家庭教師になるはずがお財布にされていました 3
コツコツとシャーペンがノートを叩く音、教科書やノートが捲られるたびに聞こえる、紙同士が擦れる音。部屋の壁に掛けられた、女の子が好きそうなファンシーなデザインの時計が奏でる、カチカチ...と規則正しく刻まれる針の音。
普段なら大して気にしもしないような微細な音が、感覚が研ぎ澄まされた今はとても大きな音に感じれる。
「えっとね、わからない問題がいくつかあって〜」
ノートに公式を書き込み終えると、教科書に載っている問題を読み始める楓ちゃん。
ただ問題を読み上げているだけなのに、その声すら今の自分には刺激になる。甘い女の子の香りと柔らかな肌が、すぐ近くから発せられる彼女の声が、より感覚を過敏にさせる。
「お兄ちゃん、聞いてる?」
「えっ...あっ...聞いてるよっ」
なのにも関わらず、問題の内容は全く頭に入ってこない。ただ、楓ちゃんの声に聞き惚れてしまうだけで、何を話されているのかを考え処理することもできていなかった。
「だから、この問題がわからないんだけどって」
「ぁぁっ...ひぅっ...?!」
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