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もじを書いて食べてゆく人にもっとも必要なこと

こんにちは、IT系の出版社で「ECzine」というECをお仕事でやっている人向けのメディアの編集者をしてますワダと申します。

歴史と伝統を誇る出版業界においてはこわっぱですが、ネット業界においては老害的お年頃であり、弊社のメディア部門ではすっかりベテランになりました。

新しいメンバーの採用の際には、お会いして(今はリモートですが)質問したり質問にお答えしたり、入社された際には表記統一や「ら抜き」について口うるさく言ったりしています。

そんな私が、もじを書いて食べてゆこうと思ったのは、小学生くらいのことでした。小学校1年生で書いた読書感想文が全国でなんかの賞をいただいて、図に載った感じです(それで職業を決めた人間もいるのだから、読書感想文みたいな宿題はあってもいいんじゃないかと思います)。

スギ花粉がボンネットにうず高く積もる山の中に生まれながら、大人を理詰めに論破して怒らせてしまうことなどもあり、「この地に長くいないほうが良さそうだ」と自覚するくらい生意気だったため、自立への意識が早かったというのも一因です。

もじを書く仕事というと、学生の頃は小説家くらいしか思いつかず、書いてみたりしたのですが、高校生になって読むものが広がっていくうちに「夜眠れなくて薄紫色に朝焼けていく空を見てしまったり」「悲しい気持ちでかなり年上の男の人と付き合って早めに苦いお酒を飲んでしまったり」と、村上春樹的に言うと「不健全な肉体」に「不健全な精神が宿っている」作家の存在をたくさん知り、「太宰治みたいに生きられない」と、小説家は自分にはちょっと無理そうだなというのに気づきました。村上春樹さんがもっと早く、「朝暗いうちに起きてマラソンする。歯医者にマメに行く」といったことを教えてくれたら、今頃ハリーポッターを書いてたかもしれないのに。ちなみに今では、太宰治みたいに生きられなくて本当に良かったと思ってます。

新聞記者もなんだか違うし、ファッション誌にも興味ないし、とりあえず国語の教科書を作る仕事を目指すかぁくらいの将来の夢を設定し、作文を書く機会があれば褒められることもあるような、平凡な学生生活を送っていました。大学時代に編集プロダクションでアルバイトを始めて、「空想の世界より、リアルなビジネスのほうがおもしろいな」と思ったのと、「1回くらい出版社に入っておこう」とバイト先から歩いて面接に行けた翔泳社の門をたたき(正確に言うと弊社に門はありません)、ご縁あって現在に至るという感じです。

いちおう編集者という仕事についたのですが、ずっと「書く場所がほしいなー」とはぼんやりと思っていました。いえ、ブログもあったし書く場所はごまんとあったのですが、「書くこと」がなかったのです。ネタをひねり出してでも書こうとしなかったことは甘えかもしれませんが、「何食べたとか、どこ行ったとか、私が書いてもねぇ」と、新しいサービスが出るたびにブログやサイトを作っては、数回投稿して放置してしまっていました。

前置きが長くなりましたが、もじを書いて食べてゆく人にもっとも必要なこと。それは、「書かざるを得ない場を確保すること」だと私は思います。10年くらい一緒に仕事をしてくれているカメラマンさんも、「趣味じゃなくて、仕事っていう本番で撮影して、納品して、掲載されて、お金をもらう場所が必要。最初はどんなに小さい枠でもいいからと、編集者に頼んでもらっていた」と言っていたことがあり、激しく共感したしだいです。

自分はアーティストではないーー。その道で生きていこうと思ったら、いつしか気づけることだと思います。だからと言ってあきらめる必要はなく、頼まれた仕事に対してそのスキルでもって貢献することで対価をいただくプロフェッショナルを目指すという道は残っています。しかし、プロフェッショナルとしてそのスキルでもって貢献するには、ある程度の量をこなすことは不可欠です。それも「本番」という舞台で。さらに、お局みたいな上司や先輩が、表記統一や「ら抜き」を口うるさく指摘してくれたら、腕をみがくという意味では近道じゃないですか? うざいとは思いますけどネ。

作文を書けば褒められることもあり、国語の成績だけはまぁ良く、文学部に入った私も、はじめて仕事として書いた文章は見るも無惨なものでした。いえ、3年目くらいまでは今の私に、「この状態で確認して意味ある?」とか言われ続けたと思います。……やだ、こわい。

もじを書いて食べてゆこうと決めた10代の私に、「なんとかもじを書いて食べているよ。自分でもまぁまぁのものが書けるようになったと思う」と、言えるくらいにはなりました。そうなれたのは、「仕事として書かざるを得ない場が確保できたから」です。私の場合は、それが「ECzine」というメディアでした。2013年11月にできて、なんとか8年目に入りました。

アーティストでないことを自覚しながらも、もじを書いて食べてゆこうと思っている人へ。「仕事として書かざるを得ない場」を確保しましょう。私は、それがもじを書いて食べてゆく人にもっとも必要なことだと思っています。そこで、書いて、書いて、書いて、書きまくれ。量が質を作ってくれます。

なお、2020年12月7日現在、ECzineではおひとり編集者を募集しています。「仕事として書かざるを得ない場」をお探しで、メディアを見て興味を持っていただけたという方はぜひ、翔泳社の門をノックしていただければ幸いです(正確に言うと弊社に門はありま……以下同)。ECzineが、もじを書いて食べてゆきたい若い人に、「仕事として書かざるを得ない場」になるのであれば、こんなにうれしいことはありませんです。

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【追記】ECzineでお仕事してくださるフリーライターの方も募集しています。Twitterなどでお声がけいただけると幸いです!

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