メディア不要論

あるコラムニストさんのウェブメディア新コラム開設のお知らせに、またコラム抱えによる「編集者の低編集能力隠し」のパターンかとため息。

今のウェブメディアには、正社員として抱える編集者をレベルも経験も浅い安価な人員で固め、専門知識を持つコラムニストに安価な原稿料でテーマも情報も丸抱えでコラム書かせてメディアの体裁を保つパターンでサイトを埋めるパターンが多い。今の日本のウェブメディアの殆どがこういうスタイルで、編集者は育たないし、書き手も育たないという悪習慣に陥っている。

そして、大事な分析や情報提供、テーマ設定までコラムニストに丸投げにした結果、編集部内で「切れ切れの情報やニュースを俯瞰して事態を分析し、構成し直し、記事化していく」という能力が育たず、編集者という仕事がただの「原稿取り」、あるいは「人脈広げて専門家の知り合いを増やす」という八方美人が仕事だと勘違いされてしまう。

かつての編集者の仕事を自分でやらざるを得ないのが「コラムニスト」になってしまっているけれど、そんなに真剣に書いてもコラムニストはその原稿料じゃ食えないからそんなことやらない人も増えている。

ウェブメディアは「紙面」を埋めるために大量に安価に書いてくれるコラムニストを雇う。コラムニストに求められるのは「質」より「量」。安価で集まってくれることが最も優先される。

結局、そんなウェブメディアの記事は「情報」ではなく「人脈」で作られているわけで、また似たような情報が同じ書き手の手であちこちに出まわり、その結果そのメディア本体の価値は削られ、編集者は情報の真剣な紡ぎ手あるいはコミュニケーターとしての能力を高めることができない。だいたい、ウェブメディアを展開する企業の目的が「報道」ではなく、人目を集めた広告、あるいは人材派遣業態による収入だからね。

つまり、「メディア」の意味が「媒介」(仲介)にすり替わってる。

今の日本の紙媒体をまったくもたないウェブメディアで、本気で「ジャーナリズム」としての「メディア」の体裁を取っているのは、Buzzfeedくらいじゃね? あとは「広告代理店化」や「人材紹介業化」が最終目的のところがほとんどでしょう。

そして、そんなウェブメディアの中でずっと育ってきて中堅どころの年齢になった人がいまや編集長にまでなる時代で、書き手と意見の交換すらできず、やりとりしている間にぶっちして返事もよこさないという驚くべき輩まで出現している。編集者としてコミュニケーション能力がそこまで低くて、どうやって取材して情報を取り扱うんだろうか。たぶん、プレスリリースで事足りてるんだろうな。

これって、先日目にした、「若者が入社2日で出勤しなくなり、連絡とれない云々(でんでん)」という記事の中身にそっくりで、つまり「都合が悪くなるとぶっち」という手段は、おそろしや、昨日や今日社会に出た若者の既得権利ではなくて、すでに中堅どころの責任ある立場の人も平気で使っているのだ。

その点、紙媒体で生き抜いてきた編集者は根性座ってる。自分に都合が悪い質問された時にも、しれっとウソを言ったり、うまく相手を丸め込む術を心得ている。ウェブメディア編集者は脆すぎる。

もちろん、わたしのこんな批判に「意味ない」と陰口を叩いている人がいるのも知っている。だが、ネット上の数多くのウェブメディア一般読者は、記事や情報がどうやって世に出ているかを知らないし、逆にメディアが世に出すから読んでいるのだ。だが、それが数少ないコラムニストと、情報消化不良の編集者の人脈だけで記事化されているのだと知ったらどう思うだろう…

つまり、情報の偏りは「ウェブメディアを読むと好きなものだけ読んで云々(でんでん)」というレベルではなく、実は情報を送り出すメディアの方がすでに人的能力による偏りを起こしているということは、情報の受け取り手は知っておくべきだと思う。このまま肥大化していくはずのウェブメディアの姿勢が、実はどんどん金儲け思考に流れているという事実を放っておくのは、日本のメディア発展においても大変危険だ。

もちろん、伝統メディア、新聞にも偏りはある。それはわたしも逐次批判してきた。でも、伝統メディアの偏りは今やネットでいろんな立場の新聞のニュース(+海外メディア)を読み比べる権利を手に入れたことで、読み手が自分で是正できるようになった。実際、新聞社にも立ち位置があって良いと思うし、その中から情報を選ぶ権利を読み手はすでに手に入れている。

だが、そんな新聞の代わりになると思われている日本のウェブメディアの編集体制は実は現時点ではまだまだ大変未熟で、ほとんどがニュースメディアというよりも「プラットホーム」と化していて、つまり「情報の偏り」どころか「情報発信の原則」すら存在していない状態。編集者で情報をきちんと消化して記事に構成できる人がほとんど育っていないからだ。コラムニストとお近づきになってお付き合いする能力(だが原稿料上限規制付き)はあっても、掲載するための記事は「編集」できないんだから。

だったら、読者は気に入ったコラムニストの記事だけを読み進めていけばコトは足りる。メディアそれ自体にはなんの存在価値もない。逆にそうしたウェブメディアは、集まってくる人の嗜好や属性を集めて、広告や集客的な商売に精を出しているだけだし。だから、編集コストを低く抑えたがる。だが駆り集めてきた数だけ多いコラムも客寄せパンダ程度の扱いで、書き手に専門家としてのリスペクトすら払わない。

日本の「ウェブメディア」がこのまんま進めば、読み手は金儲け目的の私企業に愚弄され、アホになっていく。私企業は読み手の知性や情報力を高めることには興味ないんだから。新聞はたとえ立場や視線が偏っていても、その最大目的は金儲けではない、これ大事。

このままだと社会力は引き続き落ちていくでしょうね。そうなりたくなければ、日本語ウェブメディアよりも英語(その他関心範囲の外国語)の記事をまず読むべし。だって、今のウェブメディアって、結局のところその資本は翻訳記事じゃん。

あとは新聞を一通り眺めて、その他気に入ったコラムニストをフォローすれば、充実した必要情報は基本的に手に入れられるというわけだ。


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