宇野常寛
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『新宿野戦病院』と「雑さ」の問題
先日完結した『新宿野戦病院』は、ここしばらくのクドカンこと宮藤官九郎作品のなかでもっとも彼の持ち味がポジティブに発揮されたものだと思う。
しかし実のところ、僕は危うくこのテレビドラマを「1話切り」するところだった。それは初回の印象があまりよくなかったからだ。実はここ数年クドカンドラマのあの「クドカン喋り」が苦手になってきた。『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』のころはあの、あれだ
事物を「ひとり」で受け止めるとはどういうことか
ここ最近、考えていることがある。それは、事物を「ひとり」で受け止めるとはどういうことか、ということだ。
僕がこういうことを考えるようになったきっかけは、意外と自分の頭と身体で事物を受け止めている人は少ないのではないか、と思うことがこの仕事をする上でとても多かったからだ。
たとえば、僕はキャリアをサブカルチャーの批評から出発している。これは「好きなもの」を語る仕事のはずだ。しかし実際にこの
『きみの色』と「動機」の問題
楽しみにしていた映画『きみの色』をさっそく観てきた。明日はニッポン放送の吉田尚記アナウンサーの司会で、この映画についての座談会も配信する予定なのだが、その前に論点整理をしておこうと思う。
結論から述べてしまうと、この映画について僕は「総合的には」あまり関心しなかった。より正確に言うならこの作品については眼を見張るほど素晴らしい部分と、さすがにこれはないのではないか……と思う部分とがはっきりと分か
なぜ「デジタル」ネイチャーが「マタギ」につながるのか――『マタギドライヴ』の旅 #2
さて、今日は前回に続き、『マタギドライヴ』のための阿仁(打当)への取材を振り返りたいと思う。
僕たちはまず古い友人である秋田公立大学の石倉敏明さんに、マタギの発祥の地である阿仁への取材を考えているのだと相談した。
僕たちがこの時点で危惧していたのは、東京の情報産業やメディアの関係者が、ロマンチックな外部を求めて秋田の中山間地域の文化を見物に来る……といった図式に嵌まらないことだ。僕はもう何年も
『化け猫あんずちゃん』と「モラトリアム」の問題
最近観たものの中で、僕がとりわけ感心したのは『化け猫あんずちゃん』というアニメ映画だ。
これはいましろしんじの漫画を原作に、山下敦弘と久野遥子が共同監督を努めたアニメ映画だ。実写映画の監督である山下と、アニメーションを中心に活動する久野がコンビを組んでいるのは、この映画が「ロトスコープ」という実写映像で撮影した俳優の動きを絵にトレースする手法を採用しているからだ。しかも本作では、山下が実質的