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ワープスペース顧問インタビュー vol.1 出井伸之 氏

『「通信インフラ」の未来が、海底ケーブルから宇宙の低軌道衛星に代わることに興味をもった』

ソニーの会長兼グループCEOを退任後、2006年にクオンタムリープを設立した出井伸之氏。大企業の変革支援だけでなく、ベンチャー企業への育成支援活動も積極的に行っています。
その出井氏には、ワープスペースのアドバイザリーに参画していただいています。出井氏はワープスペースの「低軌道衛星向け通信インフラ事業」に興味を持ったとのこと。ベンチャーを支援すると意義、ワープスペースへの想い、そしてこれからの宇宙ビジネスの可能性について、お話しを伺いました。

出井伸之(いでいのぶゆき)
クオンタムリープ株式会社 代表取締役 ファウンダー&CEO
1960年、早稲田大学政治経済学部卒業後、ソニーに入社。スイスに駐在し、ソニーフランスの設立など、主に海外事業に従事する。帰国後、オーディオ、コンピュータ、VTRなどの事業本部の責任者を歴任したのち、1989年、取締役就任。1995年から2000年まで社長兼COOとして、2000年から2005年までは会長兼グループCEOとして、約10年にわたりソニー経営のトップを担った。
2005年6月にソニー会長兼グループCEOを退任後、2006年9月にクオンタムリープ株式会社を設立。現在、ファウンダー&CEOとして、大企業変革支援やベンチャー企業の育成支援活動を行っている。

50年経っても、ベンチャー企業の悩みは変わらない

─出井さんは、ベンチャー企業の育成支援活動も行っていると聞いています。
出井:10月上旬に、ベンチャー企業数社を連れてパリに行きました。ここ数年、リアルを見に現地にいく会員限定のオブザベーションツアーを開催し、ベンチャー企業をや大企業の人たちも参加しています。(2018年、中国・深圳、2017年、イスラエル、2016年、シリコンバレー)今回はフランスで、あるプロジェクトのローンチイベントがあって、僕は日本側の共同議長として登壇しました。
クオンタムリープでは、日本にイノベーションを起こしていくため、ベンチャー企業の支援育と大企業の変革のためのエコシステム「アドベンチャービレッジ」を創り、日本だけでなく世界を巻き込みながら、日本にムーブメントを起こそうと考えていてね。共同議長に就任したのもその一環としての活動なのです。
毎年、リアルを見に現地にいく会員限定のオブザベーションツアーを開催しベンチャー企業をや大企業の人たちも参加しています。(※)。


─日本のベンチャー企業はいかがでしょうか?
出井:日本のベンチャー企業は、銀行ベースのシステムに乗るしかないからなかなか難しいよね。資金は銀行から借りなければいけない。そのため、財産を保険に入れて担保にするしかないからね。じゃ、ベンチャーキャピタルは、といえば金融会社のようなものが多いですしね。


─ベンチャー企業の課題は資金的なこと?
出井:会社を設立したばかりのころはお金が入らず出て行く一方。成長するためには資金が必要ですからね。クラウドファンディングのような一般の人から直接、投資をしてもらうような仕組みもあるけど、金額に上限もある。僕がソニーに入ったときに経験したことと同じようなことでベンチャー企業は苦しんでいるよね。

─ベンチャー企業の気持ちがよくわかるということですね。
出井:ベンチャー企業の悩みは50年経っても何も変わっていません。僕で役に立てるなら、いろんなアドバイスをさせてもらっています。

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ベンチャーにだって波がある。常に健康でいるのは難しい

─出井さんは1960年にソニーに入社しましたが、「ソニーはいわばベンチャー企業でした」とおっしゃっていますね。
出井:そうです。売上100億円程度のやっと成長期にのりかけた会社です。1958年に東京通信工業からソニーになったころ、銀行に融資を頼んでもすんなりとは行かなかったそうです。そのころ僕は大学生でした。
当時、僕が持っていたラジオは、ミニチュアの真空管でできた、大きなものでした。そんな時代にソニーは、半導体のトランジスタラジオを開発して、すごく小さなラジオを販売しだしたんです。まさにベンチャー。僕は「なんだこの凄いのは!」と思った。それでソニーに入ることにしたんです。半導体技術の未来が見えたのでね。


─そこから失敗も多かったのだとか。
出井:失敗なんて当たり前。失敗の連続ですよ。自分のことを考えてみれば、調子の良いときもあれば風邪をひくこともある。お腹を壊すこともある。すべてが上手く行くなんてありえないでしょ。それはベンチャー企業も同じ。「常に健康でいろ」という投資家はどうかしていると思いますね(笑)。

