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『ブルー・バイユー』『白い牛のバラッド』──時代に共通する生きづらさ|加藤るみ

今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第25回をお届けします。
今回紹介するのは『ブルー・バイユー』と『白い牛のバラッド』。移民問題や死刑制度など、矛盾を抱えた社会制度が描かれた映像作品から、現代における「生きづらさ」について加藤さんが分析します。

加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage
第25回 『ブルー・バイユー』『白い牛のバラッド』──時代に共通する生きづらさ

おはようございます、加藤るみです。
最近は、Netflixで配信中の韓ドラ『その年、私たちは』にダダハマりしています。
このドラマが好きすぎて、終わってしまうのが悲しい。
美味しすぎるから食べるのがもったいない、とっておきのスイーツのような。
わたしは今までドラマをリアルタイムで追うことがあまりなかったのですが、こんな気持ちになるんですね……。

実はこの作品、宇野さんにオススメしてもらったんです。
めちゃくちゃ宇野さんに感謝しています。
今のわたしの生きがいですから。

物語は、高校生だったときに撮影したドキュメンタリーが人気となった元恋人同士が5年後再会するという、初恋をめぐる青春ラブストーリーで、再び出会ってしまったふたりの複雑な恋心や切ない過去にわたしは頭を抱えながら観ています。

高校時代から、大学、社会人になってからの挫折や葛藤、10年間の今と過去を行ったり来たり、現時点で12話まで更新されているんですが、耐えて耐えて耐えての激甘を見せてくれる韓国ドラマがわたしは大好きです。

しかも、各話のタイトルが名作映画のタイトルオマージュなのも、洒落てるんですよねぇ。
キャストは、『梨泰院クラス』のイソことキム・ダミと『パラサイト』の半地下一家の長男チェ・ウシクが元恋人同士を演じるんですが、ヴィジュアルもそうだけどふたりの演技力が高いからこその塩っぽさが素直になれない恋人同士という役柄にものすごくハマっているんですよね。

なんと言ってもふたりともモデル並の高身長だからゆるいファッションの着こなしが全部ステキに見える。

もう、ふたりが愛おしくてしょうがないです。

キム・ダミの主演映画『The Witch/魔女』('18)で、ゴリゴリに戦っていたふたりがラブストーリーになるとこんなにも可愛いだなんて……。

『その年、私たちは』、いよいよ終盤になってきて、ふたりの行く末がどうなるのか楽しみです。
まだ観てない方が羨ましい。今一番のオススメです。

さて、前回は2021年の振り返りだったので、今回が正真正銘2022年1発目の映画紹介になります。
今回は、映画の窓を通して世界のリアルを知る、社会の不条理に切り込んだ新作2本を紹介します。

まず1本目に紹介するのは、アメリカで国外追放を命じられた男性とその家族の運命を描いた物語、『ブルー・バイユー』です。

昨年のカンヌ国際映画祭に出品され、8 分間におよぶスタンディングオベーションで喝采を浴びた話題作で、映画『トワイライト』シリーズで名を馳せた韓国系アメリカ人ジャスティン・チョンが主演・監督・脚本を務めています。
移民の国アメリカで実際に起きている問題をセンセーショナルに描いた、ジャスティン・チョンの意欲作です。

韓国で生まれ、3歳の時に養子としてアメリカに連れてこられたアントニオは、シングルマザーのキャシーと結婚し、娘のジェシーと貧しいながらも幸せに暮らしていた。
ある時、スーパーへ買い物に行くとキャシーの前夫である警官と些細なトラブルを起こし逮捕されてしまった。
30年以上前の養父母による手続きの不備で移民局へと連行されてしまい、国外追放令を受ける。
アメリカの移民政策で生じた法律の"すき間"に落とされてしまった彼は、愛する家族との暮らしを守れるのか……。

この作品の特筆すべき点は、16mmフィルムの映像とジャスティン・チョンの演技力だと思います。
フィルム独特の映像のザラつきが、映画で描かれるどうにもならない現実とマッチしていて、焦燥感を煽ってきます。

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それと、アントニオの過去が描かれるシーンでは水を使い、より深く暗く見せる演出や、映像のブレを見せることによりドキュメンタリーのような臨場感を醸し出す演出も独特で、監督としてのジャスティン・チョンの熱意が感じられました。

それに加えて、アントニオを演じる彼の俳優としての顔。
前科を持ち、生きるために過ちを起こしてしまう愚かな一面もあるけれど、家族想いの優しい男を真っ直ぐに演じていて、この作品については彼の演技が素晴らしいとしか言いようがないです。

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そして、なんと言ってもラストシーン。
これを観て泣けない人はいるのでしょうか?
映画を観て、ちゃんと泣いたの久しぶりかもしれない。
ただただ、泣きました。
ラストで描かれる、主人公のアントニオが家族の為を思った決断は、多分大体の人は途中で予想がついてしまうベターなストーリー展開ではあるんですが、それでも泣けます。
ラストは、ジェシー役のシドニー・コウォルスケちゃんの演技力が爆発するシーンで、やっぱり子供の涙はズルいです。

そんなん、泣くに決まってる。
キャシーと前夫の娘であるキャシーは、血の繋がりはないけれど、娘という事実には変わりない。
血の繋がりを超えた、父と娘の愛に泣かされます。

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容赦ないアメリカの司法制度に怒りが込み上げてくる、エンドロールにも注目です。
2月11日全国公開予定です。

ぜひ、劇場にてご覧ください。

2本目は、気鋭の女性監督が描く、イランの冤罪サスペンス『白い牛のバラッド』です。

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