【洒落怖漢譯】妖厲居車(原題:不明)

譯文

吾聞諸山形縣新庄市。某日,求車入店,見一車未損傷,所運不及百里。吾召主人問其故。主人答曰:「此僅用二三年,而爲六人所得。其有氛翳乎?」側聞:一婦得之,用購買、送迎。其車甚良,婦人惜之。某日,送子而還,欲遠游。彷徨良久,俄如病少腹痛,遂駐路傍。折座仰臥,有人膠着如泥而瞰我。其車猶存市中。

書き下し文と語彙解説

これ山形縣やまがたくゑん新庄市しんじやうしに聞く。某日、車を求めて店に入る、一車の未だ損傷せずして、めぐらす所百里に及ばざるを見る。吾主人をして其のゆゑを問ふ。主人答へて曰く:「これわづかに用ゐること二三年のみ、しかるに六人の得る所と爲る。其れ氛翳ふん𛀁い有らんか」と。

○諸:「之於」の縮約。 ○山形縣:東北地方南西部に位置する縣。 ○新庄市:同縣の北東にある市。 ○某日:ある日。 ○運:移動する。 ○僅:副詞で、數量が限定的であるの意。 ○氛翳:不吉な氣配、邪氣。以て「曰く付き」とした。


側聞そくぶんす。一婦之を得て、購買・送迎に用ゐる。其の車甚だ良ければ、婦人之をしむ。某日、子を送りて還るに、遠游ゑんいうせんと欲す。彷徨はうくわうすること良久ややひさし、にはかに病の如くやや腹痛あり、つひ路傍ろばうとどまる。座を折りて仰臥ぎやうぐわすれば、人の膠着かうちやくすること泥の如くして我をる有り。其の車ほ市中に存することを。

○側聞:噂に聞く。 ○惜:大切にする。 ○遠游:遠くに出掛ける。 ○彷徨:さまよふ。 ○良久:しばらく。 ○俄:急に。 ○遂:そのまま。 ○折座:座席を後ろに倒す。漢文の時代にはリクライニングシートは存在しなかつたと思はれるので、新たにこの語を充てた。 ○仰臥:仰向けに寢轉ぶ。 ○膠着:固くくっ付く。 ○瞰:見下ろす。 ○猶:依然として。

各種リンク

參考元:短くて讀みやすい怖い話【3】全10話 – 洒落怖 ショートショート の5

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