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きっかけは自分の周りの悩める生徒へ。今、わくわくエンジンという考え方を先生にこそ届けたい理由

わくわくして動き出さずにはいられない原動力「わくわくエンジン®」を持って活動している方たちを紹介する連載「わくわくエンジン®図鑑」。
認定NPO法人キーパーソン21がお届けします。

内藤幸久さんは長年にわたり中学校の教員を務め、4年前に退職。現在は神奈川県寒川町の公立小学校5校で指導員として活躍しています。小学校を訪問し、先生方に、先生になったきっかけや、大切にしていることを聴きながら、最終的には一人ひとりのわくわくエンジンを引き出すインタビューをしているそうです。子ども達や学校の先生、そして周囲の方への思いやりあふれる内藤先生の熱血ぶりをご紹介します。

【図鑑 No.11】
お名前

内藤 幸久
おしごと
寒川町の公立小学校で指導員として、先生一人ひとりの本質を引き出してわくわくさせること。寒川町教育委員会所属(教育フロンティア専門指導員)
わくわくエンジン®
周りの人がいきいき自分らしく生きるための環境を創ること

教師が通り一辺倒に、将来社会人になる時に今勉強することが必要なんだ、と言っても響かない


ー ー 中学校で『社会人に聞く会』という授業を長年やっているそうですが、何か始めるきっかけがあったのでしょうか。またどんな授業なんですか?

中学校の総合的な学習の時間に、この授業を10年以上行っています。
私たちは毎年新しい子どもたちと出会いますが、一人ひとりに課題はあります。私が若い頃は、自分の力で課題を何とかしたいと頑張ってみたのですが、結局気持ちがうまく伝わらずに

「どうせ俺なんか」「私は何をやってもダメなんだ」

という思いを抱えたまま卒業させてしまっていました。教師が教科書のように「そんなことはないから頑張れ」とか「社会に出たときに役に立つんだから、今勉強はしないといけない」という言葉じゃ子どもたちには響かないんです(笑)

でも世の中には「どうせ俺なんか」という思いを持っていた人も、今は輝いて生きる自分を実現させようと頑張っている大人がたくさんいますよね。だからそんな大人たちに声をかけ、子どもたちにリアルな体験をもとにメッセージを発信してもらおうと思って『社会人に聞く会』を始めたんです。

実際に自営や企業で仕事している人に、何を大切にしていて、どういう生き方をしているのか、今勉強していることは将来社会に出たときになぜ必要なことなのか、という話をしてもらいます。

教師や親以外の大人の話を聞くことはなかなかチャンスがないので、子ども達にとって貴重な体験だと思っていますし、将来のことが少しリアルに考えられるようになっていると思います。

ー ー キャリア教育を重視されているんですね。それでキーパーソン21に興味を持たれたのですか

元々『社会人に聞く会』の人材発掘のために、朝山代表の「未来に残したい仕事」という講演を聞きに行ったんです。その中で朝山さんが、自分を知る→社会を知る→自立する「夢!自分!発見プログラム」を学校で実施しているという話をしました。プログラムの内容にとても興味を持ったと同時に、朝山さんにも興味を持ちました。朝山さんて一体何者?普通の主婦がN P Oを作った?プログラムのことと朝山さんのことをもっと知りたくて説明会へ行きました(笑)

ー ー 説明会に行かれてどうでした?

朝山さんの「あきらめてしまう子どもたちを何とかしなければいけない。そんな思いでN P Oを立ち上げた」という話に強く共感しました。そしてそんな行動力がある朝山さんの生き方にとても興味を持ちました。
また「夢!自分!発見プログラム」は、「子ども自身が自分らしさや、自分が本当に求めている生き方に気づく。そんなことが可能になるんだ」と言っていました。同じ悩みを持っていた私は、自分の周りにいる子どもたちにどうしても繋げたい、と思いましたね。

周りの子どもたちへ繋げるため まずは自分が「夢!自分!発見プログラム」を体験


ー ー ご自身のわくわくエンジン®️を発見した時はいかがでしたか?

