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"史上最高の回"だった2019年M1グランプリを振り返る。


今日は『THE W』だっていうのに、M1グランプリについて書きます。


2019年M1グランプリは放送直後からお笑いガチ勢界隈では

M1史上最高の回


と呼び声が続々と上がるほどの盛り上がりぶりと出来の良さでした。


そしてここへ来てM1運営側も2020年M1グランプリのPRを兼ねて2019年の回を「史上最高」と広告を打ち込みました。自他共に認められた去年のM1。

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ここまでお笑い界隈が「史上最高!史上最高!」と声を大にしたこともあり、ここ数年のM1と比べても話題性が大きく、リアルタイムで見てなかったライト層もYouTubeなどから漁って見るぐらいの活力は使ってくれたことでしょう。鬼滅の刃程じゃないけど、そこまでのムーブメントをもたらしてくれました。

普通に考えたら、そんなM1特需を今回は最も影響を受ける事が予想されます。今年は関東地区でも視聴率20%以上は堅いんじゃないかな。

とか思っていたら、

フジテレビが12月20日に、社会現象を起こしているアニメ「鬼滅の刃」の特別編集版の第3弾「柱合会議・蝶屋敷編」(午後6・59)を放送する。テレビ朝日系が「M-1グランプリ決勝」(後6・34)を放送する真裏にぶつけたことでも話題となっている。

ヤリやがったぜフジテレビさんよぉ。。。けれど、こういった対決構図を作ってくれる事で鬼滅の刃勢からM1勢(お笑いガチ勢)に取り込むチャンス!鬼滅の刃勢の意思ってチョロいでしょ?

そんなチャンスを逃すまいと、M1運営陣はちゃんと2020年M1グランプリのPRを着々と打ち込んできました。

もうさ、ブランディング力が圧倒的だよね、M1って。こんなカッコいい動画とキャッチコピーとCreepy Nutsを起用するセンス。センスだよ、マジで。出囃子をFatboy Slimの『Because We Can』にしてからずっとセンスが朽ち果てることなく今に至ってるよ。

キングオブコントは差別化を図るために色々と試行錯誤してるのは良いけど、やっぱりM1のブランディング力がエグいよね。R1とTHE Wのブランディング力は今のところお話にならないよ。



という事で、今回は「なぜ2019年M1が”史上最高の回”」と呼ばれるようになったのか、について書いていきたいと思います。


最高だった理由をザックリすると、3点です。


・決勝進出者の漫才のレベルが例年以上の出来だった

・披露順と流れがパーフェクト

・圧倒的な最有力候補「和牛」の行く手を2度も阻む、というドラマ性


一つ目の漫才のレベルの高さ云々は人によって見解がまるで違うだろうし、説明するにも難し過ぎるので今回は触れません。2つ目から事細かく書いていきます。


【注意】まだ2019年のM1を見てない方は、先に見た方が良いです。Amazonプライムで見れますよ。




披露順と流れがパーフェクト

順を追ってファイナリスト達が果たした役割について書きます。

トップバッターの「ニューヨーク」は爆発するのが難しい歌ネタを披露したが故に、点数はイマイチだった。しかし、ツッコミの屋敷が松本人志に悪態ついてハネたので、重たい空気が一蹴された。

有力候補の「かまいたち」が期待通りの高得点を叩き出す

本来最有力候補だった「和牛」が敗者復活戦から復活し、披露。ここでも期待通りの高得点を叩き出す。

飛び道具枠の「すゑひろがりず」が王道で優勝候補な前2組とは比べにくい風変わりなネタを披露。

吉本若手のホープ「からし蓮根」。全体的にウケは少なめだったが、終盤に大ウケする件があったので、流れを切らすことなく次へ繋いだ。そして何故か上沼恵美子が和牛に辛辣なコメント。

⑥2年連続決勝進出で安定感のある「見取り図」。要所要所キラーワードで会場を湧かして上位3組に入る。

⑦今大会1、2を争う程の無名だった「ミルクボーイ」。えげつない会場のウケ。そのウケに比例して史上最高得点を叩き出す。

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東京スタイルの「オズワルド」。王道のしゃべくり漫才だが常にロートーンな掛け合いでこれまでの関西弁を使うコンビとは一線を画すテイスト。ミルクボーイという名の台風の直後で割を喰らったが、ちゃんと会場を湧かした。

