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「白線の向こう側へ」 2年・羽田拓矢

右手に持ったバインダーを投げ捨てる
熱気を帯びた風を一身に感じる
全速力である場所へと向かう
そう

『白線の向こう側へ』


2年目を迎えた大学サッカー生活。
非常に充実している。
2年生ながら学生スタッフとして最高学年を迎えた今年、昨年に比べて明らかにマネージャーとしての役割や業務が増えた。多忙を極める時期もあり精神的にもしんどいことはあったが、やりがいを感じ、充実感を得ながら活動をすることができていた。
確実にステップアップしているという実感と、チームに対して自分が貢献できているという実感を得ることができた。
そして何より、ア式蹴球部のことが更に好きになった。
チームは昨年と打って変わって連戦連敗、とても苦しい状況でチーム内の雰囲気も決して良いと言える状況ではなかった。
それでも、個人個人が前向きに、何とか状況を打開しようと思考を巡らし、挑戦しようとする姿勢がそこにはあり、決してチームが腐ることはなかった。そんなア式が、チームメイトがどんどん好きになっていった。
しかし、その好きな思いと同じくらい、自分の中で徐々に増していく違和感があった。
日々の取り組みへの選手と自分の温度差について。

「よし行こう!」
練習直前に全員が集合し、外池監督が声をかける。それに応えるようにみんなが「行こう!行こう!」と口にしながらスイッチを入れて練習をスタートさせる。もちろん私も同じように声を出す。
しかし、私の中での練習は何となくまだ始まらない。

縦と横に引かれた白い直線同士が交わるポイント
マーカーを片手に、まだはっきりと掴めない自分の1メートルの感覚を頼りにハーフラインの上を1歩2歩と進んでいく。
真っ直ぐに伸びる白線の上を進んで行くとき、初めて私の中で練習がスタートする。

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日々の取り組み、とりわけ練習というものは私の中で非常に重要なものである。チームが好きで、選手達のパフォーマンス向上に努め、チームマネジメントに携わることをやりがいとする自分にとって、練習のサポートは「早稲田大学ア式蹴球部マネージャー 羽田拓矢」を語る上で何より大切なベースの部分である。だからこそ、1年生の頃からピッチ上でのサポート、日々の取り組みには真摯に向き合い続けてきた自負がある。しかし、日々の練習、ピッチ上でのサポートが重要であるという思いとは裏腹に、そこに温度差を感じるようになってしまった。
練習が始まる前と始まった後で変わらない自分のテンション。
そんな自分を横目に、メニューが進んでいく毎に熱気が増していくピッチ内の選手達。
こんなに熱くピッチで戦っている選手がいるのに自分はこんなんでいいのか?
自分だってもっと頑張らなきゃいけないのではないか。
そう思って考えてみる。
果たして練習において自分は何を頑張るのか。
「ボトルの水のケアを徹底的にやろう!」
「マーカーの回収を迅速にやってスムーズに練習が進行できるように動こう!」
そんな風に考えたこともあった。
でも思った。
「いやいや、何だそれは。そんなしょうもないことでしか頑張れないのか」
選手には申し訳ないが、しょうもなさすぎる。
自分が情けなくなる。
そんなことを頑張るために貴重な大学生活を費やしているのか。ア式蹴球部にいるのか。

こんな思いと同時にもう1つ重要なことに気付いた。

少し自分の過去の話をすると、小学生から高校生までサッカーしかしてこなかった私にとって、サッカーは自身を表現する全てだった。イライラした感情も、モヤモヤした感情も、全てをエネルギーに変えてサッカーで表現していた。
そんな私は大学で自分の中からサッカーがなくなって、自身の感情の放出の場に大いに困った。うまく感情を表現することができなくなってしまった。
「選手って羨ましいな」
素直に思う。
20歳を超えるような人達が何かに対して全力で怒ったり、全力で要求をすることができる場所なんて早々あるもんじゃない。
「サッカーって、スポーツって素晴らしいな」
率直にそんな風に思った。

