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『オン・ザ・ロック』──浮世離れした「彼女の物語」から「私たちの物語」へ|加藤るみ

今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第9回をお届けします。
今回ご紹介するのは、巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘、ソフィア・コッポラ監督の最新作『オン・ザ・ロック』です。
昔ながらの破天荒な父と現実主義者の娘がマンハッタンの夜を駆け巡る冒険を面白可笑しく描いた本作。今までスーパーセレブ独特のきらびやかな世界観を描いてきた彼女の作風にはいまいちハマれなかったというるみさんですが、本作は傑作だと太鼓判を押します。

加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage
第9回 浮世離れした「彼女の物語」から「私たちの物語」へ──ソフィア・コッポラ『オン・ザ・ロック』

おはようございます。加藤るみです。
今回は、私が今までハマれなかった、ある監督の最新作を紹介します。

正直、これまでまったくと言っていいほどピンとこない監督だったんですが、この作品をキッカケにどうしようもなく大好きになってしまいました。

ご紹介する作品は、『オン・ザ・ロック』。
Apple Original FilmsとA24が製作を手掛けた、ソフィア・コッポラ監督の最新作です。

言わずと知れた映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘、ソフィア・コッポラ。
彼女の映画は絵画のように美しいビジュアル、ポップでキュートな衣装やハイセンスな音楽が特徴で、まさに誰もが憧れる煌びやかな世界が広がる、ガールズムービーのレジェンド的存在です。

誰もが憧れるゴージャスな生い立ちを持ち、時には偉大な父を持つ二世ならではの苦悩さえも武器にする、自伝的要素が強めな作品の数々。
地位も名誉も兼ね備えたスーパーセレブ独特の目線で描かれていて、クリエイティブな才能に溢れた映画一家で育ったからこその育ちの良さがビシバシ伝わってきます。

特に、アカデミー賞で脚本賞を受賞した『ロスト・イン・トランスレーション』('03)は、小さな頃からハリウッドで育ち、よく父の仕事についていったという、映画界をその目で見てきた彼女にしか作れない映画になっていると思います。
前夫であるスパイク・ジョーンズ監督とのすれ違いをインスピレーションにしていたのも明白で、非常にプライベートフィルム的要素の強い作品です。

セレブのかったるい日常を優美に描いた『SOMEWHERE』('10)もまた、自伝的要素が強い映画で、エル・ファニングの可愛さだけが印象的でした。

さらに、実際にあったティーンエイジャーの窃盗事件を基にしたクライム・ドラマ『ブリングリング』('13)では、何不自由なく育った裕福な少年少女が欲を満たすため遊び感覚で窃盗を繰り返すという、凡人には到底理解できない危うい感覚やギラつきを描いています。

というように、ソフィアの映画はわりとしっかり追ってきたつもりですが、最初に書いたように、これまではいまいちハマれず、ときめきを感じることができなかったんです。

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