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「あなたは神を信じますか?」と路上で問う人に突き出してみよう「レフト・ビハインド」。

10年代のニコラス・ケイジはキャリアのどん底だった。製作総指揮まで務めたディズニー映画「魔法使いの弟子」が全世界でこけたのが良くなかった。
そんな彼が2014年に主演した最底辺の主演作と言ってもよい「Left Behind」(邦題:レフト・ビハインド)より。
一言でいえば、キリストの再臨が起こり、信者が天に昇る中で、非信者は地上に残されるという終末予言が実現した世界で:生き残った人々が混乱と困難に立ち向かう様子が描かれる、というもの。「終末予言や信仰に関するテーマを継続的に掘りさげる」名目の元1995年にティム・ラヘイとジェリー・B・ジェンキンスが執筆した原作小説の映画化は多数(!!)あるとのことだが、それはさておいて。

2014年の映画においては、ニコラス・ケイジは、主人公であるパイロットのレイ・スティールを演じる。彼は飛行機が急に乗客の一部が消えたことに気付き、その後の混乱や出来事に立ち向かっていく…?


しかし「二兎追うものは一兎も得ず」という言葉がある。 本作のニコラス・ケイジがまさにそんな立ち位置だ。
一家を支える家長としても、乗客を救うヒーローとしても、描写が非常に中途半端で、魅力がまるでない。 ただでさえ半端役だというのに、脂はのっているがしかし当時40代の仕事に恵まれないハリウッド・スター:ニコラス・ケイジを起用したのは、いけない。演出の力不足とスターのオーラのミスマッチばかりが際立って、仕方ないのだ。

どうせなら、

・知名度と動員力がそこそこある。
・世界を救う顔をしている。
・腕っ節に自信がある。
・家庭人な演技もできる。
・でも落ち目。

そんなスターたるジャン・クロード・ヴァン・ダムやドルフ・ラングレンあたりにオファーすれば、まだ「奇をてらう」どころか、どこか蔑ろにされている主人公とマッチして、いっそう吸引力をもてたのではなかろうか。

パニック描写は尻切れトンボ。 ドライバーを失った自動車の暴走、治安の悪化といった二次災害が描かれているうちはまだいいが、次第に登場人物は室内ばかりをうろうろするようになり、「世界の危機」はまずテレビ画面の中に押し込まれ、次には忘れ去られる。
そのしわ寄せを一番に食らっているのが、航空機内の描写だろう。 小ぢんまりとした密室、機械音のしない無菌空間、最小限の登場人物。トドメは振動だにしない画面。あたかも、ホームドラマを見ているかの様な印象を受ける。 いくらでもCGや演出で補えるだろうに、何の努力もしなかった結果、半世紀前の「大空港」よりリアリティを持っていないのは、何の冗談だ?

終末予言をノンキに信じている信者の動員が見込めるから、ニコラス・ケイジに大枚叩いた訳だが、だったらもっとケツ叩かんかい。
終末予言の実現自体をCGスペクタクルで見せつける訳ではない。 何かにつけて御題目のように「天国に行けたんだ」「奇蹟は素晴らしいんだ」と言葉だけで語られるのが、実に白々しい。
トドメに、この事象を解説するべき牧師は、どこから俳優を拾ってきたのか、タラコ唇で胡散臭さ全開。こっちにニコラス・ケイジを使えよと。
トドメのトドメに、EDを流れるキリストを讃える歌は、70年代冬のデトロイトのスラムにて飢えと寒さで死にかけているシャブ漬けヒッピーの様に、非常に弱々しい。

なんにせよ、本作を観た後「貴方は神を信じますか?」と問われたとしても、答えは断じてNoだろう。反面教師なZ級映画。暇つぶしにどうぞ。


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