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ワープスペースってなにをしているんだろう?

はじめに

 ワープスペースのリアルな雰囲気を伝えるために、二週に一本のペースで各メンバーからフリーテーマで寄稿してもらい、発信する企画がスタートします!第一弾は、弊社BizDevの井戸よりお届けします!

なにをしているんだろう?

 ひょんなことから別荘を好きな時に利用できる権利(会員制カーシェアリングみたいな感じ)を手に入れたので、さっそく訪れました。
権利について説明を受ける数分の間に、「真冬はとんでもなく寒いうえになにもできることがないので、絶対にオススメしません」と、五回は言われました。が、別荘ハイの勢いで思い立ったその日に来てしまいました。
無計画万歳!Adventure!

 車を走らせること約二時間。聞いていたとおり、見渡す限りに水平線の続くオーシャンビューが最高なロケーション。青々とした芝生で覆われたBBQ設備のあるお庭。周辺はまばらに民家があるばかりの真っ暗な地上に反比例して、夜の蓋を開けたように明るく瞬く幾千の星々にはしばし見惚れましたが、外気温マイナス六度に加えて吹きすさぶ海風にあえなく退散。

 うーん、本当になにもできない。素泊まりだし、ネット回線なんてありません。こんなこともあろうかと持ってきたモバイルWi-Fiは、圏外。リビングに唯一置かれたソファに腰かけて思いました。「こんなところまで来て、なにをしているんだろう?」と。

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 前置きが長いですね。そう、考えることくらいしかすることがない現代社会において最も贅沢な時間(私は「別荘」を理解しました)を手に入れて思ったわけです。「ところで、ワープスペースってなにをして――しようとして――いるんだろう?」と。もちろん「あなたの勤め先はどんなことをしている会社なの?」と問われればそつなく紹介できますが、正直なところ、技術面はちんぷんかんぷんです。それ故に「なんとなく分かっている気がする」で済ませている部分がありました。

 ということで、技術面はちんぷんかんぷんな私が恥をしのんで「なんとなく分かっている気がする」から「こういうことです」となるまでワープスペースを紐解きます。そして、断っておかなくてはなりません。この事業はワープスペースの全霊をもってつくりあげている真っ最中で、より素晴らしいものを追い求めて日々ブラッシュアップされていますが、この記事は2020年12月時点の内容に準拠しています。

ところで、「人工衛星」ってなんだ?

 初っ端からすみません。人工衛星すら「なんとなく~」なレベルでした。そういった用語をまとめますので、「人工衛星はあの金ピカの巨大な箱でしょ?軌道って人工衛星が飛んでるとこだよね?」な同志の方はご参照ください。

【人工衛星】人工天体のうち、目的をもって(与えられて)惑星の軌道上に存在するもの。主な目的は通信・軍事・放送・観測など多岐にわたり、大きさは一辺10cm~数十mまで様々なものがある。
ワープスペースが製造する人工衛星は通信を目的としている。
以下の写真は弊社が開発した赤い衛星

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【地上局】人工衛星と通信を行う地上に設置する設備。人工衛星と地上局の双方向通信が可能。人工衛星からの電波を地上で受信し、人工衛星の状態や観測したデータを把握する。また、地上から人工衛星に電波を発信し、人工衛星に命令する。
【衛星コンステレーション】ある目的の為に複数の人工衛星を連携させて機能するシステムのこと。コンステレーション=英語で「星座」という意味。ひとつの人工衛星が地上と通信できる範囲には限りがあり、一般的に人工衛星は大きくなるほど費用がかさむ。そこで、巨大な人工衛星ひとつで賄おうとせずに多くの小さな人工衛星を軌道上に並べて連携させることでコストパフォーマンスと視野を向上させる手法。つまるところ、バケツリレー。
弊社が計画している衛星間光中継システムも、三機の衛星によって構成されるため、コンステレーションと言えます。以下イメージ図。

