見出し画像

「小説」と「事実」が近づいている(僕とシルポートをめぐる「その後」)

ここ数カ月は何もスポーツがやっていない状況だったので、必然的に前のめりで見るスポーツニュースというのは、競馬関連のものになる。
週末に開催されている競馬ニュースはもちろん、平日に開催している地方競馬のニュースも拾い集めていた。オリンピックが終わったら、秋休みでも取ってどこか旅打ちでもしようかな? などと年明けに考えていたような……。

あるネットニュースに目が止まった。ダービーのニュースだった。

https://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=172127&rf=kslp

5月の終わりから6月の頭にかけて、全国各地の競馬場で3歳馬の頂点を決めるダービー競走(※人間でいうところの、インターハイとか甲子園みたいなもの)が行われている。
金沢競馬場は特に馴染みの無い場所だ。まだ訪ねたこともなければ、馬券も買ったことがない。
ただ、勝ち馬のプロフィールを見て、馬券を買っておけばよかった! と僕は後悔した。ハクサンアマゾネスという馬の父親が、シルポートだったからだ。

   ◆

シルポートといえば「大レースに出てきては、ハイペースの逃げでひっかきまわす(そしてバテて大敗する)逃げ馬」として覚えている競馬ファンも多少はいるだろう。一流の馬ではなかったが、時にその逃げっぷりが幾多の名勝負をアシストしていることもあり、僕も馬券とは別の観点で応援し続けていた。そして、そんな彼をいつか文字の世界でフィーチャーできないか? ということも考えていた。

その機会は2017年の2月にやってきた。日本独立作家同盟が主催する「短期集中型創作イベント」ことNovelJamが開催され、書き手の一員として僕はエントリーされたのだった。この大会は編集者と作家がペアを組み、最も優れた作品(電子書籍)をつくったのは誰か? を競うものだ。
そこで編集者に提案した。競馬小説が書きたい、かつ、このシルポートという馬に焦点を当てるのはどうか、と。
プロットはすんなりと了承され、かれこれ2日間集中力を研ぎ澄まし、僕はシルポートと、その馬をめぐる父と娘の物語を書き終えた。

https://bccks.jp/bcck/148610/info

さて、この作品の結果は……何の賞にも引っかからなかった。
その結果以上に、僕はこの作品を受け入れられることができなくなっていた。というのも、順調に書いていたのだが、最後の最後で編集者と亀裂が生じていたのだ。「競馬のリアリティを書きたい人間」と「小説としてのエンターテイメント性を追究したい人間」。どっちつかずに終わったが故の、必然の結末だった。

   ◆

あれから1年。再びNovelJamを開催するというお知らせが来たので、応募したところ「編集役」として参加することが決定した(その経緯も色々あったのだが、今日は割愛)。
改めて大会に参加するにあたっては、これまでの未練を断ち切る必要がある。そう考えた僕は、久々に自分が書いた小説を読み直した。色々なことを思い返しながら、「逃げ残り」と改題してnoteに掲載することにした。

https://note.com/waratas/n/n69a24d5a6058

その中で、設定についても1つ手を加えた。当時の自分が残した、改稿理由を記した文章から引用する。

(初稿版は)ストーリーの組み立てに力を入れすぎるあまり、競馬的なリアリティを深めることができていませんでした。
例えば、とあるシーンでヤトミさんは「シルポートの子供がレースに出るよ」という会話の一文があります。しかし、馬の寿命やシルポート自信の能力などを考えると、30年後にシルポートの子供が走るというのは非常に難しい設定です。競馬ファンが読むと「あら?」と思うことでしょう。
なので、ここは「母の父がシルポート(という馬がレースに出る)」ということにしました。というか、「母の父」のほうが競馬的にも、ストーリー的にもしっくりしたなあ…と思いました。

https://note.com/waratas/n/n437eacc8166b

   ◆

さらに時が流れて、2020年6月。僕は「ハクサンアマゾネスが石川ダービー優勝」という記事を目にしたのである。
弱肉強食な競馬の世界で、シルポートという強くない馬でも、血を残せるかもしれない。かつ、ハクサンアマゾネスは牝馬だ。これだけの実績を残しているので、無事であれば繁殖牝馬として繋養されるだろう。

となると、僕が書いた小説の通りに、いつの日か「母の父シルポート」という競走馬が出てくるのではないか?

僕が現実的な設定に小説を書き直したからなのか。それとも、シルポートやハクサンアマゾネスが、僕の小説にリアリティを補ってくれているのか。

どちらにせよ、僕はようやく、自分が残した小説に自信を抱けた。そして、まだまだこの物語を、残し続ける責任があるのだ

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)