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母と私と、そしてピアノ

実家のピアノが運び出されたその晩、
母は、先を急ぐように逝ってしまった。

「明日電話しよう」と思っていた私の思いを
まるで読み透かしていたかのように。

あっという間に、逝ってしまった。
母は、待ってはくれなかった。

実家からピアノが運び出された日は空が晴れていた


そんな、悲しみもまだ消えない最中
私のピアノの弱点をえぐる事件が勃発した。

私のピアノの弱点・・・

それは、自分のピアノに自信が持てないこと。

人前でピアノを弾く仕事をしているくせに
「私、下手ですみません」
と思ってしまう自分がいる。

いつもではないけど、
特定の条件が揃ってしまった場合、
人前で弾くことが、とてつもなく怖くなる。


「自信がない」
自分のピアノに「自信がない」

ピアノに関しては、
自慢じゃないけれど、
かなり自信が無い方だと思う。


自信がないから、
他人に認められたくて、

他人から
「わかなちゃんはピアノ、上手よ」
と言ってもらいたくて、

留学時代は、やたらコンクールを受けまくっていた。

コンクールで結果を出せば、
他人から認められる。
だから、「私はピアノが上手」って証拠になる。

そしたら堂々と大きな顔で
ピアノを弾いていける!と思ったのだ。


だけど、受けても受けても
一度も、一次を通過することはなかった。

だから私は思った。

「あぁ、やっぱり私はピアノが下手なんだ」


これは、消し去りたい
黒歴史の一つ。

消したい過去も自分の一部


そんな私の「弱点」をえぐる出来事が
この時期に、勃発した。

本当に久しぶりに、
心が、嫌な方向に揺らいだ。
感情が、ものすごい勢いでかきむしられた。

なんで今?
なんで今、この出来事が起こるの?

母が亡くなったこのタイミングで、
なぜ、ピアノの、この件?

なぜ?なぜ?なぜ?


メンタルは自分で整えられている
という自負があったけど、
全然ダメだった。

すごい、きつかった。


できることをした。
一生懸命、自分と向き合った。

自分に問いかけたことはただ一つ。

「なぜ、今のこのタイミングで、
この出来事が私に起こったんだろう?」

全ては起こるべくして起こっている


ほぼ1ヶ月かかって
ようやくぼんやり見えてきた。

絡まりに絡まって、
もうほどけないと思われていた糸の
結び目が、少し緩んできた。


「他人から認められたい」
その思いが、自分で自分の首を絞めていて、
留学時代は、蟻地獄にいるかのように
もがいていた。


学生を卒業したとき
「私、卒業したからもう自由だ。
誰かと比べられることもない。
私は私のピアノを演奏するだけ。」

大丈夫!
私は人目を気にせず、楽しくピアノを弾いてる!
とずっと思っていた。

でも、それは幻想だった。


実は、「弱点」が突かれる事件は、
今回が初めてではない。

考えたら、直近で3回ほど繰り返している。

なんでまた?
なんでまた同じパターンを繰り替えすの?

奥底の意識を確認しに行く


母親だった。

「わかなちゃんは、ピアノ上手よ」
そう言ってもらいたかった相手は
他の誰でもない、ただただ母親だった。

「他人から認められたい!」
の欲望は、
結局のところ

「母親から認められたい!」
の一心だった。

他人どころか、身内ではないか・・・


細かなことはここでは省くけど、
小さい頃の私が見ていた母親像
そして母親が見ている、ピアノと私の関係

それらがいろいろ絡み合って
今の私の「ピアノに自信が持てない」を作り上げている。

このことに、気付いてしまった。
気付きたくなかったけど、気付いてしまった。

だから、今回のような、
私の気持ちをものすごく嫌な方向に揺さぶる
出来事が起こってしまうんだ・・・
しかも、何度も・・・

ということにも、なんとなく気付いてしまった。


母の名誉のために言っておくけど、
母は私に「下手ね」と言ったことは一度もない。
ダメ出しをされた記憶も、ない。

そして、「上手ね」と言われた記憶も、ないのだけど・・・


母の、無意識にしていたと思われる行動を、
子供の私が敏感に察知してしまっただけの話。

そのことが、
「わかなちゃんは、ピアノあまり上手じゃないから」
という世界を
私が勝手に作り上げてしまっただけの話。

母は何も悪くない。

そして私も、何も悪くない。

二重の虹がかかっていた(うっすら見える)


さて、じゃあこれからどうしようか・・・

「上手ね」と言ってもらいたかった母は
もういない。

だったら自分で自分に
「上手ね」と言ってあげるしかない。


そして、私とピアノの新たな章を
これから作っていかなければならないような気がしている。


私とピアノの新たな関係は
今から始まったばかりで、

そしてまだまだ模索状態だけど、

きっとゆっくり、
素敵な信頼関係を
築いていける気がする。

実家にあったピアノ。新しい家に来て輝いている。母も新しい世界で輝いていることだろう。


さいごに・・・

人は、死をもってまでも
残された人にメッセージを残していくそうです。

母からのメッセージはなんだろう・・・

まだまだわかりそうにないと思っていたけど、
なんとなくわかりそうな気もしています。


人前で演奏するのが怖いとか、
本番になると極度に上がってしまうとか、
何かトラウマがあるとか、
自信がないとか、

そういうことをお持ちの、
どこか誰かの、
何かヒントになったら嬉しいな・・・
と思い、今回この文章を書く決意をしました。

どなたかの参考になったら嬉しいです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

日は沈み、日は昇る




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