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【軌道】点P(人工衛星など)に惑星などの重力と遠心力とが作用して、点Pが動いた軌跡を繋げた概念上の道筋のこと。
【地球周回軌道】点Pに作用する地球からの重力と遠心力がいい感じにバランスすると、点Pは地球を周回する。バランスするポイントは複数あり、バランス具合によって地球との距離が変動する。ワープスペースの事業で使用するのはその内のふたつで、地球との距離が近い順に低軌道、中軌道と呼ぶ。
【低軌道】最も地球と近いため、より少ないエネルギーで人工衛星を打ち上げられる。リモートセンシング(主に人工衛星などで宇宙から地球の表面を観測すること)でより解像度の高い画像を得られるなどのメリットがある反面、地上の一点から見ると人工衛星が常に移動している上に地球との距離が近く可視範囲が小さいため、連続的に通信が出来ないなどのデメリットがある。最も使用されてきたため、スペースデブリが多い。
【中軌道】近すぎず遠すぎず、低軌道と高軌道の間の特徴をもつ。地上の一点から見ると人工衛星が常に移動している。低軌道よりも遠いためリモートセンシングには向かないが、地球から離れると可視範囲が大きくなるため、より少ない数で効率的に衛星コンステレーションを構築できる。

ワープスペースってなにをしているんだろう?

 ワープスペースは茨城県つくば市にあるベンチャー企業です。掲げるのは「小型人工衛星による衛星間光中継衛星コンステレーションの実現」、ただひとつ。ワープスペースという企業はそれだけのために存在し、ワープスペースに集まった者はエンジニアのみならず全員がそれだけを見ています。

「小型人工衛星による衛星間光中継衛星ネットワークの実現」ってなに?ですよね。分かります。かみ砕いて言うと「中軌道上に三基のワープスペースの人工衛星を配備し、データを中継することで、低軌道上を周回する人工衛星(以下、低軌道衛星)が地上といつでも大容量のデータをやりとりできるようにします!」です。

 低軌道衛星と地上との間で行う通信に広く使われている方法は、重大な課題をふたつ抱えています。まずひとつは、「効率が悪いこと」です。低軌道衛星は可視範囲が小さいうえに、およそ秒速8キロメートル(なんと、およそ90分間で地球を一周してしまう)という驚異的な速さで周回しています。そのため、およそ90分おきにわずか数分間しか地上と通信ができません。そして、低軌道衛星が海の上を通っている間は通信ができません。海は地球のおよそ七割を占めているというのに!

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 もうひとつは、「時間がかかること」です。通信速度が遅いことはもちろんですが、通信を行う以前にある問題です。低軌道衛星と地上との間で通信を行うためには、あらかじめ人工衛星一基ごとに対象の周波数帯を利用するための手続きをし、許可を得なければなりません。その手続きには少なくとも数か月間を要します。人気の周波数帯を使いたければ、手続きだけで数年間かかる場合も珍しくありません。また、通信に使用できる周波数帯は有限で、昨今の爆発的な人工衛星の増加に対応できず枯渇の一途にあります。

 ふたつの重大な課題は、宇宙産業の発展において深刻なボトルネックとなっています。「中軌道上に三基のワープスペースの人工衛星を配備し、データを中継することで、低軌道上を周回する人工衛星(以下、低軌道衛星)が地上といつでも大容量のデータをやりとりできるように」することで、これらの首を広げてやろうとしています。

 低軌道すべてを光通信の通信可能範囲に収められるように三基の光中継人工衛星を中軌道に配置すること(小型人工衛星による衛星間光中継衛星コンステレーションの実現)で、低軌道衛星はいつでも高速の光通信を利用できるうえ、周波数帯の利用手続きの負担をも大幅に軽減することができるのです。

 低軌道衛星の通信環境が向上することは地球観測産業の発展に直結します。たとえば、地球表面を観測できる頻度が上がり、低軌道衛星から地上に送れるデータ量は増加します。より高い精度の、より良質な情報を得ることが出来るようになるでしょう。地球観測産業が発展すれば、次は地球観測データを利用する様々なセクターへ、その次は様々な産業へと発展の波は広がり、地球上すべての経済圏の発展に貢献することができると考えています。

 2020年はたいへん多くの方々に応援をいただきながら、小型人工衛星による衛星間光中継衛星コンステレーションの実現に向けて少しずつ、確実に進んでまいりました。2021年も、その先もワープスペースをよろしくお願いします。

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