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Podcastの裏側〜小田原鈴廣〜

「鈴廣の広報の者ですが…」とビックリするほど早く電話がきた。

 神奈川県小田原にある「小田原鈴廣」さんはその名の通り小田原市にある。小田原というと北条氏の居城、小田原城をイメージする人が多いと思うけど、鈴廣さんがあるのはそこからだいぶ離れたところ。むしろ箱根の入口といったほうがいいあたり。

 箱根には昔から訪れる機会がたくさんあったけど、実は鈴廣さんを意識したことはあまりなかった。なにしろ鈴廣さんがあるのは箱根の入口、地図で見ると箱根の山の緑色がはじまるちょうど先端。温泉や芦ノ湖に行こうとすると素通りしてしまいがちなところだし、ターンパイク——ネーミングライツでちょくちょく名前が変わる——を走りにいくとなるとそもそも前を通らない。
 その日は箱根の山の中にある美術館や博物館をまわって、なんとなくかまぼこでも買って帰ろうと鈴廣さんの駐車場に入った。鈴廣さん直営の「鈴なり市場」という広いおみやげ物屋さんをめぐっていると、「隣が博物館になっております」というご案内。
  かまぼこで、博物館?なにやら古めかしい、へたをすると薄暗い場所なのではと思いながらも、それはそれでおもしろそうだからいいやと思っていってみる。
 するとなんということでしょう、隣の「かまぼこ博物館」は近代的な建物で、さらには思いのほかおもしろくて、一階から三階まである展示をつぶさに見てまわってしまった。なにより一階ではかまぼこの製造工程も見ることができるようになっていて、それを見ているだけでも時間を潰せそうだった。
 他にもかまぼこ板を使ったアートのコーナーや食と科学のコーナーなんかもあって、かまぼこに粘りが生じる秘密や臼と杵ですり身をこねる様子が解説されていた。
 ここまでくると、もう番組で紹介したくなってしまう。もともとおいしいものやおもしろいものがあると共有したくなってしまう性分だから。

 というわけでさっそく取材の申し込みを、とはいかずいつものとおり何度も受付の前を往復して、受付の方が不審に思うころにあってようやく、これまたいつものとおり「あのぅ…」と声をかけた。
 ポッドキャストというものがありまして、素人が作っておりまして、何人聴いてくれているかもわからなくて、それでも一所懸命に作っておりまして…、と通報覚悟で説明する。
 するとやっぱりあっさり「承りました」と受付の方は名刺を受け取ってくれて、「広報の者にお伝えしておきます」
 もうけっこうたくさんの人や組織に取材をお願いしているんだけれど、申し込むのはいつまでたってもちっとも慣れない。より不審がられそうな速さでその場を立ち去ると、駐車場に停めておいた車に乗り込んでそそくさと圏央道へ。
 実は圏央道を走行中に、鈴廣の広報酒井さんから電話がかかってきていた。駐車場を出てからほんの20分ほど。運転中だったので出るに出られず、家に着いてからあらためてこちらからお電話をかけた。
 というのは実は言い訳で、あまりに早い応対に心の準備ができていなかったんです。ごめんなさい、広報酒井さん。
 そういうわけで電話をすると、広報の酒井さんという方が丁寧に対応してくださった。
——ポッドキャスト、知ってます。ぜひ取材に来てください。かまぼこの魅力をぜひ多くの人に伝えてください。
 そういっていただけるのはありがたいけど、テレビやラジオほどの影響力はないですよ。ましてやこちらは素人番組。上手にできるかどうかもわかりません。ただ真摯に作ります。そしてたぶん一回こっきりじゃなくて、何度もお邪魔して繰り返しご紹介します。
 いやなんですよ。番組のネタにするために、他人様ががんばってるのを一度切り紹介してあとは知らん顔っていうの。
 そんな話をすると酒井さんは、「ありがたいです。ぜひいつでもいらしてください」

