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アメリカにおけるUFO問題への取り組みの変化(4)

2011年6月、元大統領首席補佐官ジョン・ポデスタは彼が設立したシンクタンク「センター・フォー・アメリカン・プログレス」での内密に行われたプレゼンテーションにレスリー・キーンを招いた。

キーンは、ジョンズ・ホプキンス大学の物理学者や外国の軍関係者らと共に登壇し、NASAやペンタゴン、運輸省、議会スタッフ、退職した情報機関関係者らからなる聴衆を前に、UAPを神話や疑似科学とする説を補強してきた50年を取り戻すことが課題であり、UAPを専門に調査する機関が必要であると説いた。だが、何人か議員が興味を示したものの、表立った動きはなかった。

2012年3月に彼女は、チリ政府のCEFAA(Comité de Estudios de Fenómenos Aéreos Anómalos 異常航空現象研究委員会)から提供されたヴィデオを紹介する「UFO Caught on Tape Over Santiago Air Base(サンティアゴ空軍基地上空で撮影されたUFO)」という記事を書いた。このときまでにキーンはUFOの世界では世界的に知られた人物になっており、CEFAAとも友好的な関係を築いていた。

2014年8月、キーンはホワイトハウスを訪れ、当時オバマ大統領の顧問をつとめていたポデスタと再会した。彼女はこの頃には政府への要求のレベルを引き下げて、科学技術政策室の誰かひとりにこの問題を担当させることを提案していた。だがこのときも反応は全くなかった。

2017年10月4日、キーンは元情報担当国防副次官補のクリストファー・K・メロンの招きにより、ペンタゴン近くの高級ホテルのバーで行なわれた内輪の会合に参加した。長年超常現象を調査してきたハル・プットホフと元CIA職員のジム・セミヴァンに迎えられたキーンは、ルイス・エリゾンドという、がっしりとした体格で首が太く、きれいに切り揃えたやぎひげをたくわえ、刺青を入れた男を紹介された。

Luis Elizondo

彼はその前日、ペンタゴンでの最後の勤務を終えたばかりだった。それから3時間ほどかけて、キーンは、1970年に「ブルーブック計画」が終了して以来初めて政府がUFOを調査したことを証明する資料を見せてもらった。彼女が何年もかけて政府に働きかけてきたプログラムは、もうすでに存在していたのだった。

エリゾンドはペンタゴンを辞任した直後に、ポップパンクバンド「ブリンク182」の元フロントマン、トム・デロングが立ち上げた「To the Stars Academy of Arts & Science(トゥ・ザ・スターズ芸術科学アカデミー)」に参加した。メロン、プットホフ、セミヴァンらもこれに続いた。

デロングは長年UFOへの関心を公言しており、周囲からも熱心にすぎるとみなされていたが、とうとうこの問題に専念するようになり、元政府高官や民間の下請企業など、UFO機密プログラムのカギを握る要人たちと接触を重ねていた。そこでデロングが築いた人脈はもはや、ミュージシャンの余興や冗談で済まされるレヴェルを遥かに超えた次元のものになっていたのである。

エリゾンドは「トゥ・ザ・スターズ芸術科学アカデミー TSAAS」のイヴェントで、「米国政府の本物のシステムから、かつて一度も公開されたことのない映像を──ぼやけたアマチュアの写真ではなく、本物のデータと本物のヴィデオを提供する予定である」と宣言した。

キーンは、もし『ニューヨークタイムズ』(NYT)に記事を載せられるなら、ヴィデオを証拠保全証明つきの資料と共に提供しようと言われた。
そこで彼女は、旧友であり、NYTの記者だったこともあるラルフ・ブルメンタール(当時彼はハーヴァード大学の精神科医で宇宙人による誘拐を研究しているジョン・マックの伝記を執筆中だった)に電話をかけた。ブルメンタールはNYTのエグゼクティヴエディターであるディーン・バケットにメールを送り、「センセーショナルで極秘でタイムリーな記事」を売り込みたいと伝え、さらに「先月突然辞職したアメリカの情報高官」が、「長い間神話化されてきたが、今回その存在が確認された極秘プログラム」について暴露することを決意していると書いた。NYTはワシントンDC支局の担当者らとの会議を経て記事の掲載に同意し、キーンとブルメンタールの協力者として、ヴェテランのペンタゴン担当記者ヘレン・クーパーを充てることにした。

2017年12月16日土曜日、彼女らの記事「輝くオーラと “ブラックマネー”:ペンタゴンの謎めいたUFOプログラム」がオンラインで発表され、その翌日、新聞(印刷版)の1面に掲載された。記事には、2004年11月にニミッツ空母打撃群が遭遇した「flir1」を含むふたつのヴィデオが添付されていた。

ペンタゴンは、この記事で暴露されたプログラムが存在していたことを認めたが、他の優先事項に資金を回すため既に12年に閉鎖されたとコメントした。これに対してエリゾンドは、専用の資金がない状態でもプログラムは継続していると主張した。

この記事の焦点は、UFO現象が本物であるかどうかではなく──実際の事件で多少とも取りあげられていたのは「ニミッツの遭遇」だけだった──秘密裏に行なわれている政府の取り組みの存在を明らかにすることにあった。

NYTのこの記事は何百万人もの読者を集め、キーンはすぐにその効果を実感した。ディナーパーティで職業を尋ねられていつものように彼女が答えても、もう忍び笑いする人はおらず、みな熱心に話を聞いてくれるようになった。

キーンは、表に出てくれたエリゾンドとメロンのおかげだとしながらこう語った。「まさかニューヨークタイムズに記事を書く日が来るなんて想像もしていませんでした。これはわたしがやりたいと思ってきたことのまさに頂点であり、この素晴らしい道の、素晴らしい旅の途上で起きた奇跡です」

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