それ以来、白線の向こう側に見えない壁のようなものを感じるようになった。
簡単に白線の向こう側に足を踏み入れることはできるのに。毎日のように歩いているはずなのに、まるで選手達とは別世界にいるように感じた。

こんな葛藤を抱えていた私に2つの転機が訪れた。

5月29日 関東リーグ第7節 vs東洋大学戦
リーグ戦6節を終えて0勝5敗1分と本当に苦しい状況で臨んだ一戦。
私はチームスタッフとしてベンチ裏から戦況を見守っていた。
先制を許しながらも前半中に追いつき迎えた後半、相手の猛攻を耐え抜き2点を追加する。3-1の勝利。今季リーグ戦初勝利。やっと勝てた。
試合後、メンバーとベンチスタッフが歓喜に沸くスタンドに向かう姿を、他のチームスタッフと片付けをしながら見ていた。
みんなが紺碧(紺碧の空)を歌う姿を見てとても感動した。
試合の帰りの電車で紺碧を歌っている時の映像を見せてもらった。自然と涙が出てきた。その日だけで何回も映像を見た。見る度に涙で目が霞む。涙が出る理由はよく分からなかった。でも、嬉しくてたまらなかった。紺碧を歌えることがこんなにも尊いことだとは思いもしなかった。
モチベーションが低下してしまった時、気分が落ち込んでしまった時、必ずこの映像を見る。
これでもかという勢いでガッツポーズをして吠えるキング(3年 阿部隼人)、泣いて顔がぐしゃぐしゃのマサ(2年 杉田将宏)、泣くのを必死に堪えながら歌っている桃くん(4年 大桃海斗)、みんなの姿が目に焼き付いて離れない。何回見てもこみ上げてくるものがある。
何だか言葉では表現できない。でも、勝利の後に紺碧を歌いたい、聞きたいと思うからまた頑張ろうと思える。

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7月12日 第70回早慶サッカー定期戦-早慶クラシコ-
今年で70回目を迎える早慶戦。昨年はその舞台の大きさに圧倒され、先輩達の偉大な姿を見ていることしかできなかった。
今年は主務のゾノくん(4年 中園健太郎)と副務のニッシー(3年 西前一輝)と毎日のように一緒に準備に励んだ。
毎晩、ベッドの上でひとり、作業に追われる時間は孤独を感じて辛かった。でも目の前で早慶戦に向けて必死に頑張っている人がたくさんいたから、まだまだやれると自分も踏ん張ることができた。
早慶戦当日、ひたすら会場を走り回った。尋常じゃないくらい汗をかいた。
男子部の試合終盤、引き分けを想定して閉会式の準備をする。
「引き分けかぁ」
一気に疲労がきて体が重く感じたのを覚えている。
その刹那、歓喜の瞬間がやってきた。
拓己(2年 加藤拓己)のダイビングヘッド。1年間大いに苦しみながらも彼なりに必死にもがいていた。早慶戦1週間前にスタメンから外れた。ショックな気持ちを抑えて自分の役割に徹していた。いつもはふざけてばかりだけど、ここ一番で誰よりも頼りになる同部屋の相方の劇的ゴール。
気付いたら全速力で走り出していた。大事に持っていたバインダーを投げ捨てて。大学に入って初めてこんなに全速力で走った。
選手とベンチメンバーが入り乱れる輪の中に飛び込んだ。
最高の瞬間だった。
入ることのできないと思っていた白線の向こう側の世界に入ることができた気がした。
というよりは、無我夢中で身を投げ捨てて飛び込んだような感覚だった。
「まるで選手とは別世界」
勝手に自分で線を引いていたのだと気付いた。
もちろんピッチ内で戦う選手とピッチの外側で戦う自分に違いはある。でも、歓喜の瞬間にピッチ内外とかは関係なかった。
そこにあったのはみんなの強い思いの塊だった。
『白線の向こう側へ』行くために必要なのは強い思いと、それを実現させる確かな覚悟だと知った。

