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意味が分かると怖い話~いじめられていた子~

 俺は小学校の先生だ。今までに何個もの学校に勤めてきて、先生歴はざっと二十年。自分で言うのもなんだが、この学校の中で一番プロだと思っている。だが、そんな俺にも『無理な問題』という物がある。それが今回のような場合だ。
 俺と彼——佐藤漣は、机を挟んで座っていた。夕暮れ時の学校で、他の生徒は皆帰宅している。だが俺は『この問題』を放置するわけにはいかなかった。漣のスケジュールに影響が出てしまうかもしれないが、この際仕方ない。
 俺は漣の瞳を見つめて言った。
「お前は、どうしたいんだ? お前がアクションしない限り、いじめは良くならないんだぞ」
 場に、沈黙が流れる。俺はあえて沈黙を守り、漣の意思で返事をさせようと試みた。
 気まずくなった漣は、視線を逸らしてカッターと紙が乗った机の方を眺める。が、そんなことも気にせずに見つめていたらとうとう漣が、諦めたように話し出した。沈黙は三十秒前後で終わった。
「僕は日々、暴力や悪口に耐えてきました。でも、それももう限界なんです。どうしたらいいですか、先生」
 そうだ、それでいい。俺は静かに微笑んだ。
「まずはいじめっ子の意思を感じることだ。何故、漣の事をいじめているのか。嫌がらせか、ただの八ツ当たりか。これは非常に重要な要素となる。だからいじめっ子の事を良く知って……」
「あの糞みたいな連中の事を知れと?」
 突然漣の口調が変わったので、俺はひるんだ。が、ここで会話を終わらせてはいけない。俺は漣を救わなくてはならないんだ。
「え……いや、そういう意味じゃなくてだな。リサーチが大事なのだと……」
「もういいです! ほっておいてください!」
 漣は勢いよく立ち上がり、教室から出て行ってしまった。
 「ちょっ……待て!」
 その背中を追うようにして俺も立ち上がり、教室から出た。が、そこにはもう漣の後ろ姿は無かった。
「見失ったか……」
 ため息が口を継いで出る。何が悪かった? 漣の事を良く知らなかったことが原因か? いや違う、俺は彼のカウンセリングを一日一回行っている。それで『無知』というのは考えにくい。じゃあなんで……
 ふと机の上を見る。そこには乱雑に置かれた白紙が乗っているだけだった。漣が持ってきた紙だ、届けてやらないと、俺は直感的にそう思い、思考を辞めた。
「待ってろ、漣。今届けに行くからな……っと、その前にトイレトイレ……」
 俺は独り言を呟くと、トイレに向かった。教室を出てすぐのところにあるのでありがたい。
 俺がトイレに近づくと人感センサーが反応して、電気が点いた。このまま漣の心も照らしてくれたらいいのに……とさえ思った。
「ああ、集中して話してたから尿意を忘れてた……危ない危ない」
 尿を済ませてトイレから出る。どうやら先客がいたようで、個室は一つ分しまっていた。
「よし、探すぞ」
 まぁ、見つからなかったが。
                ※
≪解説≫
 話の要点を絞ります
①漣はいじめられていた
②トイレに入った時、センサーによって電気が点いた
③トイレの個室が一つ閉まっていた(➡中に人がいた)
④他の生徒は皆帰宅済み
 以上です。特に重要なのは②と③でしょうか。センサーによって電気が点いたという事は(②)トイレ内で『動くものが無かった』という事。しかしトイレの個室は一つ分しまっていました(③)。これはトイレの中に入っている人物が『動いていない』という事を示します。そして時間は夕暮れ時で、生徒は皆帰宅している(④)……つまりこれは中に入っているのが漣であるという事を示します。
 残りはもう簡単ですね。漣は恐らくトイレの中で自殺をし、成功したのでしょう。動機は①です。
 余談ですが、机の上に乗っていた物、最初は『紙とカッター』でした。がしかし漣が去った後は『紙だけ』になってますね。自殺の手法はカッターによる多量出血死でしょう。

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