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e-sportsはどう社会を変えるのかーー〈ゲーム〉と〈スポーツ〉の相克をこえて(前編)

世界的なe-sportsの隆盛に対して、ようやくキャッチアップをはじめた日本のゲーム業界。日本のe-sportsはどのような課題に直面しているのか。PLANETS副編集長・中川大地がコーディネーターを務めた明治大学でのシンポジウムの記録をお届けします。前編では、SEGA・eスポーツ推進プロデューサーの西山泰弘さんとウェルプレイド株式会社代表取締役CEO谷田優也さんが、日本のe-sportsの状況について報告します。
※本記事は「明治大学アカデミックフェス2018」(2018年11月23日開催)での各種プログラムを収録した電子書籍『知を紡ぐ身体ーー人工知能の時代の人知を考える』(明治大学出版会)の一部を転載したものです。
2019年11月23日に「明治大学アカデミックフェス2019」が開催されます。学生・一般の方を問わず無料でご参加できますので、ぜひご来場ください。

イントロダクション

明治大学野生の科学研究所研究員の中川と申します。
土屋恵一郎学長からのアカデミックフェスの主旨説明でもあったように、これからの知のあり方の「楽しさ」を考えていくことが、この「e-sportsはどう社会を変えるのか」と題したセッションの役割になります。ニュースなどで耳にしたことがある方も多いかと思いますが、e-sportsというのは、いわゆるデジタルゲームを使った対戦競技です。これが2018年に入って、非常に大きく盛り上がってきています。
もともと日本には、1970年代からゲームセンターや家庭用ゲーム機で根強くゲーム文化を培ってきた土壌があります。対して、世界では主にPCでプレイするゲームタイトルを競技種目に、個人あるいはチームを組んだゲーマーたちが高額な賞金をかけて対戦するのを一種のプロスポーツとして観戦するといったシーンが、ここ15年ほどで急成長してきました。そのような海外主導の競技文化を輸入するかたちで、いまようやく国内でもe-sportsブームが起きているという状況です。
こうしたゲームをめぐる異文化接触が、どのように社会を変えていくのかということを、今日は楽しみながら考えていきたいと思っています。実はこのセッションの後、「明治大学学長杯 三種混合e-sports大会」として、実際に大学でe-sports大会を行ってみようという取り組みを準備しています。その主旨紹介も兼ねたかたちで、今回のセッションを進めていきたいと思います。
最初にご登壇いただくのは、午後のe-sports大会の競技種目の一つである『ぷよぷよeスポーツ』のベンダーであるSEGA eスポーツ推進室プロデューサーの西山泰弘さんです。

e-sportsとは。そして何が生まれるんだろう。

日本におけるe-sportsの現状

皆さん、SEGAの西山と申します。私からは、「e-sportsとは。そして何が生まれるんだろう。」と題して、日本におけるe-sportsの現状や、SEGAのようなゲーム会社の立場からはどう見えるかというスタンスについて、私の個人的な考え方も交えながらご説明させていただきます。
まず、e-sportsとは何かについてですが、ゲームを通してプレイヤー同士がスキルを駆使して対戦することに加えて、ゲーム大会とその環境下でのプレイヤーとファンの共感の場、といった捉え方をさせていただいています。つまり、プレイヤー同士が競う大会が、観客を集める興行として行われるという構造があるわけです。
たとえばスポーツというカテゴリーには、個人的にキャッチボールをしたり、学校の運動会でリレーをしたり、さまざまな内容が含まれていますが、そのようなアマチュアの活動が裾野になって、プロ野球を観たり、オリンピックで応援したりする人たちがいます。あるいは関連グッズを売ったり、それを買ったりする人たちもいて、プロスポーツという興業が成り立っています。そのような活動を全部含めて、私たちはスポーツと呼んでいます。
ゲームについても同じことが言えるわけです。家庭でゲームを買って、ちょっと友達と対戦することもあれば、ゲームセンターやオンラインで見知らぬ誰かと対戦することもある。そこからいまではプロゲームプレイヤーと呼ばれる人たちが登場して、自分でプレイする以外にも試合を視聴したり、ファンとして同じ場を共感するという、スポーツビジネスと同じようなシーンが成立してきています。このような状況を指してe-sportsという表現があるのだと思っていただくと、わかりやすいかと思います。
国内でe-sportsが話題になっている背景には、2018年の2月に「JeSU(日本eスポーツ連合)」という統一団体が発足したことがあります。それまではe-sportsの業界団体は四つほどあったのですが、オリンピックやアジア大会、あるいは国体などの国内外のスポーツ競技大会に日本の選手が出場する場合の派遣主体になったり、競技種目となるタイトルの版権をもつゲーム会社とのあいだでの権利処理をしたり、あとは大会で選手に賞金を出す際の法律的な問題をクリアにするための窓口として、一つに統合したわけです。
そのような動きを受けて、国内のゲームメーカー各社も本腰を入れ始めて、2018年は「e-sports元年」と言われるようになりました。たとえば、私がいるSEGAグループ内でのe-sportsの事業部も4月に立ち上がりましたし、5月にはコナミの『ウィニングイレブン[註1]』が2019年に開催される国体文化プログラムに協力する告知があり、さらには、8月にジャカルタで開かれたアジアカップに採択されています。9月の東京ゲームショウでも、2017年のVRに続いてe-sportsがゲーム業界のいちばんのメイントピックとして扱われるような状況が生まれています。

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