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意味が分かると怖い話~百人で~

 僕はいじめられていた。探せばすぐに見つかってしまうような、よくある弱い物いじめ。内容は単純で、殴る・蹴る・冷やかし金品の強奪といった具合。お陰様で体中がつねに傷だらけ、毎日保健室に通わざる負えない状態。
 何度も死にたいと思ったが、自殺をする勇気は無かった。もういっそ、誰かに殺してほしいとさえも願った。だけど先生も母さんも、いじめを見ても見ぬふりをして押し通す。
 だから小学生の僕は、来年入る中学校で仕返しをしようと考えていた。その間約半年、練りに練った。悲しい事に僕は『相手の立場になって考える』ことが出来てしまったので、自分の精神的に最もきつかった暴力が関連する内容は入れず、かつあいつが苦しむような内容に仕立て上げた。行き詰った時は憎いあいつの発言を思い出し、憎しみを糧にアイデアをひねり出した。
「アハハ、お前、悔しくないのか? 仲間外れにされてさァッ! 悔しいなら殴り返してみろよ! できないだろ! そうだろうなぁ、お前みたいな『良い子ちゃん』には無理だろうなぁ。でも、俺は出来るぜ。ほら!」
 そう叫びながら校舎裏で目立たない場所を狙って叩いたり、蹴ったりしてきたあいつの醜い笑顔。この世で最も恐ろしかった瞬間。その一瞬を糧に僕は考えた。
 そして肝心な仕返しの内容は、『中学校であいつを含めた百人と友達となる』となった。要約すれば童謡の『一年生になったら』のおにぎりのくだりまでを実践するとも言えるだろう。そして、あいつだけ『特別な一人』にするのだ。あいつは、いじめに対する後ろめたさを抱えながら親友を演じ続ける。そうじゃなきゃ、友達が減って行ってしまうから。
 卒業式の日。いじめてきたアイツは今日もしっかりと僕を呼び出して、殴ってきた。誰もが皆、気づいてる筈なのに無視を決め込んでいる。もう、慣れてしまった。
 とうとう迎えた入学式の日。僕は笑顔で迎えた。まずは、『友達百人作る』所からだ。卒業式から入学式までの一カ月で僕は、『友達の作り方』を学んでいた。
 困っている人がいたらすぐに助けてあげること、極力笑顔でいること。差別的にならないこと、先生や目上の人からはある程度嫌われておくこと。
 これらの事を常に意識したお陰で、わずか一か月で俺の周りには『九十九人の友達』の友達ができていた。記念すべき百人目は、もう決めてある、憎くて堪らなかったアイツ。アイツと『親友』になって、いじめていた時への後ろめたさを嫌という程感じさせてやる。
 もしもアイツが謝罪してきたら、『何の事? ああ、いじめてきたあの時の事。あの時は死にたいと思ったけど別にいいよ』と笑顔で言ってやる。後ろめたさを抱えて中学生活を過ごしてしまえばいい。
 そして俺はアイツと友達になり、作戦は成功した。……が、思っていたほどアイツは賢くなかった。俺が『別にいいよ』と言ったら、先程のような前置きがあったにも関わらず完全に後ろめたさを感じなくなったのだ。これでは復讐の意味がない。
 俺はとうとう復讐の最期を実行することにした。俺と友達、百人で中学校の校舎の裏へ行き、おにぎりを食べるのだ。
 代り映えしない校舎裏の景色ではみんな退屈するだろうから、先に手を打って、少し怖い余興を用意しておいた。
≪解説≫
 まず初めに皆さん、『一年生になったら』という童謡を知っていますか? 知っていることを前提にこの話を進めます。
 まずこの話の主人公(彼、とします)は九十九人といじめっ子、あわせて百人の友達を作りました。そして彼は校舎裏にて『百人で』おにぎりを食べます。しかし、彼の友達と彼自身、あわせると百一人です。一人、減っていますよね。恐らく減った一人はいじめっ子のアイツでしょう。そして恐らくアイツは死んでいます。
 それは何故か? 最後に彼は『怖い余興』を『校舎裏』に用意しました。校舎裏は彼がいじめられていた場所。ケリをつけるにはもってこいです。『ホラーな余興』とは血の跡などでしょう。最後彼は、復讐の『最期』を行っていました。『最期』って、誰かが死ぬときに使う言葉ですから、彼は死んだのでしょう。そしてこれを裏付けるのが、彼がいじめられていた時に『死にたい』と思っていましたという事です。相手の立場に立った時に、他殺は望むものとなっているので殺したのはつじつまが合います。
 ここから先は決定的ではない話です。皆さん、語り手の口調が段々と厳しくなっているのに気が付きましたか? 一人称が『僕』から『俺』に。『仕返し』が『復讐』に。『あいつ』が『アイツ』に。彼は憎しみで段々と病んでいったのかもしれません。
≪行動の要約≫
 ・主人公は最後にいじめっ子を殺した。
 ・主人公は段々と病んでいった。
≪理由の要約≫
 ・人数が(百人+一)なので最後の所で一人減っている。
 ・主人公の口調が段々ととげとげしいものに変わっている。

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