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対魔人・アキ ◆型殺陣orトリート!ハロウィン仮装幻魔を討て!◆ 2

踊るように練り歩く魔女やゾンビたち。その頭上、ビルからビルへ飛び渉る二つの影・・・・

「アキさんよ、テロのやり口までわかるか?アンタの編纂した情報で」「大規模なものだ、皆殺し規模の」「5、6000人をか?一気に?」「可能だ、オオメダマビル・・・・あれを通りに沿って倒せば・・・・今の人口密度なら2000人は犠牲になる」「大したもんだ、そりゃ」

レオはビルの鉄柵を蹴って20m先の貯水タンクに着地する。同じく鉄柵を蹴り、貯水タンクに引っ掛けたフックロープを巻き取りながら屋上に着地したアキ。二人の見る先には、高さ222mの巨大建造物、上部にカイジュウの卵めいた球体プラネタリウムを内包したフクシマ最大のランドマーク・・・・オオメダマビルディングが聳える。

「レオさん、幻魔・ジャックオランタンについて」「現在ハケン・ホールディングス所属の元フリーランス、触れたものを植物に変える三ツ星エージェントだ」アキは少し考える、ハケン・ホールディングス・・・・これも邪悪な幻魔組織。幻魔を調教し、エージェントとしてヤクザや企業に高額で貸与する。三ツ星はトップエージェント、強敵の証だ。

「不安か?アキさん作戦を練り直すか?」「いや、予定通りプランAから行く・・・・ただし、Bは破棄する」アキは目を閉じ、短いメディテーションを行った。幻魔、アキの両親を死に追いやった善ならざる存在・・・・フラッシュバックするあの日の記憶。仄かな怒りに倫理を薪にくべ、憎悪へと焚き上げてゆく・・・・おお、なんたる達人か!

これは風林火山・風の法に当たる精神操作術。キモチ・エクステンションの一種だ!一流の使い手ともなれば自分が最も力を発揮できるモチベーション、精神状態へと自己洗脳すら可能である

瞑想を終えて眼を開くアキ。ファスナーを下ろし、ジャンパーとホット短パンを脱ぎ捨てた。ストリップか?否、衣服の下に身に着けていたのは全身をぴっちりと覆う藤色のボディスーツ。幻魔の型殺陣(カラテ)衝撃を99%緩衝する耐型殺陣性対魔装束だ!希少!


月明かりに照らされ、妖しいハイライトを照り返す対魔装束・・・・蜜のような質感、熟れた果実のような立体感は実際見るものを幻惑する。加えてアキ自身の体つき、真の対魔人の肉体は男性の剛強さと女性の柔軟さを併せ持っている、しなやかな筋肉にに必要最小限の脂質をまとったこの上なく機能的な肢体は異性から見ても同性から見ても美しさを感じる事は必定である。

レオは思わず見惚れた。アキとはそれなりに長い付き合いだが、いまだ見慣れない。寧ろアキは強くなるにつれ、その、清廉な妖艶さとでも言おうか・・・・を増していた。

アキがレオを見た。不意に眼が合ってしまったレオは頬を赤らめるのを堪え、とにかくも我に返った

「ハッ!帰りはどうするんだ?ここまで取りに来るのか?その服は」「奴を倒して・・・・生きてられたらな」アキはクールだった、しかし戦士としての熱はマグマめいて滾っている。「生きて帰ったら、一杯付き合えよ」レオの誘いに、アキは無言で頷いた「フッ・・・・先行ってるぜ」レオは首を傾け少し笑うと、オオメダマビルに先行した。

                ◆

「モシモシ、ハイ、そろそろ取り掛かります・・・・でもいいンですか?ワタシノ『実』でやってしまって・・・・いえいえ、ホホホ・・・・」

仄暗いビルの1フロア・・・・蛍めいた経路灯のグリーンの光、ストリートの喧騒も僅かに聞こえるだけの静謐空間に、奇妙に落ち着き払った男の声が流れる。

「ええ・・・・ソウデスネー・・・・ハイ・・・・」端末を頬に当て、窓辺をゆったりと歩く男、羽織めいたチェックのコートにラテックスブーツ、そして、ジャックオランタンの仮面・・・・もしやこの男は!

「誰か残っていますかー?」警備員だ。ライトを片手にフロアを見回す・・・・誰もいない?話し声は気のせいだったのか?「ン?」ふと気づいた、何か匂う。香ばしい何かと甘ったるい何かだ、かたや屋台のような、かたや香水のような・・・・「やっぱり誰かいるのか」

今日の騒ぎを想定して巡回の人数を増やしたのは正解だったか、きっとイベントで舞い上がった若者や良識欠乏者が入り込んだのだ「誰か隠れてるね、早く出てきてビルから退去して、どうぞ」

返事はない・・・・警備員は物陰を探ろうと複数ある円柱の一つへ歩み寄ろうとした、その時である!!

「ドーモ、警備員さん」「ヒイッ!?」ハロウィン仮装めいた男が目の前に現れた!それもワンインチ距離に!コワイ!

「アワ・・・・アワワ・・・・」警備員は尻餅をつき、後ずさり、咄嗟に腰のハンドガンに手を伸ばす!「ホホホ・・・・」ハロウィン男はゆっくりと両手を顔の高さに上げた。「き、きみ!こういうイタズラは・・・・」無抵抗のシグナル?ふと我に返ったが、直後!警備員はより深い恐怖のどん底に突き落とされる!

