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過激化する武力行使と学生銃撃事件|周庭

香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。10月1日は中国の建国記念日にあたる「国慶節」。この日、18歳の学生が警官に胸部を銃撃され重症を負いました。過激化する警官隊の武力行使の中で抗議を続ける周庭さんが、苦しい胸の内を吐露しました。(翻訳:伯川星矢)

周庭 御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第31回 過激化する武力行使と学生銃撃事件

香港の現状について3人の識者をお招きして生放送で議論しました。

ここ4ヶ月は、毎回PLANETSの連載の原稿を書く際に、とても迷っています。なぜなら毎月、香港で起きている事件があまりに多すぎるからです。毎日、毎週起きているそれは、香港人にとって果てしない苦痛です。より良い未来のためとはいえ、今、苦しみの中にある人は多すぎるくらいいます。

9月の下旬頃、日本の方々から香港デモに関する報道が減ったという連絡がたくさん来ていましたが、幸いなことに10月1日の国慶節(中国の建国記念日)の前日には、日本を含む国際社会の香港に対する関心が再び高まり、特に中央政府が国慶節前日あるいは当日に弾圧を強化するのか、二度目の「天安門事件」が起きるかどうかについて注目が集まっていました。

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▲中学生授業ボイコット集会の様子

そして10月1日当日、一人の18歳の学生が香港警察の職権濫用と狂気の下、左胸に実弾を撃たれました。弾は肺を貫き、心臓との距離はわずか3cmでした。

10月1日は中国の建国記念日ですが、香港人にとっては全く祝う価値のない日です。香港の自由・民主・一国二制度はここ10年の間に共産党によって蝕まれ、選挙制度を強権的に決められ、立法会議員は法解釈によって資格剥奪となり、反政府的な書店の関係者が越境誘拐される(※注)事件まで起きています。
香港だけではありません。中国大陸で毎日のように真相や公義を求めた民衆が、政権に逮捕、軟禁、虐待、あるいは「自殺させられる」ことが起きています。このような政権を記念する日が、祝うべき1日であるわけがない。

10月1日当日、香港人は各地で集会やデモを行いました、わたしもその一つに参加していました。バスから降りた瞬間、鼻を刺す様な催涙弾の匂いが襲って来ました。聞いた話ですと、わたしが到着する数時間前にはすでに警官隊によって催涙弾が発射されていたようです。
ここ数ヶ月、警察の武器使用の基準はだんだん低くなっています。警察条例によると、警察は催涙弾などを使用する前に旗を掲げて警告し、人々に退去する機会を与えてから武器使用をする規則になっていたはずでした。でも今、警察はいつも事前警告なしで武器を使用し、デモ参加者だけではなく、近隣の住民にも多大な影響を与えています。警察条例には民家の近くで催涙弾を使用してはならないという規定がありますが、今の警察はそれを無視し、催涙弾などの弾を上方に発射して民居の窓や敷地内に打ち込み、市民の安全と健康を脅かしています。
ちょっと前にネットで見ましたが、窓を閉めていたのに催涙弾の化学物質が家の中に入り込み、それによって飼い猫が中毒症状を起こして亡くなったという事件がありました。
確かに、窓をちゃんと閉めてても有毒ガスは屋内に入り込み(火災時の煙のように)、人体に悪影響をもたらします。しかし、香港政府の官僚や警察の上層部は、人の命はものともしません。デモの鎮圧と示威のために、香港市民の安全など全く気にしていないのです。

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▲最近撮った写真

警察が使用する武器の種類もだんだん増えています。催涙弾だけではなく、ペッパースプレー、警棒をはじめ、ゴム弾、スポンジ弾、ペッパー弾、ビーンバック弾などもあります。
そして10月1日、警察は初めてデモ参加者の心臓に向かって実弾を撃ち込みました。このような職権乱用と暴力が今後さらにエスカレートしていけば、将来的にどうなるかは想像もつきません。政府が緊急法を引用して「覆面禁止法」を打ち出したように、今後は緊急法を使って立法会審議を飛ばして法律の制定を強行するかもしれません。これは香港人の基本的人権が侵害されるのみならず、住民の安全保証に大きく影響する行動でもあります。

10月23日、香港政府は正式的に逃亡犯条例改定を撤回しました。しかし、もうすでに遅く、今さら引き返すこともできません。香港政府と警察は香港人の命を守らなかった。デモ集会の自由も奪われ、失った命ももう戻ってこない……。

たまにツイッターで日本の方々からこのようなコメントをもらいます、「いつになったら運動は終わるのか?」と。でも、外部の人が香港人に「冷静になれ」とか「止まれ」とか言うのは、あまりにも現実味がなく、かつ責任感に欠けてると思います。

確かに政府は改定案を撤回しました。でも、根本的な政治問題である官僚・警察・黒社会(マフィア)の結託が続いているし、そこに注目するべきたと思います。もしわたしたちがここで抵抗をやめたら、香港は完全な警察国家になってしまうでしょう。数万人が逮捕され、ウイグル人のように強制収容所に入れられ、本当の意味で一国一制度がやってくるかもしれない……。

先のことはわからないし、想像もしたくありません。ただ香港人には「引く」という選択肢はなく、自由・人権・民主のために戦うしかないのです。

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(続く)

※注:2015年に香港で禁書・絶版本を取り扱っていた銅鑼湾書店の関係者5名が失踪した事件。後に中国当局に拘束されていたことが明らかになった。

▼プロフィール
周 庭(Agnes CHOW)

1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政治組織「香港衆志」に所属している。

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宇野常寛が編集長をつとめる〈PLANETS〉の公式noteです。政治からサブカルチャーまで、ざまざまな分野のスペシャリストが集まっています。独自の角度と既存メディアにはできない深度で、読むと世界の見え方が変わる記事を月に20本以上の記事を配信しています。

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