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家の燃費

僕の実家は札幌市にあって、外の寒さは厳しくても家に帰れば暖かい…というのが子供の頃の冬の当り前だった。大学で長野に出ると、家からその当たり前の暖かさはなくなっていた。住んでいた安アパートでは、朝起きると蛇口から氷柱がたれていることもしばしば。実家暮らしの友達の家にお邪魔しても、局所的にこたつで暖を取る家が多く、部屋全体が暖かい北海道のような家には出会わなかったような気がする。古い家は特にだが、比較的新しい住宅で比べてもその傾向は変わらず、長野では冬の寒さは耐えるものだった。北海道出身の建築学科の学生にとっては、雪が降り積もるくらい寒いのは同じなのに、どうして長野では北海道のような暖かい家を造らないのか、ずっと疑問だった。技術的には可能なのに、経済的理由からなのだろうか…でも暮らしていてそのようには感じられない。理由はともかく、この実体験を通して建物の性能の違いを肌身で感じることができた。

車の燃費を気にする人は多い。実際、◯◯km/Lという車のガソリンの燃費の単位は多くの人が理解しているし、ハイブリッド車は燃費という点で多くの人に選ばれ、その車を乗ることが地球環境に配慮しているという意思表示にさえなっている。一方、家の燃費を気にする人は少ない。車の燃費ほど単純に考えられない部分はあるが、自分の住んでいる家が他の家と比べてエネルギー効率が良いのか悪いのか、光熱費はどうなのか、◯◯km/Lみたいな具体的な数値を取り上げて話せる人はほとんどいないのではないだろうか。

資源エネルギー省のデータをみると、家庭部門で消費されるエネルギーが日本の全エネルギー消費の15%を占めていることがわかる。オイルショックから2倍にも膨らんだ家庭でのエネルギー消費を用途別にみると、住宅の性能を上げて燃費を良くすることは、省エネルギー化に有効であることは明らかだ。省エネ先進国であるヨーロッパの国々では、ずいぶん前から厳しい住宅の省エネ基準が設けられ適合が義務化されている。日本でも法整備が進められているようだが義務化までには至っておらず、基準自体も先進国に比べると緩いものとなっているようだ。

長野の家が北海道の家に比べて寒かったのは、単純に断熱/気密性能が低かったから。壁厚は薄く、窓は1重ガラス。天井をずらすと屋根裏が覗ける、そんな造りの家だった。ダウンジャケットとコートとでは暖かさが全く違うの同じで、家においても全く同様のことが言える。極寒の地ではダウンジャケットが必要なのだ。ダウンジャケットだと夏暑くて困りそうだが、建物の場合、断熱/気密性能に優れているということは、エアコンで冷やした温度もより長くキープすることができるということになる。つまり、断熱/気密性能は一年を通して省エネルギーと快適性に有効に働く。

冬の寒さは耐えるものだと寒さを耐え凌いでいる間、日本の住宅の省エネルギー化はどんどん遅れを取り、今や先進国で最低レベルとなってしまっている。一方、燃費の悪い家は地球環境にとって良くないことは、すでに世界の常識となっているようだ。


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