 そんなわけで取材の日程を決めて、実際にうかがってみるとやっぱりとってもすてきな人で。そのあとも取材じゃなくてもお邪魔したりして、もう一年以上お付き合いいただいている。
 プライベートでうかがうときにはあらかじめご連絡なんてしないから、かまぼこ博物館の裏にある社屋のほうにいきなりうかがうんだけど、「今日は地ビール」「今日は生ワサビ」と、いればいたでおみやげを手渡され、いなければいないで他の広報の方におみやげをおあずけする。そのたびに、「なぜこんなものを?」という顔をされるけど、それはおたくの酒井さんがうっかりそんない雑貨店につかまっちゃったからですよ。

 酒井さんへの取材は鈴なり市場の二階、団体客なんかが休憩する場所でおこなったのだけど、ここも普段ならたくさんの人で賑わっているんだろうなあ、おっちゃんおばちゃんたちは酒盛りはじめちゃうんじゃないかなあ、なんてったって下の階では最高の肴を売ってるんだから。
 何年かして、「あのころコロナが流行っててさ」なんて思い起こせるといいなあと考えながら、収録スタート。
 広報酒井さんはさすが鈴廣の顔。流暢にわかりやすく、そして聴きやすい声と口調でお話ししてくれた。しかもおいしいもの(お酒も含む)の話をするときは本当にうれしそうで、その様子は第286回でも遺憾なく発揮していらっしゃる。
 お時間をたっぷりとっていただけるということだったので、レギュラー番組を収録したあとは一階に降り、鈴なり市場をご案内いただいた。
「これはこんな商品で…」「あれはこんなふうに作ってて…」と端から端まで教えていただいたものだから、すべての商品がますますおいしそうに見えてくる。
 それから場所を変え、お隣のかまぼこ博物館へ。ここでは展示物の案内はもちろんのこと、一緒にちくわ作りにも挑戦したりして、その様子はaudiobook.jpの「そんない雑貨店特別版第7回 キニナル観光No.4」としてお聴きいただけます。
 ああ、そうだ。ちくわ作りのときにかぶったシャワーキャップみたいなやつを、「お似合いです」とほめてもらって微妙な気持ちになったのはいまでも忘れていませんよ。
 酒井さんは他の回のおまけコーナーにも出演していることがあるので、気になる方は探してみてください。

 さて、鈴廣さんといえばかまぼこをはじめとするさまざまな品がおいしいのだけれど、そこで異彩を放つのがプリかま。
 かまぼこの表面に好きな文字やデザインを焼き付けることができるというもので、コントラストさえしっかりしていれば写真でも可能。
 父の日や母の日、敬老の日なんかに名前を入れて贈ったり、なにかの記念にプレゼントしたりするとよろこばれるんじゃないかな。なにしろワンアンドオンリーだし、食べればなくなる消えものだし。

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 そんなこんなで、せっかくだから自分の番組名を入れて作ってみたのが↑で、興に乗って作ってみたのが↓。

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 あらかじめ鈴廣さんのサイトからデザイン用紙をダウンロードしておいて、そこにプリントアウトして持っていったら、広報酒井さんにも売り場のおばちゃんにも驚かれた。
 ちなみに「鬼滅の下平」バージョンは鈴廣さんから直接、一緒に番組をやっている下平さんに送ってもらった。発送サービスもやっているそうなので。

 鈴廣さんも酒井さんもすてきところ、すてきな人なので、拙いながらもできる限りその魅力が伝わるように番組を作っているつもりだけれど、やっぱり酒井さんの声をできるだけクリアにお届けしたい。
 その際にネックとなるのがにっくきコロナウイルスで、第226回のときにはまさかこんなことになろうとは夢にも思っていなくて二人ともマスクをしていなかったけど、第286回収録時点ではマスクなしは考えられない。そうなるとどうしても声がこもってしまう。
 だからなんとかしてクリアな声にするために、EQをさんざっぱらいじって調整してる。実はこの回は全体の音質調整に三日間かけた。たぶんそんなことしなくてもちゃんと聞き取れるし、問題ないとは思うんだけど、どう編集しようとけっこうですと任されちゃったからにはできる限りのことをしたい。
 おかげで、さすがにマスクをしていないときと変わりなくとはいかないまでも、なんとか酒井さんの声をクリアにお届けすることができたと思う。酒井さんファンのみなさん、ご堪能ください。

 またお邪魔します。おみやげ持って。


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