎夢生選手)へパスをする。そのまま、金崎選手が左足を無人となったゴールへ振り抜き、ゴールを奪ったのだ。
◯キッカケ
今でも、鮮明に思い出す。初めて、サッカーの指導者を志した瞬間を…。横には中学1年生の頃から苦楽を共にしてきた親友の姿もある。我が母校、早稲田佐賀高校の図書室にて、ある人物の自伝を片手に、少し興奮気味に隣の友人へ夢を語っているのが、中3の頃の私だ。
「ザッケローニ、わかるっしょ。あの人って、プロサッカー選手としてのキャリアを持たずに、プロのサッカー監督になったらしいよ!」。
当時の私は無邪気にも親友へ語りかける。その頃からだ。私が、サッカーの指導者としてサッカーを支える側として将来を考えるようになったのは。
「俺も将来、サッカーの監督になりたいな」。
(何を荒唐無稽なことを…)。しかし親友に向かって、そう高らかに宣言している過去の自分の目は、側からみていても澄んでいることがわかる。
『ザッケローニさんも、プロにはなれなかったけどプロレベルのサッカーの実力があったんだよ。だから、今の今までサッカーをしたことのない俺とは違うんだ』。
高校からサッカーを始めた私は、サッカー選手としての実力や実績も皆無である。それでも、それでも、一度抱いた夢を諦めきれず、今日まで歩みを進めてきた。しかし、大人になるにつれて、夢であるプロの指導者になれないのではないかという不安が増している。特に、このア式蹴球部に入部させていただいてからの日々は、多大な学びと引き換えに、自身には指導者としての素質がないのではないのかという不安を駆り立てられてもいる。この不安は、これまでその夢を追い求めていたことへの不安からか、この輝いた目で夢を語る少年に対して、私は忠告しようとした。
(やはり、聞こえない)。
今見えているのは、回想だろう。だからかわからないがやはり、こちら側から過去の自分には干渉できないようだ。
過去を変えることはできないという事実は、一度抱いた夢を追いかけ続けてきた今日までの日々を、どこかでなかったようにしたい自分を押し倒すのだった。
◯2023.08.06
私はまた、スタジアムでの光景を思い出す。2023年8月6日のアビスパ福岡戦である。しかし、今回は朧げながらにしか思い出せない。それは私にとって、あまりにも幸せで、楽しく、最高に面白い時間だったからだ。この時私は、光栄なことにご縁をいただき、高校生にも関わらず、サガン鳥栖にインターンをさせていただいていた。憧れのJリーグの舞台を間近で感じることができ、本当に夢のような期間だった。
そして今、そこで渡していただいた言葉が、私の脳裏を駆け巡る。
何度もなんども。なんども。何度も。
「自分たちのスタイルを変えることはない」
「新しい時代をつくるのは老人ではない」
「自分の人生をたのしむための”サッカー”だ」
◯エピローグ
頭痛がする。眠っていたのだろう。頭を乗せていたせいか、右腕が鬱血気味である。眼前には、まだ数行ほどしか書いていない部員ブログを開いたパソコンがある。しかしなぜか、散らかっていたはずの机は、見違えるように綺麗に整頓されている。
周りを見渡すと、再度サガン鳥栖のレプリカユニフォームが目に入る。あのユニフォームのおかげで、私は思い出すことができた。サッカーとの出会いを。夢との出会いを。そして、悩み続けていたことに対する答えを。
過去は覆せない。そのためにも、その過去を正解にするために日々をたのしく生きようと思う。そのための「サッカー」だ。
そう決意を新たに、私は久しく弾いていなかったテレキャスターを手に取った。チューニングすら合わせず、私はひとりでに歌い出す。「ワタリドリ」を。高校の頃の文化祭で弾いたこともあって、自然とコード表を見ずにも手が動く。
◯後書き
ここまで、お読みいただきありがとうございます。今回、自分が担当させていただいたReal Voiceですが、非常に読みづらかったと思います。なぜ、普通の文章を書かないのか、というご指摘もあるのではないでしょうか。確かに、普通の文章の方が、読みやすいでしょう。
しかし、せっかく書かせていただける以上、少しでも面白いと感じていただけるような文章を作ろうと努力した結果、このような形にしました。結局よくわからないので、面白くないと言われてしまうかもしれません。ですが、一人でもこの文章を読んで「面白い!」と感じていただける方がいたのなら幸いですし、この綴り方に挑戦した価値があったと思います。
ここに私、川﨑雄斗は誓います。どんなことがあっても、どんなことであっても、それを面白いと感じてくれる人が一人でもいるかぎり、その面白さを追い求め続けると。
次回のブログはア式が誇る、イケメン敏腕マネージャーこと中嶋悠人(1年・早稲田実業高等部)です!
ピッチ上の運動量もア式の心臓との呼び声高いですが、ピッチ外でも動画編集や早慶戦の告知等、まさに必殺仕事人です。ピッチ内外でのノリの良さも、部に明るさを広げてくれています。
そんな中嶋が、なぜア式の必殺仕事人となったのか、その経緯がブログに綴られると思うと、楽しみで仕方がありません。今晩は眠れないでしょう!
みなさんお楽しみに!
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