【ぶんぶくちゃいな】「子宮は誰のもの?」出産適齢期に入った一人っ子世代

8月14日、江蘇省党委員会機関紙「新華日報」が掲載した「出生率引き上げ:新時代の中国人口発展の新任務」というタイトルの論説が大議論を巻き起こしている。

前提になっているのは、国家統計局が発表した昨年の出生人口が1723万人と、前年を63万人も下回ったこと、さらに今年上半期に誕生予定の赤ん坊の数は同期比で15%から20%減となるという予測付きだった。中国では2015年末にそれまで37年以上続けられてきた、いわゆる「一人っ子政策」が廃止され、二人目出産が可能になった。なのに出生数が減っているという事実は、人口動態を見守る人たちに大きなショックをもたらした。

筆者の南京大学経済学者2人の論拠はさらに悲観的な予測に立って展開される。

それは、今後10年間、「出産適齢期」の女性の数が減り続け、最終的に40%減となるという「数字」である。というのも、一人っ子政策直前の人口ブームで生まれた女性たちが今年40代に入ったことで、人口増大の任務は一人っ子政策以降に生まれた、つまり多くが一人っ子の女性たちへと引き継がれていくことになった。だが、同政策は中国の人口軽減のために実施されたもので、当然のことながら80年代以降に生まれた女性(及び男性)の数は、同政策以前より抑えられている。その結果、たとえ一人っ子世代の女性が二人目出産を選んだとしても、文字通りその「母数」が少ないためにこれまで以上の人口増大は望めなくなる。

その結果、巷では「三人目出産も認めるべき」あるいは「出産制限を完全撤廃すべき」という声も上がっているが、国もまだそこまで踏み切れていない。

同論説記事ではともかく、託児所、幼稚園サービス強化をうたい、また義務教育に対しても良質な、また家庭に負担を与えないよう努力をし、若い世代がもっと子供を生み育てやすい環境を作るよう呼びかけつつ、「末端の計画出産担当者の力を使い、世論宣伝を行っていくべきだ」と強調した。

「末端の計画出産担当者の力」。この表現は、一般中国人におぞましい記憶を呼び起こす。

出産政策の末端執行者である計画出産担当者がこれまで何をしてきたのか、中国人ならば知らないはずがない。一人っ子政策の徹底を口実に、家庭のプライベートな話題に首を突っ込み、暴力的な強制中絶や強制避妊ばかりか、二人目以上の子供をもうけた家庭には過酷なまでの制裁を加えるのが彼らの役目だった。それは彼らの「任務」だったわけだが、政治スローガンに突き動かされ、また「公務」としてのその役割に酔ってしまった人たちの、その人間性を無視したやり方に同情する中国人はほぼいないはずだ。

経済学者は党機関紙で今度はその彼らの力を動員して、二人目の出産をキャンペーン化せよ、と主張した。一人っ子政策における乱暴狼藉を、今度はそのまま二人目出産に持ち込んで、強制、義務化するのか、と激しい反発を巻き起こした。

さらに、特に若い、いわゆる「出産適齢期」層たちを激昂させたのが、そこで提案された生育基金制度である。

筆者2人は、40歳以下のすべての国民を対象にその賃金から一定額を「生育基金」に収めさせ、二人目以上を出産した家庭は申請に基づいてそれまでの納付金を還付し、加えて養育手当を発給すべきだと主張した。二人目を出産しない人たちはそのまま40歳まで納付を続けさせ、納付金は定年退職時に額面どおりに還付する。もちろん、どちらも無利息のままの還付であり、集めた基金を論説でも力説した、子どもたちの生育環境作りや奨励金に当てるという。

この論説に続いて、今度は中国政法大学の教授が「生育基金で出産を奨励するとともに、子供を作らない家庭(いわゆるDINKS家庭)からは『社会扶養税』を徴税すべき」と論じたことも火に油を注いだ。

これまた嫌な名前の税金である。一人っ子政策時代には税金という名目ではないものの、「社会扶養費」というものが存在した。2人以上の子供を生んだ家庭に対してかけられる、前年度年収の1倍から3倍の費用徴収のことだ。ある意味、「多出産したことへの社会に対する慰謝料」的なものとして徴収された。

しかし、当時は一人っ子政策に違反したというだけで、社会的に村八分され、冷遇された時代だったから、年収の何倍もの社会扶養費を支払えるわけがなかった。その結果、破産したり、家族散り散りになったり、あるいは死を選んだり、という悲惨な家庭の話は枚挙にいとまがない。子供が欲しかった人たちを震え上がらせ思いとどまらせる役割を果たしたのがこの「社会扶養費」だった。

そんな悪名高い「社会扶養費」を、二人目出産を一方的に解禁してからわずか3年、手のひらを返したように今度は子供を産まない家庭に税金として課そうというのだから、人びとの怒りが収まらないのは当たり前だろう。

●産めば罰金、産まざるは税金…の皮肉

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