15分の恋。
あれは去年の夏頃だったか。
夜、新宿あたりで用事を済ませ疲れた体で電車に揺られながら家へと向かっていた。
その日もいつものように中央線は混んでおり、お互いがお互いの足を踏まないように気を付けることで精一杯。
暑い中全くの他人がひしめき合いながらそれぞれの駅へと向かっていた。
僕の下車駅まで7駅。
時間にして20分ちょっと。
車両のすこし奥まで進んで吊革に身をゆだねていた僕。
するといきなり誰かの頭が僕の背中にそっとくっついて来た。
顔はよく見えなかったが女性だった。あたり具合からして身長はわりと低め。
体もよじれない程密集してるので仕方ないかと思い気に止めずにいたら
「トン、トン」
何度も背中に頭を当ててくる。
どうやら僕の背中にちょうどいい頭の置き場所を探してるらしかった。
はじめはビックリしたが、どうせまだ立ってないといけなし、この状況だとバランスが取りにくいんだろうと思いどうぞお使いくださいと背中を置きやすい場所へと移動してあげた。
フィットする所が見つかったのだろうか何度か試みたのち、頭が落ち着いた。
しばらくその状態が続いていたが、駅によっては人の動きが大きい所があるため時折ずれることもしばしば。
その度にその人は枕に居場所を求めるかのように
トントン。
僕もそれを助けるように背中を安定させてあげる。お互い名前も知らなければ顔さえ知らない。
そんな事を繰り返しているうちに駅に到着。
正直振り返ってその人を確かめたい気持ちもあったがそれはすることなくそのまま人波に流され降りた。
いつもの中央線でちょっと変わった出来事。
ひと夏の15分の恋でした。
木下 ゆうた
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