周りの人がいきいき自分らしく生きるための環境を創ること

という、自分の本質を言語化できた時は、自己肯定感がMAXでしたね(笑)自分が何のために生きているのか、どうして教師になろうと決めたのかという原点に戻ることができました
今でも何か困難なことが起こった時、この言葉を思い浮かべると不思議とエネルギーが湧いてくるんです。

わくわくエンジン®️を発見した時、ちょうど学年主任から教頭になったばかりの頃だったんです。学年主任や教頭って問題が起こったときに答えを出さないといけない立場じゃないですか。わくわくエンジン®️を発見する前までは、とにかく課題をテキパキ解決できることが有能な教頭なんだと思っていたんですが、発見後は、それは違うと思い始めたんです。

当時、自分がいた学校にとっての問題解決って学校側の都合や、ルールに準じて解決しなければならないんです。ときには子どもや両親に辛いことをお願いすることもあります。でも本来問題を解決するというのはみんなが笑顔になれなければ、本当の解決とは言えないじゃないか、と思うようになりました。

困っている人がいきいき自分らしく生きるために、自分にできることは何かを考えるようになりました。そんな時、わくわくエンジン®️が発動します。

そして、まちぐるみでプログラムを開催。子どもたち、先生、まちのひと、みんなわくわく


ー ー 内藤先生の中学校で、地元の方をまきこんでプログラムを開催されたと伺いました。その時の様子を教えていただけますか。

これまで2回やりましたね。中学校1年生を対象に夢!自分!発見プログラムの一つ、「すきなものビンゴ&お仕事マップ」を実施しました。
中学1年生が仕事をテーマに学校外の人(キーパーソン21のメンバー、地元の大人)と話すことはないので、とっても貴重な体験だったと思います。

高座郡寒川町ではまちづくり活動「『高座』のこころ。」というのがあって、まちの人たちがつながることを大切にしているんです。まちの人に講師になってもらったり、部活のコーチをしてもらったりもしています。『社会人に聞く会』もその一つです。

「すきなものビンゴ&お仕事マップ」というプログラムも、町役場の方を初め、まちの人たち20名ほどが参加してくれました。

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「すきなものビンゴ」は、自分の好きなものを言いながら、何で好きなのかということを話します。好きなことやものを話すので、みんな目を輝かせて発言します。なぜ好きなのかということも意識して考えることはなかなかないので、なぜ好きなんだろうと自分自身と向き合うことができます。また友達の好きなものを聞き、何で好きなのかを聞くことによって、友達のことをより深く知ることができます。

「お仕事マップ」
は、自分の好きなものを真ん中に書いて、それに関連する仕事を書いていきます。子どもだけだとあまり仕事の種類が出てこないのですが、ここで大人がいろんな声かけをしていきます。そうすると次から次へと関連する仕事が出てきます。自分の好きな事に関連する仕事がこんなにたくさんあるのだ、ということに気づくんです。そして色々な仕事の中で自分のわくわくエンジン®️を発揮できることを知ります。
そして何より自分が本当は、どんなことにわくわくするのか、何がしたいのか、ということを周りの大人達に認めてもらえるんです。それによって自分は自分らしくていいんだ、と思えるようになります。だから子ども達の自己肯定感は確実に上がり、顔がパッと明るくなります。

でも子どもたちはわくわくエンジン®️を発見してもすぐに忘れちゃうんですよね。本当は継続的に実施することでより効果が現れると思うんです。そう言う意味ではうちの学校では学期に1回「社会人に聞く会」という授業があるので、気持ちが持続するんです。

ある子が1年生の時に発見したわくわくエンジン®️は「人の役に立つこと」と言っていたのですが、2年生で「社会人に聞く会」の別プログラムで、今頑張っていることは何かという質問に「私は人の役に立ちたいと思っていて、今は看護師になるために頑張っています」と答えていました。

わくわくエンジン®️発見プログラムと社会人に聞く会の両方を経験した生徒は、確実に学びに対しての姿勢が変わり、また先生に対しても姿勢が誠実になりましたね。

ー ー 一緒に参加した先生や地域の大人の方の様子はどうでしたか?

