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母と娘の物語

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書評家の三宅香帆さんによる、国内のさまざまなフィクションで幾度も反復して描かれてきた「母」と「娘」の物語に潜む本質を読み解く連載
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#三宅香帆

藤野可織──自覚する娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。東日本大震災の後、2012年以降に増え始めた「母娘」の対立を描いた諸作品。「父と息子」のように単純な構図では捉えきれない関係を象徴する作品として、藤野可織の『爪と目』を考察します。 三宅香帆 母と娘の物語 第十一章 藤野可織──自覚する娘|三宅香帆1.年齢を重ねてからも続く前章では、東日本大震災以後の2012年に『ポイズン・ママ 母・小川真由美との40年戦争』(小川雅代、文藝春秋)、『母がしんど

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川上未映子──保守化する娘(後編)|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回取り上げるのは川上未映子の作品です。母を愛し、自らも母となる「保守化」した娘が諸作品で描かれていた1990年代。一転して川上未映子が2008年に描いた『乳と卵』には、母を愛しながらも、「母性」の暴力性に自覚的であるがゆえに葛藤する娘の姿がありました。 (前編はこちら) 三宅香帆 母と娘の物語 第十章 川上未映子──保守化する娘(後編)|三宅香帆3.母性の暴力性―『乳と卵』2008年、信

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川上未映子──保守化する娘(前編)|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。団塊ジュニア世代の漫画家の多くが「母殺しの困難」「重みとなる母」を描いていたのに対して、1990年代には素直に母を愛し、自らも母性を獲得していく娘が諸作品でみられるようになりました。そうした娘の「保守化」が生じた1990年代の作品史をたどります。 三宅香帆 母と娘の物語 第十章 川上未映子──保守化する娘(前編)|三宅香帆1.保守化する娘―団塊ジュニア世代の娘たち本連載でも冒頭から見てきたように

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芦原妃奈子──なぞる娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回取り上げるのは芦原妃奈子の作品。少女漫画における母による娘の支配と、その克服はどのように描かれていたのかを考察します。 ※7月から、リニューアル準備のためメールマガジンの配信日を「月曜日と金曜日」に変更とさせていただきます。今後とも各媒体での記事・動画の配信や書籍刊行を含め、さらなるコンテンツの充実に務めてまいりますので、引きつづきPLANETSをよろしくお願いいたします。 三宅香帆 母と

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小花美穂・槇村さとる──憧れる娘(後編)|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。1990年代の少女漫画に登場するようになった「自由な母親」は母娘関係にどんな変化を与えたのか。1994年に連載が始まった『イマジン』などの作品から考察します。 前編はこちら。 三宅香帆 母と娘の物語 第八章 小花美穂・槇村さとる──憧れる娘(後編) 3.家父長制を境界にした母娘シスターフッドー『フルーツバスケット』『こどものおもちゃ』において、紗南にとって実紗子は母というよりも、良きメン

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小花美穂・槇村さとる──憧れる娘(前編)|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。小花美穂・槇村さとるの作品から見出せる、少女漫画における「理想」の女性像の変遷とは? ユートピアとしての「家父長制の外部」をキーワードに、1994年に連載開始した『こどものおもちゃ』について分析します。 三宅香帆 母と娘の物語 第八章 小花美穂・槇村さとる──憧れる娘(前編)1.少女漫画の「自由な母」像が指差すもの本連載では、これまで伝統的な家庭像のなかで描かれる母娘表象に注目し分析してきた。特

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よしながふみ──許されない娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回取り上げるのは漫画家・よしながふみの短編連作集『愛すべき娘たち』です。謙虚であることを要請されてきた女性を描いた本作品は、時代とともに変化してきた女性への抑圧を描いていると読み解く三宅さん。2000年代初頭の、ポストフェミニズム思想の過渡期ともいえる時代性についても指摘します。 三宅香帆 母と娘の物語 第七章 よしながふみ──許されない娘1.傲慢をめぐる『愛すべき娘たち』よしながふみによる短

