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プロデューサーシップのススメ #03 地元産品を海外に売り込め!~茨城の成功例から学ぶ~

NPO法人ZESDAによる、様々な分野のカタリスト(媒介者)たちが活躍する事例を元に、日本経済に新時代型のイノベーションを起こすための「プロデューサーシップ」を提唱するシリーズ連載。第3回目は、日本貿易振興機構(JETRO:ジェトロ)でスタートアップ支援に携わる西川壮太郎さんです。このままでは「茹でガエルの釜」になるばかりの日本市場の先を見据えて、茨城の農業を世界に向けてブランディングすべく、西川さんはいかに生産者たちをinspireしグローカルなプレイヤーとして飛躍させたのか? 精度の高いコミュニケーションでリスクを抑えながらファースト・ペンギンの背中を押す見事な範が、そこにはありました。

 本連載では、イノベーションを引き起こす諸分野のカタリスト(媒介者)のタイプを、価値の流通経路のマネジメント手法に応じて、「inspire型」「introduce型」「produce型」の3類型に分けて解説しています。(詳しくは第1回「序論:プロデューサーシップを発揮するカタリストの3類型」をご参照ください。)

 今回はカタリストの第1類型、すなわち、イノベーターに「チエ」を注ぐ「inspire型カタリスト」の事例の第2弾として、日本貿易振興機構(JETRO、以下「ジェトロ」)で活躍する西川壮太郎氏をご紹介します。

 ジェトロは日本企業の海外進出を支援したり、海外からの投資を促進する政府機関です。国内外に120以上の事務所を持ち、展示会や現地視察ツアーを催したり、マッチングや情報提供などのサービスを提供したりしています。まさしく、国営のカタリスト機関として「コネ」や「チエ」を企業に注いで新規ビジネスを導くことがミッションです。

 ジェトロの信用力やネットワークは抜群ですが、国営ゆえに悩ましいポイントもあります。というのも、税金で運営されているので、公平性や中立性を守る必要があり、特定の企業を贔屓することは好ましくありません。ゆえに、ついつい受け身な仕事ぶりになってしまいがち、という弱点があります。しかし、実際に新しい取引を生み出していくためには、通り一遍のマッチングイベントの開催や情報提供だけでは足りません。優良なバイヤーと優良な生産者の間で真の信頼関係が結ばれるよう、精度の高いコミュニケーションを取り持つ必要があります。そのためには、あの手この手でひと工夫ふた工夫、していかなくてはなりません。ジェトロの担当者には、バランス感覚とビジネススキルと情熱を兼ね備えた、カタリストとしての手腕が高度に求められるのです。

 西川さんは、まさしく「真のジェトロマン」として、ハノイ事務所駐在時代、茨城事務所長時代をはじめ、圧倒的な実績を残されてきました。本稿では特に、バイヤーに関する徹底した調査分析を基に生産者を動かす西川さんの「チエ」の決定力に着目します。「ファースト・ペンギン」と共に跳び、共に成果を残していく、inspire型カタリストのお手本とも言うべきご手腕から学んでいきたいと思います。(ZESDA)

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日本という「茹でガエルの釜」

 ジェトロの西川と申します。本稿では、地元産品を海外に売り込むグローカル・ビジネス、特に茨城県が農産物を海外に輸出することによって地域活性化に成功した事例をご紹介します。この事例で得られた知見は他県の場合にも十分に応用可能だと思いますので、これを横展開して日本の地方経済の復興に少しでもつながれば、ありがたいと思っています。

