見出し画像

たった1本のプレスリリースが会社にもたらせること

プレスリリース作成代行ってあるじゃないですか。

あるじゃないですかって言ってもピンと来ない人に説明すると、文字通りプレスリリースの作成を代行する業者・個人がいるよねという話。

プレスリリースは、広告ともWeb記事ともメールマガジンとも違います。「記事」のようなボリュームや形式ををしているけど、ライターなど文章が得意な人なら書けるというわけでもなく、PRのプロがつくるべきとっても奥が深いものです。

1本の作成代行料金は、業者にもよるけど下は3万円程度から上は10〜15万円くらいの幅があります。プレスリリース配信サービスを運営する会社がセットで提供していたり、小さめのPR会社がメニューとして用意していたり。ただ、本来はトータルのPRプランニングに基づいて作成されるのが理想のため、「1本単位で作成代行を頼んでも意味がない」と言う人も。

私自身も単発作成はあまりお受けしていないけど、「プレスリリース1本からの作成代行で生める価値もいろいろある」と思います。そんな実感の話を、プレスリリースの存在意義に絡めて。

みんなが思うプレスリリースの役割

プレスリリースはよく「メディアへのお手紙」と表現されてきました。企業の公式発表であり、その内容はメディアが報道するニュースの原液になります。

A4縦型で2〜3枚程度、リード文のスタイルやレイアウトにも本来は型があります。テレビ局、新聞社、雑誌編集部といったメディアは、紙(または印刷に適したPDF)として届く膨大な量のプレスリリースをBOXに振り分けて取材先を選定。それを加工・編集するなり、電話やメールでヒアリングを行うなり、特集企画を考えて取材を申し込むなり、使いかたはそれぞれです。

プレスリリースの段階で一般生活者の目に触れることはあまりなく、メディアを通して初めてその内容が伝わるものでした。そのため、プレスリリースの目的は長らく「メディアに取り上げられること」とされてきました。メディア掲載(パブリシティといいます)が獲得できるプレスリリースがよいプレスリリースで、少しでもその確率を上げるには、プロに書いてもらうのがいいだろう、と。

たしかにPRを専門とする人は、取材に繋がりやすい書き口を知っています。文章が読みやすくメディア向けに適していることはもちろん、さまざまなテクニックと構成力を使って「目に止まる」プレスリリースがつくれる。その価値が「作成代行」には求められてきました。

プレスリリースはもう「メディア向け」ではない

しかしこの10年ほどのWebメディアとSNSの進化は激しく、プレスリリースは誰でも見られるものになりました。配信サービスが力を伸ばしていることもあり、Web記事と同じような感覚でシェアされます。

「メディア向け」に特化したものという要素は薄れ、直接ユーザーや生活者に届くならと、文体や見せ方も大衆向けに形を変えてきています。小さな事業社を中心に、従来の形式を大きく崩したり、noteやNotionなどのプラットフォームに公開したりする事例も見かけます。スタートアップなどでは「PR TIMES用の記事」というような呼び方をされ、もはやメディアに届けている認識すらあまりないまま“掲載”しているケースまであります。

社内にきちんとしたPR体制がないかぎり、プレスリリースを従来の方法でつくって配信するにはお金がかかります。でも今はオウンドメディアもSNSもあり、誰でも発信できる時代。熱い想いなら自分で書けるし、それなら多少の粗さはあってもダイレクトに、無料のツールに乗せて伝えたらいいんじゃない?と考える人も現れました。

そんな時代に「プレスリリース作成代行」を頼む意味って……?ここで、プレスリリースというツールの価値が、問い直されているのかなと感じます。

全方位へのコミュニケーションツールとしてのプレスリリース

メディア掲載を取ることがゴールでもないし、明日から売上が伸びるなどの即効性もない。しかしそれでも「プレスリリース作成」という業務はニーズがあります。すぐにニュースにならなくても、その1本がもたらす効果は計り知れません。最近は少し別の方向に価値がずれていると感じています。

プレスリリースには依然として、会社や事業を取り巻く全ステークホルダーとのコミュニケーションツールとして抜群のパワーがあります。

きちんと正しい体裁を守った質の高いプレスリリースを出すことは、「ちゃんとした企業だ」というイメージに繋がり信頼感を生んでくれます。企業としての意志とスタンスの表明になり、配信前後に発生する各所とのコミュニケーションの質を変え、関係性(リレーション)をデザインしていける範囲が広がっていくのを感じます。