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角田光代──嫉妬される娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回は小説家・角田光代の作品で描かれる母娘関係について考察します。母親から娘へ、または娘から母親へ注がれる同化の視線が交差して描かれる角田光代の小説『銀の夜』。各々の登場人物が持つ嫉妬の感情について考察します。 三宅香帆 母と娘の物語 第六章 角田光代──嫉妬される娘1.母と娘の嫉妬の関係前章で母と娘の関係には、同化のまなざしがあることを指摘した。母から娘への独占や同化という欲望は、母息子の関係

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松浦理英子──同化する娘(後編)|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回は松浦理英子の小説をめぐる考察の後編です。短編小説「肥満体恐怖症」は、肥満体質の母を病気で亡くした主人公・唯子が肥満体の同級生たちから持ち物を盗む話です。主人公を通して、母から娘だけでなく、娘から母への感情にも同性愛的な愛情が存在することを示唆していると指摘します。 (前編はこちら) 三宅香帆 母と娘の物語 第五章 松浦理英子──同化する娘(後編)4.侵入を許す娘 ──「肥満体恐怖症」

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松浦理英子──同化する娘(前編)|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。同性であるがゆえに娘に強い同一化を求める母娘関係は、これまで様々なフィクションで描かれてきました。今回は小説家・松浦理英子の作品で描かれる母娘関係を手がかりに、同一化欲求を超えた「愛情」を望む母娘関係について、前後編で考察します。 三宅香帆 母と娘の物語 第五章 松浦理英子──同化する娘(前編)1.母娘と「ヘドロのような」同一化欲求母と娘の関係と、父と息子の関係の何が最も異なるのか。 もちろんそ

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氷室冴子──認められたい娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回は小説家・氷室冴子が描いてきた母娘関係をめぐる考察です。「働く女」として従来の女性像を追求する「母」との対立を自らのエッセイに綴った氷室の母親観を、1984年の小説『なんて素敵にジャパネスク』での母の不在から読み解きます。 三宅香帆 母と娘の物語 第四章 氷室冴子──認められたい娘1.弱い母──団塊の世代とその後第一章、二章で扱った萩尾望都と山岸凉子はそれぞれ1949年生まれ、1947年生ま

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よしもとばなな──無自覚な娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回取り上げる作家は小説家・吉本ばななです。数々の印象的な「食」を描いてきた吉本ばななの諸作品を、現在連載中のエッセイと重ね合わせ、「母」と「食」をめぐる関係性を論じます。 三宅香帆 母と娘の物語 第三章 よしもとばなな──無自覚な娘 「どうして君とものを食うと、こんなにおいしいのかな。」  私は笑って、 「食欲と性欲が同時に満たされるからじゃない?」  と言った。

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山岸凉子──貞淑な娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。今回は漫画家・山岸凉子が描いてきた少女像をめぐる考察です。1979年の短編「天人唐草」をはじめ、親によって「性」を抑圧されてきた少女像を描き、従来の少女漫画に真っ向から向き合ってきた山岸凉子。代表作『日出処の天子』、短編作品「鏡よ鏡…」では、性を抑圧する母親との関係性において「貞淑さ」に焦点を当てます。 三宅香帆 母と娘の物語 第二章 山岸凉子──貞淑な娘山岸凉子は日本の少女漫画史、というよりも

萩尾望都──ゆるしたい娘|三宅香帆

今朝のメルマガは、書評家の三宅香帆さんによる連載「母と娘の物語」をお届けします。いよいよ本編第一章に入る今回は、萩尾望都による3作品に焦点を当てます。母娘問題を描いた作品として代表的な『イグアナの娘』、母と娘の愛着を描いた『由良の門を』そして「弱い母」による呪いを描いた『残酷な神が支配する』。萩尾望都が「母の呪い」をどう描いてきたのかに迫ります。 三宅香帆 母と娘の物語 第一章 萩尾望都──ゆるしたい娘1.『イグアナの娘』と共有されるコンプレックス萩尾望都の「母と娘」の物語

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