わくわくエンジン発見プログラムを初めてやろうとした時、先生方は仕事が忙しいこともあり、あまり積極的ではありませんでした。でも2回目に実施しようと提案した時、前回体験したある先生が「ぜひやりましょう!!あのプログラムいいですよ。あれ以来、子どもが仕事を多面的に見るようになったんですよ」とおっしゃってくださって、すんなり決まったんです。
1回目に参加された先生達は、子ども達に話す言葉が変わったと思います。これまでは将来仕事を探す時は、お金のために苦しい仕事でも我慢してやらなければいけないと言う方もいましたが、そういう考え方をする先生は少なくなりました。

地域の人たちも大きく変わられたと感じています。先日あるお店を経営されている方に「あのプログラムに参加したら、自分が何のために仕事をしているのかがわかり、仕事が楽しくなったんですよ」と話してくれました。別のところでもそう言う話を聞きます。皆さん当たり前の生活を何気なく過ごしてきたと思うのですが、わくわくエンジン®️を発見し、原点に立ち戻ったら同じ仕事でも楽しめるようになったようです。

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生徒だけではなく先生にも必要なわくわくエンジン®️


ー ー 今のお仕事は教育指導員ということですが、どんなことをされているのですか

寒川町の小学校5校を回り、校長先生を始め学校の教師に一人ひとりにインタビューしているんです。これまで80人位の先生とお話ししています。先生には
① 現在住んでいるところ、出身地、小さい頃の思い出
② 先生になるきっかけ
③ 今大切にしていること、大切にしたいこと
という3つの質問をしています。
そして最終的にはわくわくエンジン®️に到達して頂こうとしています。
多くの先生から

「教員になってから初めて話した」
「自分がどんな教員になりたいと思っていたのか、改めて考えることができて嬉しかった」

という声が聞かれます。
特に若い先生方がわくわくエンジン®️を発見すると、自信を持てるようになり声のトーンも変わるんですよね。頭の中が整理できて、やりたいことがはっきりと見えてくるみたいですよ

とある先生のきっかけを聞くと・・・

小学校2年生の時が一番楽しかった、ほんとに楽しかったんですよ。その時の先生が、先生という感じじゃなくて、自分たちと一緒に学校生活や勉強を楽しんでいたんです。そしてその先生と出会ったことで、将来こんな先生になりたいと思ったんです。最終的には大学時代、学ぶことに特に興味があり、先生になったらどうかと教授にアドバイスされたことで教師の道を進む決意をしました。

今大切にしていること・・・

先生!という感じで子どもたちに上からの強い言葉や、何でも知っているみたいな先生ではなく、生徒と同じ目線で色々なことに興味を持って一緒に楽しむ教室にしたいんです。小学校2年の時に自分が感じた毎日楽しく、生徒と一緒に遊んだり学んだりする教員になりたいと思っています。そうしたらみんな笑顔になりますよね。

と言っていました。インタビューの間に何度か先生の目に力が入り、晴れやかな笑顔になる瞬間がありました。小学校の思い出の話のとき、教授から先生になったらどうか、と言われたとき、そして生徒と一緒に楽しく学びたいと話しているとき。そのことをフィードバックすると、彼女は「確かに!その話をしているとき、自分がわくわくしている感じがします!」と、とても嬉しそうでした。

同じ「楽しい教室」「笑顔の教室」という言葉でも、人にはそれぞれの背景があって、その背景からその方が大切にしていることが違ってきます。それに寄り添い、応援する。これが教育フロンティアとしての私のわくわくエンジン®️です(笑)

人間関係を築くときに何よりも大切なこと


ー ー 最後に内藤先生にとってわくわくエンジン®️とは何ですか


エネルギーの源だと思います。動き出さずにはいられないものですね。困難なことがあって立ち止まった時、自分が本当は何をしたかったのかを思い出すと、エネルギーが湧いてきます。

また関係性を築くときに相手を尊重するって大事なことじゃないですか。でも何でもかんでも尊重することがいいのではなくて、相手の本質を理解して尊重することがとても大切なんだと思います。キーパーソン21でいうところの「伴走」です。その人が何を大切にしているのか、その人のわくわくエンジン®️を理解し、それを尊重してあげる。それができれば相手は必ず元気になります。何を大切にしているのかは会話の中からも見つけることができるはずです。それができれば周りの子どもたち(生徒)も大人(先生)もみんな明るくなるのではないかなと思います。

ー ー ありがとうございました。先生のお話からも、どうしたらみんなが元気になれるのか、楽しくいきいきと過ごせるのかを常に考えていらっしゃることが伝わってきました。それは教育指導員という立場を超えて、先生が本当にやりたいことを実行されているのですよね。そのための努力は先生にとっては苦ではなく、むしろ楽しんでいるのですね。これからも寒川の子ども達、先生達がいきいき自分らしく生きられる環境を創っていってくださいね。

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(ライター・みゆきん)

わくわくエンジンって何?はこちら


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