もうひとつ私がとくに注目しているのは、チーム内のインナーコミュニケーションツールとしての役割。

とあるグローバル企業で、企画や開発より先にプレスリリースを作り、ユーザーに届くところから逆流型でプロジェクトを進めていくという有名な例があります。私もだいぶ前からこれは取り入れていて、何も決まっていなくても勝手にプレスリリースを書き始めてしまいます。

架空や妄想オンパレードで、「○○○○のために○○○○を目指します」といったレベルで穴だらけ。写真もほとんどフリー素材。だけどそれが実体のある文書としてあることで、事業を形作っていく人たちと「こういうプレスリリースが出せる状態を作ればいいのだ」という明確なゴールを共有できる。なかなか進まず話がまとまらないプロジェクトをプレスリリース1本で前に進めていく、という荒業をよくやっています。

大企業だと最終形は違ってしまうことも多いのですが、妄想プレスリリースが社内回覧してもらえるだけでも意味があります。がっつり赤字だらけで返ってきてもめげずに回覧を続けていると、PRチームのやりたいことや目指したい姿が、じわじわと他部署に染み込んでいく手応えを感じてきます。もうそれは洗脳に近い。「PRってこういうことなのか!」というPR発想力やPR視点が、気づかぬうちに育っていってくれる。

逆に小さな会社の場合、まだふわっとしているチーム内の感覚や事業内容の枠組みをプレスリリースとしてまとめておくと、それがエンジニアからデザイナーから職種を超えて会話するための共通言語として機能し、みんなが立ち返れるホームベースになる。開発工程などで方向性がずれても「でもそれってプレスリリースに書くとさ、」と立ち止まり、PR視点で軌道修正できるチームになります。

そんな組織体制が作れれば、自ずと「PRドリブン経営」は実現してしまいます。プレスリリースが経営方針まで変えてしまった事例をわりと見てきて、コミュニケーションツールとしての役割はかなり大きいと感じています。

1本の作成代行が、会社を“目覚め”させる

今は伸びている企業のプレスリリースを誰でも見れるし、成功事例がたくさん転がっている時代です。でもやっぱり再現性という点で、自社の事業内容や周辺環境に当てはめてつくれないと、なかなかただ真似するっていっても上手くいかない。

プレスリリースにおいて、どの企業にも当てはまる正攻法はないからです。私もつくらせてもらうときは、がっつり時間を取ってヒアリングし、それに基づいた業界情報や社会背景のリサーチに数時間は費やします。

作成代行でプレスリリースをつくってもらうのって、プロの料理人が家にやってきて腕を奮ってくれるようなもの。「あなたの冷蔵庫に眠っている食材でもこんなに美味しい料理ができるんですよ!」みたいな。外のレストランで美味しい料理があるのは当たり前だけど、家にある食材だけで自分では絶対作れない料理を振る舞われたら、さすがに目覚めるじゃないですか。「我が家にもこんな可能性があったのか!」って。

その1回の成功体験で、自社のPR的なポテンシャルと伸びしろに気づいてもらい、マンネリ化していたチームも「なんかいい会社じゃん」って空気になったり、経営陣も「よーしPRやってみるか!」となったりする。

たった1本でバンバン取材が来ることは稀だから、効果測定はとても難しく感覚的になってしまうのだけど、取材を獲得するよりもそういう感覚的な価値のほうが大事かもなぁと思ったりもします。それに、うまくハマればもちろん話題になるし、1本で数百万の利益を生める可能性もゼロではありません。そう考えると1本15万円もそんなに高くないかも。

しかし本当は内製化できるのが一番だし、1本の作成代行はなかなか割にあわないことが多くやることは少ないんだけど、「PRの考え方を伝えて価値を感じてもらう」という普及のための手段と考えると、業界貢献活動としての意義があるのかもしれないですよね。

短いぺらっとした形なのに、めちゃくちゃ奥が深いプレスリリース。尊敬するミラクルなPRさんが、圧倒的に経験豊富なベテランの方なのに「お客さんのプレスリリースは今でも絶対に自分で書いてる。だって一番大事なところでしょ?」とおっしゃっていたのが印象的です。

情報の伝播のしかたはどんどん変わるけど、コミュニケーションデザインのひとつの方法として、ずっと大切に考えていきたいツールですね。おわり。


さらに書くための書籍代・勉強代に充てさせていただきます。サポートいただけると加速します🚀