「エ?」よく見ると男の両手には警備員が装備していたはずの無線機と、ハンドガンが握られているではないか!「エ、銃?ナンデ?」混乱する警備員を嘲笑うかのように、男はゆっくりとジャックオランタンの仮面を外した

「ア、ウアァァァァァァァァ!!」警備員は恐怖に呑まれた、男は端正な顔立ちであったがしかし、その眼光は人のものではなかった!具体的にどうとは説明しがたいが、彼の目線、物腰、挙動、アトモスフィア、或いはその存在自体が超常性を本能的に理解させるのだ!まさに名状しがたい恐怖、幻魔シンドロームだ!

「ヒ・・・・アワ・・・・」失禁しながら後ずさる警備員・・・・悠然と歩み寄るハロウィン仮装幻魔・・・・「ドーモ、ジャックオランタンです、ワタシは幻魔で、人殺しにきました」男はニヤリと笑い、無線機を見せつけた。無線機はミシミシと音を立て花束に変わった・・・・

「でもアナタは殺しません。仕事に誠実ですからねぇ思いやりです」

「ア・・・・ア・・・・」警備員は安堵の涙を流した。恐怖が和らぎ、周囲の音もいくらか聞こえるようになった・・・・そして気付く、なにやら騒がしい集団がこちらに向かって歩いてくる。

「ワラ!」「ヤバイ!」「アレマッポジャネ?」「ワラ!」「なにしてンッスカー?」飲食物を片手にそぞろ歩いてくるのは、不必要にはだけた魔女とゲラゲラ笑うゾンビー、ネズミの耳をつけたヴァンパイアに二足歩行の犬。仮装した良識欠乏者だ!アルコールとイベントの空気にあてられ判断力を失い、閉館した建物に侵入してしまったのか!

警備員は叫んだ「あ、きみ達!出ていきなさい!こんな所でなにをしているんだ!」警備員は冷や汗をかく「ア、スマセーン屋上まで行きたいッスケドー」「ワラ!」「正直!」ナムサン!この青年たちは取り合おうとしない!

「そうですヨ、もう閉館しているので」暗がりから男が囁いた「ウワッ!」「ビクッタ!」不気味なほど丁寧に・・・・警備員は戦慄に近い不安を覚えた、声が、出せない「帰って、ドーゾ、まだ終電もあります」「いやでーす!」「ワラ!」「屋上でカウントダウンすっから!」ナムサン!この青年たちは取り合おう「ソイアーッ!!」「アバーッ!」


「・・・・エ?」「エ?」

「わるいコですね」

ネズミ耳ヴァンパイアの眉間には、銃弾が突き刺さっていた・・・・薬莢が付いたままで

「ヒイッ!ア、ア、」「ウワアアアアアアアア!」「幻魔ッ!!」魔女、ゾンビー、犬は蜘蛛の子を散らすように逃げ・・・・ようとしたが魔女は腰を抜かし、ゾンビーはコスチュームがもつれ転倒、犬は完全にパニックに陥りカカシめいて棒立ち、逃げられない!

「モシモシ?」ジャックオランタンが端末で通話を再開した。警備員は神に祈りながら、その恐ろしい通話を聞いてしまった「スミマセン途中で、ハイ・・・・そうですね・・・・あと3人居ますね、ころした後で・・・・ハイ・・・・いえいえ・・・・ではもう少しかかります、一人増えるようですので」

おお、南無阿弥陀仏。警備員は最悪の結末を確信した


その時だった


GASHHAAAAAAAAMM!!ガラスをぶち破り、藤色の風が舞い込んだ!!

「イヤーッ!!」長い髪を靡かせ、藤色の風はガラス片と共に勢いそのままジャックオランタンに殺到し、側頭部めがけてヤイバ斬撃を繰り出した!!「ソイアーッ!!」ジャックオランタンは素早い側宙でそれを躱すと回転エネルギーを転用しプロペラめいた蹴りキックを放つ!達人!!

「ヌウーッ!」アキはレッグアーマーで受けつつ斬撃時の慣性に身を任せキック作用を急所からずらし、あえて蹴り飛ばされることでダメージを軽減するとともにジャックオランタンの型殺陣射程外へエスケープした!業前!!

「そこのクソバカ三人!バカ面でアホみてーに見惚れてんじゃねェ!!サッサトうちに帰ってマスカキでもしてなー!!タコ!!」アキがすくみ上った青年たちへ向けて怒鳴った

「なん・・・あ、ああ・・・」仮装した青年たちは我に返り、這う這うの体で逃げ出す、警備員は・・・・すでにいない。「ブラボー、適切な避難誘導だ・・・・キミが噂の?」手をたたくジャックオランタン「どうも初めまして、おれは対魔人、アキです」アキはおじぎをした。

危険な幻魔に対して、挨拶とはいかに?隙を見せてまで礼節を重んじている場合なのか?と困惑される読者の方もおられるだろう。しかし、これは幻魔と対するうえで必要な事なのだ、古から天魔妖怪と対峙するうえで最も大切なのは礼節である。たとえこれから滅する相手だとしても、たとえ親の仇であったとしても、礼無くして対魔無しというのが古来からの対魔士の教えであった

そしてそれは幻魔もまた同じである「ドーモ、ジャックオランタンです。アキさん、キミはいいコですね、邪魔が入るならキミだと思っていました」ジャックオランタンが残心からゆったりとニュートラルへ体幹を移行する。「画像で見るよりカワイイ顔してますね?」アキは手が汗ばむのを感じた

ジャックオランタンに隙らしい隙を見出すことが出来なかった。先ほどの蹴りも、手心があった・・・・強い。だが、やらなくてはならない

「今回のテロ、中止にしてはいただけますでしょうか?」


プランA、開始


・・・つづく

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