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これらの2つの転機を経て、「歓喜の瞬間を味わう」ことが自分の最大のやりがいだと気付いた。
選手ではない自分はもちろん、直接的にチームを勝たせることはできないし、「歓喜の瞬間」を作り出すことはできない。
でも、自分では、自分だけでは味わえない瞬間だからこそ尊いしたまらないのだと思う。
正直、練習の中で自分と選手の間に温度差を感じてしまうことは今後もあると思う。
しかし、「歓喜の瞬間を味わう」という自分の最大のやりがいを達成するために選手をサポートする。選手のためのサポートでありながら、自分のやりがいのために日々の活動に臨むことで、選手達と同じくらいの、選手達に負けないくらいの熱量を生み出すことができるのではないかと思う。

選手のみんなへ
自分で選択してサッカーをやめておきながら、大変自分勝手でおこがましい話ではあるけれど伝えたい思いがあります。
AチームとかBチームとか、それぞれ立場はどうあれ私から見たら、日々ピッチで感情をさらけ出して一生懸命に取り組むみんなは間違いなく憧れの存在です。輝いて見えます。どんなに早慶戦の運営を頑張っても、ピッチ外から好影響を与えようとも、ア式蹴球部という組織において絶対的な主役は選手のみんなです。自分たちを卑下するわけではないけれど、私達学生スタッフは選手がいなければ存在できないし、局面局面では主役になることができても、やっぱりサッカーをするみんなをサポートする立場なんじゃないかと思います。
どうか憧れの存在でいて続けて欲しい。
ア式蹴球部の選手であるということに自信を持って、胸を張ってプレーして欲しい。憧れの存在だからこそ、みんなと肩を並べて一緒に戦いたいと思う。ピッチの外側から自分も戦わせて欲しいと思う。みんなのために、そして何より自分のために頑張りたいと思える。


話は変わりますが、数日前、自分にとって、とても大きな決断をしました。
それは、「主務になること」。
来年副務になり、4年生で主務になるという決断です。
この決断はア式蹴球部に入った目的といっても過言ではなく、間違いなく自分の大きな目標でした。
特に、2年生になってからはずっと考えていました。チームから求められる自分と、私の目指したい自分とのギャップを。
夏頃からは考えるのが怖くなってしまいました。大きな目標であるが故に目標が達成できなかった時のことが。
悩みに悩んでも、自分だけでは覚悟を決めることができず、色々な人に相談し、アドバイスを頂きました。
やっと覚悟を決めることができました。
しかし、覚悟は決まっても自分だけで決断することはできませんでした。
同学年の仲間がチームのことについて深く考える、その中の1つとして自分のことについても沢山考えてくれました。
私の欠点、私に対する不安、私に対する期待、そして何より私の覚悟と思いについて。
本当に多くの人の後押しを受けて、思いを受けて、決断をすることができました。
ほんの数日前の出来事で、正直なところ自分の中で思考を整理することができていません。不安やプレッシャーも強く感じています。それが今の私の現状です。
私は優秀で器用な人間ではない。ここ1年でより一層この事実を痛感しました。
そんな私にできることは限られています。
憧れの選手と共に、それぞれの苦悩を抱えながらも自分のフィールドで活躍を誓う学生スタッフと共に、大好きなア式蹴球部で、チームのために、何より自分のために強い思いと確かな覚悟を持って私は進み続けます。

自分勝手な思いをひたすら綴る非常にまとまりのない文章になってしまいましたが、私の素直な思いを最後までお読み頂きありがとうございました。

さあ、今日も練習が始まる。行こう!『白線の向こう側へ』

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羽田 拓矢(はだ たくや)
学年:2年
学部:人間科学部
経歴:目黒区立東山中学校→東京都立駒場高校
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