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夢を語るのがベンチャーのいいところ

─ワープスペースを知って、どのよう感想を持たれましたか?
出井:Forbes JAPANの副編集長、谷本有香さんがクオンタムリープのランチ会に、ワープスペースの常間地悟さん(取締役CEO)を連れてきて紹介されたのが最初でした。そこから何度か面会しました。丁度、宇宙関連事業に興味があって、いろんな本を読んでいたときなんですよ。クオンタムリープでは毎月、勉強会を開催しているんだけど、宇宙事業の会社を3社ほどゲストにディスカッションをしたことがあります。

─ワープスペースのどこに興味を持たれたのですか?
出井:ワープスペースがやっているいくつかの事業があるんですが(低軌道衛星向け通信インフラ事業/小型衛星用モジュール開発事業/衛星関連技術移転事業)、僕が一番、興味を持ったのは、「低軌道衛星向け通信インフラ事業」。要は、人工衛星によるインターネットだね。ただ、常間地さんのビジョンは実現するのは難しいだろうなとも思いますがこれからですよね。でも、夢を語るのがベンチャー企業のいいところですしね。

─「低軌道衛星向け通信インフラ事業」に興味を持たれたとのことですが、どのような可能性があるとお考えですか?
出井:今まで通信インフラは海底にケーブルを引いていたわけでしょ。それが宇宙となると考え方が全然違ってくるよね。世界を低軌道衛星で結ぶのは実に面白いと思います。実現すれば全世界に?人は大勢いるでしょうしね。

─ビジネスは成功するとお考えですか?
出井:宇宙ビジネスはすぐに成功するものではないでしょう。ただ、具体的なビジネスを考えているようなので、実験はしやすい。世の中のニーズともあっているからその意味では面白いと思う。とはいえ、一生懸命にやっているから成功するというものでもないからね。今後、さまざまなトラブルがあると思いますよ。でも、それを乗り越えて行くことが面白いんです。

─成功しそうだから支援する、ということではない、ということですね。
出井:銀行なら成功するかどうかを数字を見て判断するかもしれないけれど、計画的な数字がないのがベンチャー。数字のあるベンチャーなんてありえないですよ。

─では、支援しようと考える基準はなんなんでしょう?
出井:何かの真似ではなく、これからの時代に必要なものだということ。僕が興味を持つことが実現し、世の中の需要にマッチしていくのは面白いですよね。

─温かく見守ると?
出井:ベンチャーは失敗することもあるからベンチャーというんですよ。元々は、アドベンチャー(冒険)からきているのだから。冒険しようとしている人が「失敗してはいけない」と言われたら冒険はできませんよ。

─ワープスペースにアドバイザリーとして参画されて、どのようことをしようとお考えですか?
出井:ひとつの理論的可能性を実現していくのがベンチャー企業。僕の知見が役立つのならと思っています。いろんなネットワークを活用して協力できることはあるんじゃないかな。ベンチャー企業はみんなで育てないといけないよね。僕のモットーに「伸びるベンチャーは面倒がかからない」というのがあるんです。よいチームワークで外に迷惑かけず何もしないで勝手に大きくなるというのが、よいベンチャーなのです。

─ワープスペースも面倒がかからないようにしないといけませんね(笑)。
出井:でも、会社は成長すればするほど、問題が大きくなって行くものです。そんなときは、僕の経験からアドバイスをしたいと思っています。

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宇宙への興味はUFO研究家のひと言が切っ掛け

─宇宙ビジネスに興味があったのですか?
出井:僕は2000年に刊行した『混迷の時代に―ネットワーク社会の遠心力・求心力』(ワック)で、松井孝典さん(惑星科学者、東京大学名誉教授、宇宙政策委員会委員長代理)と「人間圏のビッグバン」というテーマで宇宙について議論したことがあるんですよ。宇宙ビジネスはどこの国でも基本的には「軍事目的」。ところが日本のベンチャー企業は軍事が目的ではない。そこが良いと思っています。


─「宇宙」そのものに興味を持たれた切っ掛けはなんですか?
出井:日本でUFOを研究している人がいてね。ソニー時代にその人と会ったとき、「UFOを見たことはありますか?」と聞いてきたんだ。「ないですね」と答えると「あなたは空を見たことはありますか」というから「見たことないですね」と返事すると「だったらUFOは見れるわけはないですね」とからかわれてね。「そりゃ、そうだ。たまには夜空も見に行こう」と思って、軽井沢に行った時に星を見るようになったんです。空を見なければUFOを見ることもない、これは他のこと、ビジネスにも当てはまるんですよ。見るものを見ないとね。

─で、UFOは見れました?
出井:いや、見れてないね(笑)。


編集:潮田沙弥
インタビューライター:大橋博之


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