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わかおのわくわく免許合宿1

免許を取ろうと思った。いつその決心をすることができたのか覚えていないが、今年の春休みくらいには合宿免許に友達を誘ったような気がする。免許を持っていないと釣りに行くのも一苦労だし、友達に運転を丸投げするのも肩身が狭い。なら、親のスネをかじっていられるうちに免許をとってしまおうという軽率な目論見である。本当に軽率だった。

高校の同級生で、なぜか2回も京大に合格して現在大学一年生をやっているIを誘った。Iは偏屈な割にフットワークは軽いので、すぐにオーケーしてくれた。

この段階でのぼくは、免許合宿に対して「楽しそう」「旅行ついでに免許も取れるなんて、チョーお得じゃん」程度の認識しか持っていなかったので、合宿所も「海が近くて釣りができるから」という理由だけで長崎県は佐世保市の共立自動車学校を選んだ。

そしてぼくの悪い癖だが、よく確認せずに予定を詰め込んだ結果、秩父で行われるフェスに行ったあと、成田で前泊し(安さだけを見てクソほど早い時間の飛行機を取ってしまった)、翌朝飛行機で博多へ行くという鬼スケジュールが自動的に組まれてしまっていた。ぼくは忙しいのが死ぬほど嫌いなのでそのことに気がついた3〜4日まえからもう憂鬱で仕方なかったのだが、フェスでカネコアヤノが観れるということだけを心の安定剤にしてその日を迎えた。

大学の友だちのアイザワくんと、所沢で待ち合わせして西武秩父駅に向かった。中学高校と野球部の合宿が決まって秩父の山奥で行われていたため、秩父に対してはどちらかといえばネガティブなイメージしかない。野球場から旅館まで、永遠にも思えるほどの長距離を走らされているときに、段々と口の中に広がっていくいやな鉄の味を今も鮮烈に覚えている。普段ちゃんと練習していないのに、合宿のときだけ張り切って、本当に無駄だったと思う。

大学生になったOBが来て、マネージャーといちゃつくのも嫌だった。中学生くらいの頃はぼくもピュアピュア童貞少年だったので「恋愛してるなあ、大人だなあ」とか思っていたが、世間知らずな女子高生を大学生がたぶらかすことの醜さが分かるようになってからは、結局あいつらはダサ坊、ダサ嬢だったんだなと思うようになった。

そのいやな思い出を除けば、秩父といえばわらじカツと味噌と長瀞とせいぜいジビエか。失礼ながら、西武鉄道が謎に激推ししているだけで、大して芸のない場所だと思っていた。

適当に本など読んでいるうちに西武秩父駅につき、シャトルバスに乗り込んで山奥の会場まで向かった。ぼくが行くようなライブやフェスは、サブカル臭を漂わせた男女の集いになっている。サブカル人間たちは、自然とみな似たような格好になっていく。バスの待機列ではおよそ7割の男女が、色とりどりのバケツみたいな帽子をかぶっていた。人と違うことがある種名誉となるサブカル界隈で、どうしてこんなに人々の格好が同質化するのだろうか。結局人は、周りと一緒じゃないと落ち着かないのだろうか。サブカルだ何だ言ってるだけで、このひとたちもきちんと血の通った人間なんだろうと思った。絶対にぼくはあの帽子をかぶらないぞと思った。何に対する反抗なんだ。

サブカルども

「芸のない場所」とか言っておいて申し訳ないが、フェス会場で売っていた秩父グルメはおいしかった。地ビールがうまいのは当たり前のこととして、みそポテトやホルモン焼き、鹿肉の串など、全部味がしっかりしていてビールに合う。この時点でぼくのなかでは、陽気な外国人が「I ♡ Chichibu」というTシャツを着て小躍りを始めていた。

ホルモン焼がケバブの皮に巻かれているやつ
地ビール。見た目通り少し甘くてうまい
クソデカみみず、これも秩父ならでは

だんだん酔いが回ってきて、いい気持ちになったところで、くるりのライブが始まった。音響のテントの真裏の席しか空いていなくて、ステージ上は見えなかったが、別に熱唱する岸田繁を見たいわけではないのでそれでいいかとなった。くるりのライブはよかった。そこまでくるりを熱心に聴いたことがないぼくでもわかるような、有名な曲を多くやってくれた。いきなり走り気味の「琥珀色の街、上海蟹の朝」のイントロからライブが始まったのは、あまりにも格好良くてしびれた。特に「ハイウェイ」という曲の「ぼくが旅に出る理由はだいたい百個くらいあって(中略)みっつめは車の免許とってもいいかななんて思っていること」という歌詞にやられた。あまりにも自分のことだったからだ。MCも慣れた様子で、プロのミュージシャンとして何十年もやるっていうのは、こういうことなんだなあと身につまされたような感じがした。

その後少し間が空いて、カネコアヤノのライブが始まった。カネコアヤノに関しては、彼女が歌っている姿をできるだけ長く網膜に焼き付けておきたいし、なんなら彼女の歌によって震えた両耳の鼓膜をそのままずっと震わせておきたい(さすがにキモすぎ)ので、前の席で立ち見した。ちょうど一年前くらいに見たときよりも、カネコアヤノは更にパワーアップしているような気がした。パワーアップというか、フォルムチェンジか。ドラムが変わったからなのか、よりロックンロールの趣が色濃く出ていてかっこよかった。しかしカネコアヤノは本当に声がでかい。あの小さな体のどこからあんなに大きな声が出るのだろうか。それなりに雑談をはさみながらライブをするくるりとは対照的に、カネコアヤノは全くMCをやらない。そういうところも思想が垣間見えて好きだ。というかぼくはカネコアヤノが何をやっても、もう好きなのかもしれない。これが好きってことなのか。わからないけど。

時間の都合上カネコアヤノのライブを見終えたらすぐに出ないといけなかったので、大トリのフィッシュマンズのライブは観れなかった。噂によれば、ものすごかったらしい。

西武秩父から京急成田までの気が遠くなるほどの移動時間をなんとかやり過ごし、駅についた頃にはもう店もやっていないような時間だったので、Iと合流して、かろうじてやっていた粉物の店で焼きそばを買って宿で食べた。焼きそばは意外と美味かったけれど、コンビニで買ってから宿につくまでの間にすっかりぬるくなってしまっていた生ジョッキ缶の味が舌に残ってなんだかいやだった。

うまかったけどね

次回予告
わかお、初めての九州上陸と博多の夜。
わかお、運転に向いていない。
わかお、長崎のよさに気づき始める。


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