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エッセイ ちびくろサンボ

 少し前に『はだしのゲン』 騒ぎがあった。

 そっちの方は時事ネタなので他の人に任せて……。

 私がすぐに思い出したのが、
『ちびくろサンボ』 の廃刊事件だった。

 一度気になると、もう我慢ができない。
 本を買い、いろいろと調べているうちに、
日本人とイギリス人の信念の違いを、まざまざと知らされる記述に出会ってしまった。

 岩波書店は、1988年12月9日付けの、「黒人差別をなくす会」からの批判に対して、わずか4日後に、絶版を決定した。
 しかも絶版するにあたり、制作にかかわった人々に相談した形跡が薄く、ほとんど事後報告で、かなり不審と反感を生んだようである。

 もちろん社内でまともな議論もしておらず、何より一般読者は、何のことやらさっぱりわからなかった。
 とにかく、是も非もなくクサイものに蓋をしたのであろう。

 一方イギリスで1972年におきた、同じく『ちびくろサンボ 論争』

 オリジナル版に近い『ちびくろサンボ』 の発行元のイアン•パーソンズ会長が、撤収要求に対して書いた返事が次のようなものである。

『あなたのお手紙は、私には不当に厳しく検討違いに思えるにせよ、あなたが根強い信念を持って書かれたものだと思います。

 私も自分の人生を支えてきた信念がありますから、ここはきちんと熟考のうえ、お返事するべきだと考えました。

 まず第一に、あなたのお手紙には、誰しもが認める事実であるかのごとくに、断言的な諸説がいろいろと書きつづられていますが、特定の立場に立っていない人々のあいだでは、そのほとんどが現在広く議論されている最中のことですし、そのうちのいくつかは真実とは違っています。 ……中略

……『その奥にある人種差別的メッセージ』とか、『黒人に対してまったく尊大で見下したような態度』 『黒人は誰でもジャングルでトラや獣といっしょに暮らしていると暗示しているのは明らか』

……この本は、そんな意図で書かれたのではありません。

……トラがバターになってそれでパンケーキをつくったり、黒人にせよ白人にせよ、子供がそのパンケーキを169枚も食べるなんてことがありうるでしょうか?

 すべてが空想のなせる業なのです。
 それが今の嘆かわしい風潮の中では有色人種への攻撃に見えるよう歪曲されうるというのは悲しいことです。

 しかしだからといって今、そしてこれから先の子供たちが、すでに時が証明してくれたこの本がもたらしてくれる喜びを受け取ることすら否定されるべきだという理由にはなりません。

 私は心から、あなたやお仲間は、一歩退いて自分自身や自分たちの姿勢をじっくり慎重に検討し、実際のところ人種差別主義的なのは自分たちではなかろうかと、問い直すべきだと思います。

 あなたがたは素晴らしい目的を持ちながら、現実に対してはかなり盲目的で、有色の肌をしていることは何か劣ったことだという考えを、幼い子供たちの無邪気で単純な心に植えつけているのです。

 率直に言って、私は子供たちの成長を託される立場にある人々が、このような考えをすることに、心が寒くなる思いです。』

 抗議を受けたとたん、あっさり絶版にした日本の多くの出版社とは風格が違いすぎる。

* 写真の書物より、多々引用

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