西のアンタッチャブル「インディアンス」。一つ前のオズワルドとは打って変わってボケの手数で攻める超ハイテンポ漫才。本来ならM1で強いタイプだが、早すぎてついてイケなかったのか、点数は辛め。

⑩トリを務めたのは第二の飛び道具枠「ぺこぱ」。松陰寺の濃いキャラ以上に”ノリつっこまない漫才”の方が革新的で尻上がりにウケる。決勝3組へと滑り込んだ。


この後、かまいたち、ミルクボーイ、ぺこぱの3組が2本目を披露してミルクボーイが1本目のインパクトそのままで逃げ切り優勝へとなりました。


どうですか?完璧な流れじゃないですか?


笑神籤制度によって導かれた順番ですが「絶対に仕込んだだろ」と思ってしまうぐらいに無駄のない構成。⑦のミルクボーイは当然素晴らし過ぎるのですが、ここは個人パワー。連携で語るなら、特に①、④、⑩が光った印象。

①の、屋敷の松本人志への悪態については後に2019年のファイナリスト達内では「影のMVP」と評される程。まさかのネタじゃないところでスタートダッシュを成功させてしまった。

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④のすゑひろがりずは飛び道具枠としてこれ以上にないところで差し込まれました。優勝候補と名高いかまいたち、和牛が披露した直後なんて、他の芸人的には絶対に嫌でしょ。「誰とも被らない、比べられない」すゑひろがりず、というナイス過ぎる順番でした。早くも注目の2組が出てしまってジリ貧になりそうなところだったので、ここで風向きが変わったのもナイスな役割でした。

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⑩のぺこぱはザックリな枠で囲うと、すゑひろがりずと同じ飛び道具枠。しかし彼らはそんな枠以上に話題性と革新的な漫才フォーマットで、最後の最後に強烈なインパクトをもたらしました。大会的に、7番手のミルクボーイで充分過ぎる成功なのに、駄目押しで大会を盛り上げてくれた。逆にもったいない。M1後も話が飛躍して「誰も傷つけない笑い」というテーマが生まれて話題になったしね。

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プロスポーツを趣味で見ている人なら、こういったラインナップってたまらないはず。ちなみに筆者はNBA(アメリカのプロバスケ)が大好き。

(この大会での役割のみで)NBA選手で例えるならミルクボーイはマイケルジョーダンとかシャキールオニール。すゑひろがりずはレイアレン。ぺこぱはステフィンカリー。ニューヨークはデニスロッドマンかな?

決勝進出者10組それぞれが被らない個性と役割を全うし、次へと繋いでいきました。当然ファイナリスト達は優勝を狙うために決勝の舞台に駆け上がってきたわけですし、個々の視点で言ったら、オズワルド、からし蓮根、見取り図はウケや出来の良さの割に結果に繋がらなかったので”割を喰らった”わけですが、大会全体で見ると大成功です。

お笑いショーレースは個人戦に見せかけた団体戦


と度々書いてきましたが、去年のM1が正にこの事を如実に表します。だからこそ、ファイナリスト選出には(見えない)枠が必要だと思うし、審査員はそこを考慮しているのではないか、と推測しています。似たような芸風はせいぜい3組。4組以上被っていると大会的にも良くないし、個性が埋もれて芸人達も割を喰らうので双方にメリットがない。この枠というものは非常に曖昧だし、審査員もその都度その枠を更新していると思うので、”見えない枠”です。



圧倒的な最有力候補「和牛」の行く手を

2度も阻む、というドラマ性


史上最高と思うにはやっぱり”ドラマ”というのは大事。無名だった芸人がたった一日で脚光を浴びて人生が変わる瞬間を目の当たりする事が出来るのはM1という大会の規模と影響力が故。オードリーやサンドウィッチマンなんかの今の活躍を見ると、しみじみ思ったりするのもドラマ。

