【ぶんぶくちゃいな】香港の社会秩序を撹乱しているのは学生なのか、それとも警察か

「明日からホテルに移る。日曜日の飛行機でいったん国に帰ることにした。本当は今の香港はとても大事なときで、それを体験することはとても貴重だし、大事なことだとわかっているんだけれど」

昨年のフェローシップで滞在した、香港の大学で知り合った、あるヨーロッパの国からの博士課程留学生Vがグループチャットでそうつぶやいた。ちょうど1年前にそのフェローシップが終わり、みなが散り散りに東南アジアの各国に帰った。1年後に、まさか香港の各大学に重装備の警官隊が突入し、学生たちをしょっぴくようなことになるとは思ってもいなかった。

Vから送られてきた写真には、わたしたちがあーだこーだ言いながら2ヶ月間歩き回った、見慣れた場所という場所にレンガが積まれており、またいろんなことを語り合った学内のチェーン店カフェは2つとも破壊されてしまったという。わたしたちとは別のプログラムで滞在中だったVにはあと2年の奨学金支給が残っているのだが、今や教室での授業はストップし、食べものをいかに調達するかが学内で暮らす留学生の最大の関心になっているそうだ。

すでにメディアはその前日から大きな荷物を抱えて留学生宿舎から出ていく外国人の姿を伝えていた。それを見送ったVは「今、宿舎に残っているのは10人くらい。ぼくも一時的に帰国するかどうか考えている。今うちの国もぐっちゃぐちゃだから、帰っても意味はないんだけれど…ここでは自分がやりたい研究ができるし」。

それでも一時帰国を決意したのは、学校がオンライン授業に切り替えたこと、そして彼自身がつい最近肺炎になりかけて入院し、呼吸器官がまだ脆弱なことが最大の理由だった。今の香港、どこで催涙弾に行き当たるかわかったもんじゃないし、特に今週に入って警官隊のターゲットが路面から大学のキャンパスに移ったことがVにとって決定的となった。「今も宿舎の中にはガソリン系の匂いが漂っている。これはちょっとヤバいよ」、宿舎から彼はそうつぶやいた。

我がフェロー仲間たちはVの決定を両手を挙げて支持した。今は健康と安全第一。どうせあんたはそこの学生なんだし、いつでも帰ってこれるんだから。そう言うと、彼は安心したように笑顔の絵文字を送ってきた。

わたしは先週の「ぶんぶくちゃいな」で、大学生の死をきっかけに社会の「知の殿堂」である大学と政府側が話し合いのきっかけを掴み、政府がもっと社会の声に耳を傾けることができれば、と願をかけた。しかし、週が明けてからの事態はまったく逆の方向に発展してしまった。どうしたら、大学に警官隊を送り込み、キャンパスで学生たちを次々と組み伏せて逮捕するなどという考え方になってしまったのか。

中国語で言えば「大跌眼鏡」(メガネが落っこちる)、つまりメガネを思わず落としてしまうほど人々を驚かしたこの事態がもたらしたその衝撃について考えてみたい。

●日本と違う、「大学」の社会的存在感

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