 まずはクイズから始めさせてもらいます。『私たち日本人は、世界で何番目にお金を稼いでいる国民でしょうか?』日本は、アメリカ、中国に次いで、世界第3位の経済大国だということは広く知られています。しかし、これはあくまで国全体で計算した場合に限られるということはご存知でしょうか?日本が一年に稼ぐ金額(GDP)を一人当たりに換算すると、実は世界26位に大きく後退してしまいます。2018年の国際通貨基金 IMFの発表によると、日本の一人当たりGDPは年間約400万円(39,306米ドル)で、これはヨーロッパ諸国はおろか、シンガポールや香港の方々よりも稼ぎが低いということになります。今後のわが国が確実に迎えるであろう超高齢化社会や人口減少を鑑みると、労働力が減り、国内の需要も期待できない。このような環境では「海外で稼ぐ」ことを無くして、日本人が再び豊かな生活を取り戻すことはあり得ないと言えるでしょう。
 いざそう言われてもなかなか危機感を抱きにくいと思いますが、この問題はいつまでもなおざりにしておけるものではないかもしれません。「茹でガエルの法則」という訓話をご存知でしょうか? カエルは自分が泳いでいる池の水が急激に熱くなれば、その変化を察知して逃げるなどの行動を取とることができる。しかし少しずつ温度が上がり続けた場合は、そのうち何とかなるだろうと思ってそのまま同じ場所に居続けて、いつの間にか茹で死んでしまう、というお話です。この話の「池の水」を私たちの環境である「日本経済」に置き換えても、同じことが言えるでしょう。少しずつ人口が減り少しずつ売上が減っている、しかし今のところなんとかなっているという場合に、適切なタイミングで何らかの行動を取ることは非常に難しいのです。今は日本市場だけでも十分に食べていけるかもしれませんが、いつまでもそうとは限りません。将来への布石として、今からでも海外市場とのつながりを作っておくべきだと思います。

 しかし、もちろん盲目的に海外市場に挑戦するのはナンセンスです。海外市場にリスクが多いのは事実です。実際に私はジェトロ海外事務所(ベトナム及びバングラデシュ)での駐在期間中に、現地に進出する日系企業を支援してきましたが、現地企業に騙されて失敗した事例も数多く見てきました。契約金額を振り込んでも契約書通りに履行されないことなど日常茶飯事でした。ただ、そのようなリスクがある反面、人口がどんどん減少し、高齢化が進む日本国内に留まり続けることもリスクだと言えます。そして幸いにも、現在は海外企業との貿易決済においてリスクを回避する方法が数多くあり、正しく計画することで海外進出の際のリスクを最小化することができます。やみくもにリスクを恐れるのではなく、そのリスクの大きさや回避手段などを冷静に判断することが大切です。そうしたリスクヘッジの手段を踏まえた上で、経済発展が著しい新興国などに攻めていくべきではないでしょうか。

茨城からアジアへの挑戦

 茨城県からアジアに向けた挑戦は2014年から始まりました。私は、それまでベトナム、ハノイのジェトロ事務所に約4年間駐在していましたが、「茨城県にジェトロの地方事務所を新設するから、お前はその初代所長をやれ」というお声がかかり、それを機に日本に帰ってきました。
 茨城県に着任して真っ先に始めたのが、県内の44市町村の全てを見てまわることです。各地を実際に訪問することは、地図上を見て想定していたよりも大変なことではありましたが、今ではこの経験が私の財産となっており、生まれも育ちも茨城県民の方よりも私の方がむしろ詳しいという逆転現象が起きているほどです。
 各地の商工会議所などを訪問するにあたって、それぞれの地域にどういう課題があるのか、私が持っているノウハウはどのように活かせるだろうか、などと色々と考えました。やがて、根本的な課題の一つが浮き彫りになりました。あまり知られていないかもしれませんが、茨城県は北海道に次いで、農業産出額が日本で第2位を誇る農業県です。しかし、東京では茨城の農産品は他県のものよりも安く売られているため、農家の収入が低く、これが結果として後継者問題を深刻化させる原因の一つとなっていたのです。

 さらに調べてみると、その時点(2014年)では茨城県の農産品はほとんど海外に輸出されていませんでした。例えば茨城県はメロンの生産量が日本一でありながら、それすらも全く輸出されていなかったのです。この状況を何とかしなければならないと考えた私たちは、新たに農産品を輸出することによって地域を活性化させる戦略を考え始めました。茨城県の農産品を海外に輸出し、それをメディアで報道してもらうことでブランド化を図る。そうすれば、農産物の売価が上昇し、農家の方々の収入もあがるはず、という戦略です。
 結論を先に申し上げると、この取り組みは大成功をおさめました。こちらのグラフが茨城県の青果物輸出の推移を表しています。ご覧の通り、もともと0に近かった青果物の輸出は、おかげ様でその翌年から20倍の40トン、更に翌々年に4倍の179トン、と飛躍的に伸びていきました。さらに青果物だけではなく、茨城で生産されている常陸牛というブランド牛肉の輸出量も凄い勢いで伸びています。

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 一体ジェトロはどのようなカラクリで輸出を伸ばしたのでしょうか。

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