そしてそんなドラマと史上最高を紐づけさせるのが「和牛」です。

和牛のM1での実績を確認すると

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wikiでスクショしてマーカーしてなんとかしてやりました。

2016~2018年で準優勝。普通に考えたら優勝候補の最有力候補でしょう。2019年の予選直前の段階で、お笑いガチ勢間の予想は和牛とかまいたちの2強と言った印象でしたが、その2強の中でも「いやっ和牛だろ」って感じが強かったので、厳密に言うと

和牛 >> かまいたち >>> その他

こんな感じだった気もします。結果的に印象を残したミルクボーイ、すゑひろがりず、ぺこぱについては決勝に上がってくる事すら予想していた人は当時は少なかったと思うので、やっぱり対抗馬がかまいたち以外に思いつかなかったです。同じ時期に連続で決勝進出していたスーパーマラドーナは2018年がラストイヤーだったし、新世代の霜降り明星ミキは売れっ子になったので、出場するか怪しかったし、ネタ書く時間も少ないだろうし。勢いで言ったら金属バット、アインシュタイン、からし蓮根、インディアンス辺りだったかな。

いざ予選が始まってみると、3回戦の段階で「ミルクボーイってコンビがバカウケてる」とお笑いガチ勢内では話題になりました。当時GYAOが3回戦のネタを期間限定で配信してくれていたので、噂のミルクボーイの3回戦ネタを見ると例のコーンフレークでした。史上最高得点をとったアレです。つまり筆者は決勝を見ている時にはミルクボーイのあのネタは既に見たことがある状態。決勝を最高の状態で楽しみたいなら予選動画は一度も見ない方がいいかもしれない。

どんどん出場者が絞られていく中で「まぁ和牛、かまいたちは入るとして、他は・・・」なんて予想をしていたらまさかの和牛が決勝9組から漏れる事態に当然お笑いガチ勢は驚愕しました。この決勝9組が決まった段階で「2019年はレベルが高いんだな」と思う事に。

そして残りの1枠を争う敗者復活戦が決勝の数時間前に行われました。筆者はリアルタイムで全出場者のネタを見ましたが、和牛で妥当だったと思います。「どうせ人気的に和牛だろ」って不貞腐れてるお笑いファンもいましたが、この時は和牛でも特に変ではなかった。強いて言うなら四千頭身、天竺鼠は面白かったし、決勝へ上がっても良かったかなってぐらい。

でも2019年のM1が史上最高と呼ばれるにはやはり和牛が必要。そんな敗者復活枠を掴み取った和牛が3番手できちんと期待に応える漫才を披露して最後まで暫定TOP3内に残ってましたが、トリのぺこぱによって行く手を阻まれました。

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ミルクボーイのコーンフレークのウケっぷりも震えましたが、この瞬間も同じぐらい震えましたね。ドラマ中のドラマ。今見ると審査員もぺこぱの表情も、グッとくるな。こんな震える瞬間を2度も見れたんだから、そりゃ史上最高の回ですよ。


以上です。


2019年が最高の回と呼ばれてM1がまた一つ盛り上がりを見せました。

2020年M1はその余波で多くの人に見てもらえると思うので運営側もチャンスだし、和牛が今回は出場しないので、芸人側もチャンスではありますが、同時にプレッシャーもかなりのもの。

ネタの出来云々について去年と比べるのも野暮ですが、どうしても比較したくなるのが人間の性です。どうせクオリティを比べられてしまうのなら、ちょっと変わり種なタイプだったり、邪道タイプが多めの方が去年と比べられる懸念が解消されそう。

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前回の記事で今回の準決勝進出者までのメンツを見て「異端児」達の逆襲 というテーマが似合うなと思い、それについて書きました。上記で述べたように変わり種なタイプ、邪道タイプが多そうな今回はそういう意味では良いメンツな気がします。

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あとはもうコレしかない。根性論。大事な披露順だって笑神籤制度だから運だし、残る一枠の敗者復活も視聴者投票だし、調整が出来ない。でもこのメンツならドラマは必ず生まれます。だから見ようM1を。絶対に震える瞬間を目の当たりに出来ます。


けれど、その前にまずは今日の『THE W』を見よう。

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