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きつね日和初単独ライブ『荼枳尼天』(2024.9.16)中編

9月16日に座・高円寺2で開催された、きつね日和初単独ライブ「荼枳尼天」

芸人の初単独ライブとしては異例のキャパ300席だが不断の努力でチケットは完売御礼。

ライブは2時間で漫才12本。昔からのファンやお笑い好きも満足出来るように自信のネタをこれでもか!!!と言うくらい見せつけた。
また一方で「お笑いライブが初めての人も楽しめるエンタメ要素がある」と予告していた通り、物販にハズレなしで景品が当たるおみくじがあったりライブの演出や構成にも飽きさせない工夫があった。

どの観客も笑わせて楽しませた2人。

しかし、あの場所で最も初単独ライブを楽しんでいたのは他でも無いきつね日和の2人だったと思う。

前編


きつね日和の歩みを辿る漫才

座・高円寺2に置かれた初単独ライブポストカード

2019年にコンビを結成したきつね日和。2人の漫才は試行錯誤を重ねて現在の形になる。

初単独ライブでは
・結成初期
・おいなりボケ期
・ダメだろー期
の3期に分け、幕間VTRを挟みつつ8本の漫才を順番に見せた。

2人の登場前には舞台上スクリーンにアニメーションが映し出される。巻物が現れ、クルクルと開かれると中には上の三つの項目が縦書きで記載されている。そのうちの一つが大きく浮かび上がり、続いて画面いっぱいに漫才のタイトルが表示される。ここまで凝った演出は大手のネタライブでもあまり見たことがない。

出囃子は各漫才にあったものを採用。後日、松本さんのXでセットリストが公開された。

結成初期の『書道ガール』はおいなりさんが何度も逆立ちをして倒れ、おいなりボケ期の『マンゴー』では松本さんがおいなりさんに飛び蹴り。普通に漫才をやるだけでも体力を消耗するはずなのにこんなに体を張って大丈夫なのかと心配になったが、体当たりなネタに会場は大ウケ。

ライブが進むにつれておいなりさんは滝のように汗を流し、ネタの最中に汗が目に入って痛そうにギュッと瞑ると客席から笑いが起こった。松本さんは「おまえが変な顔をするから笑いどころじゃ無いところでウケてるじゃないか」とニコニコしながら突っ込んでいた。
別の漫才でおいなりさんが「ダメだろー!おぉーい!!」と頭を振り上げると飛び散った汗が松本さんの目に入るハプニングも。

別のライブでの「おぉーい!」

2021年4月からきつね日和を知った私は結成初期の『書道ガール』と『銭湯のおばさん』を今回初めて見た。『銭湯のおばさん』は松本さんがずっと訳のわからない主張と考察を展開する漫才。これ系のネタが好きなので初期はこういうのもやってたのかと嬉しくなったが、松本さんが公開した出囃子セットリストに「完全にエゴネタ!ウケるとかじゃなくやりたいだけのエゴでしたすみません!」と書いてある。

これも単独ライブだからこそ出来たことなのだと思うと本当に行って良かった。

ファンになったばかりの頃によく見た『電車のマナー』は懐かしく、あの頃より更におもしろくなっていた。今のクセで「ダメだろー!」の後に「おぉーい!」と言い間違えそうになり無理やり軌道修正したおいなりさんは、大声の出し過ぎで徐々に喉が枯れて行く。一体2時間で何回「ダメだろー!」を叫んだのだろうか。

『海と山』は2022年M-1グランプリ3回戦で「エアコンの音が聞こえるくらいのゼロ笑い」で一部ネット界隈で話題になった漫才。M-1の予選で使われている曲が出囃子として流れた瞬間、客席からは笑い声が漏れる。
2年前に大滑りしたはずのネタはブラッシュアップされて会場を大笑いに導いた。

漫才の中で松本さんが歌いながらリズムに合わせて頭上で手を叩くと観客も一緒に手拍子。

『ギャルの牛丼』でおいなりさんが客席に手拍子を求めると観客は手拍子どころか「エッスディージーズ!エッスディージーズ!」と一緒になってコール。『彼女がほしい』で観客にアンケートを取る為挙手を求めると、恐らく会場の多くの人が手を挙げた。(前の席に座っていたので見えなかったが私の付近の人たちは挙手していた。)普段のライブでは誰も手を上げてくれないこともあるのに

観客のノリが良く、おもしろいところで確実に笑いが起きてとても気持ち良い。

きつね日和を好きな人達の中で見るきつね日和の漫才は今までで1番おもしろくて楽しかった。

きつね-1グランプリ

MCのミギワさんが登場。ここからは「きつね-1グランプリ」という形で漫才を見せる。

舞台上スクリーンに漫才のタイトルが書かれた9マスの表が現れる。MCが座席番号のくじを引き、当てられた人は一つだけ漫才を選ぶ。

ネタ決めの間、きつね日和の2人は楽屋で待機。9個の漫才の中からどれが選ばれたかはMCがマイクを通してタイトルを言うまで分からない。松本さんは「ガチ抽選だったので本当にひりつきました。脳みそフル回転でした。楽しかった!」と出囃子セットリストに書いている。

2人が楽屋で待機している様子は舞台上スクリーンで音声無しで中継。おいなりさんが大量のメガネをテーブルに置いたり、松本さんとおいなりさんが交互にカメラに近づいてドアップになったり、カメラが切り替わったらなぜか遠くに座っていて中継が始まったことに気づいた途端ダッシュでカメラに近寄ってきたりとボケまくって会場を笑わせた。

ネタが決まるとM-1グランプリ決勝戦で聴くBGMが流れ、MCがきつね日和の紹介文を読み上げる。照明がカラフルに点灯し、Fat Boy Slimの「Because We Can」と共に2人が登場。『映画の話』、『日雇いバイト』、『怖い話(松本ver)』の3本を見せた。

MCの紹介文は3本とも異なった。初単独ライブ前日の具体的なエピソードを交えての「風俗狂いのおいなりとアイドルオタクの松本」では笑いが起こり、3本目は「化けろ、きつね日和」という締めにミギワさんの力が込もっていた。

選ばれた観客がどの漫才を選ぶかというワクワク感、そして選ばれた漫才はどれもおもしろくてウケ続ける。9本の漫才を見た後だったが、もっと見ていたいと思うくらい楽しかった。

2本目が終わり舞台袖に帰る時に松本さんは「楽しい〜」と呟く。

きつね日和を好きな人達の中で見るきつね日和の漫才は2人がずっと楽しそうで、今までで1番おもしろくて楽しかった。

わけがわからないくらい楽しかった。

例えるなら子供の頃に家族で夏祭りに行った帰りのような余韻が残る純度120%の楽しさ。
一度見たことのあるネタが多かったのに、2人が出てくる度に「次はどんなおもしろいものを見せてくれるのだろう。」という期待が続く。

ライブが進むにつれて観客の笑い声と呼応しておもしろくなっていったような感じもする。まだ2人はおもしろくなる。

だからM-1グランプリ決勝戦BGMと共に現れた2人が漫才で客席を沸かせているのを目の前で見て、いつか近いうちにこの光景を年末のテレビで見る日が来るのではないかと思った。演出が現実になる日は、そう遠く無いと思う。

後編に続く。



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