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本日は晴天なり

"あー、あー、テストテスト、本日は晴天なり、本日は晴天なり"

マイクに声を発すると、会場中にその声が響く。

体育祭の準備というのは、とても大変なものだ。

機材のセッティングが終わり、あとは始まるのを待つだけだ。

「よし…これでOK…」

『お疲れ様〜』

部長の唯衣さんがやってきて、隣に座る。

「お疲れ様です、マイク準備OKです。」

『サンキュー!にしても、雨降らないといいね…』

今朝の天気予報では、午前中雨が降ると予報が出ていた。

雨が降ると体育祭は見事中止になり、機材を濡らさないように片付けをしなくてはならないのだ。

そして残念なことに少し雲がかかってきている。

「そうですね、機材戻すのめんどくさいですし。」

『それな〜wあっ、これ訂正版の原稿、目通しといて?』

「あ、ありがとうございます。」

渡された原稿に目を通す。

正直どこが変わってんだレベルの訂正なのだが、ここで間違えると放送部の信用問題になりかねないのでしっかり読む。

「承知しました。」

『おっ、確認早いね。さすが期待の後輩だねw』

「からかわないでくださいよ。」

『からかってへんってw仕事できるし、読みも上手いし、本当に期待してるんだからね?』

「それはありがとうございます。」

『なんか冷たいってw』

先輩のいつものお世辞をスルーしていると、上から何かが当たる音が聞こえた。

まさかと思ったが、その嫌な予感は見事に的中した。

パラパラという音はすぐさまザーザーという音に変わった。

『やば!早く外の機材入れて!』

指示通り外に置いてあったスピーカーやマイクをテントに入れる。

『もう最悪…中止じゃん…』

この雨ではさすがに体育祭も中止だろう。

「あーあ…せっかくの準備が水の泡に…」

『とりあえず、ここで待ってようか。止むの待とうよ。』

「そうですね、待ってましょうか。」

テントの下で2人で待つも、止む気配は一向にない。

そして、顧問の先生がやってきた。

先生:今日の体育祭、中止になったから機材片付けといて。

そんな軽々しく言うなと思ったが、仕方ないので片付け始める。

「残念でしたね、最後の体育祭の放送、楽しみにしてたのに。」

『ええんよ別に。仕方ないやん、変えられるもんちゃうし。』

そう言いながら機材を片付けていく先輩の顔は、やっぱりどこか暗かった。

『ふう…やっと終わった…』

「じゃあ…運んじゃいますね。」

『うちも手伝うよ、部長やから最後までやらせて?』

「わかりました、お願いします。」

機材が乗った台車にカバーをかけ、体育倉庫まで持っていく。

2人ともカッパを忘れてしまい、おかげでずぶ濡れだ。

「あ〜最悪…カッパ持ってくればよかった…」

『よかったら、タオル使う?』

先輩はタオルを取り出して渡してくる。

「いやいいですよ!先輩にも悪いですし!」

『遠慮しなくていいの…』

その瞬間、先輩がタオルを被せて思いっきりわしゃわしゃと髪を拭いてきた。

「ちょっ…!先輩、なにしてるんですか?」

『せっかく…好きな人と2人きりになれたのに…何もしないなんて嫌だ…!』

「せ、先輩!?色々と状況が…!///」

『えいっ!大人しくしろっ〜!』

拭き終えると、頭を撫でながら髪を整えてくれる。

『よし…これでOK…』

「もう…びっくりしましたよ…」

『ふへへっ///ついに言っちゃった…』

「全く…本当に部長は…」

『嫌だった…?』

子犬のような目で、上目遣いで見つめてくる。

「嫌じゃないですよ…」

『じゃあいいよね!』

「は、はい…!」

『やったぁ…えへへ〜///』

彼女は急にじゃれてきて、本当に子犬のようだ。

「そ、そろそろ戻らないと…怪しまれますよ?」

『せやなあ…///ほら、行こ?』

倉庫を出ると、雨は止んでまた太陽が見えていた。

「あーあ、せっかくしまったのに…また出さなきゃ…」

『一緒にまた出そ?』

「ですね…!」

また2人で準備をし直して、またマイクに声を通す。

"あー、あー、本日は晴天なり、本日は晴天なり"

END

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