和田福之介

「読む」を辞書で引くと、「深い意味を察する」とか「隠された意味を推察する」という意味が…

和田福之介

「読む」を辞書で引くと、「深い意味を察する」とか「隠された意味を推察する」という意味があることがわかります。事件について、ただ単に「知りたい」というのではなく「真相を知りたい」という思いから、「○○事件の本を読む」ではなく「○○事件を読む」とすることに決めました。

最近の記事

下山事件を読む 第12章 下山事件の証言者たち(その1)

 事件後、下山事件について情報発信した人たちがいる。この章では、彼らが下山事件をどのように捉えていたのか見ていきたい。 宮下英二郎(元CIA協力者)の証言  宮下英二郎は、下山総裁を誘拐したのは姫路CICに所属する日系二世の将校たちで、この将校に引き合わせたのが銀座にあるR出版社のK部長(元関東軍情報将校)だったと述べている。  以下、宮下証言を要約する。  1949年(昭和24年)7月4日夕方、宮下は有楽町の東鉄レイルウェイ・クラブでKと会った。Kは「下山さんに明日渡す

    • 下山事件を読む 第11章 GHQ参謀第二部の秘密機関

       前章では、シャグノンの怒りを買ったので下山総裁は殺されたとする松本清張の推理について見てきた。松本はシャグノンが黒幕であることを示唆する一方、こうも言っている。 「キャノンは関係が無いと思う」と松本は書いているが、キャノン機関が下山事件に関係ないということに関して、「失敗した機関なのである」と言うだけで説得力のある説明はしていない。おそらくシャグノンを首謀者と考えたからキャノンを除外したのだろう。  キャノンが事件に関係あるか否かについては、キャノン機関とはどのような組織

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      • 下山事件を読む 第10章 松本清張の推理(その2)

         前章では、臨戦態勢への移行を目論んでいたウィロビーとシャグノンが、日本国民に反共意識を植え付けるための謀略を巡らしていたという松本清張の推理を見てきた。この章では、下山総裁が殺害された理由について、松本清張はどのように推理したのか見ていきたい。 下山総裁の情報収集  第4章では、大規模人員削減を行うだけの“暫定的総裁”を下山が嫌々引き受けたことについて書いた。しかし下山が総裁就任を引き受ければ即座に総裁に内定したかと言えば、そうではなく、GHQに“お伺い”を立てなければ

        • 下山事件を読む 第9章 松本清張の推理(その1)

           この章では、松本清張の推理をもとに、ウィロビー(第2章で詳述)やシャグノン(第5章で詳述)が何を考えていたのか見ていきたい。 シャグノンの任務  松本清張は、初めGS側であったシャグノンが、どういう訳か途中でG2側に付いたと言い、シャグノンがG2側にいたということを考えると、下山事件も半分は判ってくるような気がすると言っている。そして、「シャグノンとしては二つの任務があった」とする。その任務とは次の二つである。 ① 社会主義国との対決:対ソ連戦・対中国戦を見据えた戦時

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          下山事件を読む 第8章 事件前後の不可解な出来事

           この章では、犯行グループの実像に迫るための鍵となるかもしれない、事件前後に起きた謎の出来事について見ていきたい。 「引揚者血盟団」からの脅迫状  事件の一週間前(または7月4日)、前橋局の消印がある「引揚者血盟団(または引揚者同盟)」名義の封書が吉田茂(首相)宛に届いた。それは、政府首脳や国鉄総裁などを殺すという内容の脅迫状だった。  矢田は著書『謀殺 下山事件』において、57ページでは上記のとおり「引揚者同盟」と書いている一方、232ページでは「『引揚者血盟団』とい

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          下山事件を読む 第7章 自殺説 対 他殺説

           前章で登場した辻一郎が見た五反野の「下山」は、下山総裁の替玉であった。「下山白書」には、その替玉の様子に関する辻の供述が次のとおり掲載されている。  このように、替玉は「自殺寸前の下山総裁」を演じたのである。しかし、だからと言って本物の下山が自殺していないという結論にはならない。実際のところはどうなのだろうか? 司法解剖  1949年(昭和24年)7月6日午後1時40分ごろから、東京大学の法医学解剖室で古畑種基(教授)指揮、桑島直樹(講師)執刀のもと司法解剖は行われた

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          下山事件を読む 第6章 「下山総裁」を目撃した者たち

          変わり果てた下山総裁  1949年(昭和24年)7月6日午前零時25分ごろ、国鉄(常磐線)・下り(上野発・松戸行)の最終電車の運転士は、東武鉄道(伊勢崎線)の高架下を少し過ぎたあたりで轢死体らしきものを発見した。運転士は、発見場所の最寄り駅である綾瀬駅の助役に「調べてもらいたい」と伝え、最終電車を次の駅に向けて発車させた。助役は、ただちに2名の綾瀬駅員を現場に向かわせた。  現場に駆け付けた綾瀬駅員は「轢死体」を確認した。東武鉄道の高架下を綾瀬駅側にぬけて数メートルのところ

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          下山事件を読む 第5章 下山総裁の失踪

           前置きが長くなったが、ここから下山事件の具体的内容を見ていく。        下山総裁は、国鉄総裁就任から1か月後の1949年(昭和24年)7月2日、大規模な人員削減計画について労働組合と最後の団体交渉を行った。組合側の「それでは、どうしてもやる気か?」との最後の問いに対して、下山は「どうしてもやるのだ」と毅然と宣言した。その後、国鉄側は整理の具体的進め方の協議に入った。第一次人員整理言い渡し(国鉄職員の解雇通告)は、同月4日が米国独立記念日であることからこの日を避け、5日

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          下山事件を読む 第4章 難航する国鉄総裁人事

          日本国有鉄道の発足  鉄道テロが続発するなか、1949年(昭和24年)6月1日に発足した日本国有鉄道(国鉄)は、運輸省鉄道総局が行っていた国営の鉄道事業を引き継ぎ、新たに独立採算制を採用した日本初の公共企業体として発足した。初代総裁は、前回失敗している鉄道事業の大規模人員削減を行うことが既定路線であった。当然、この厄介な仕事を引き受けることになる初代総裁の人選は難航した。初代総裁が経営の合理化を実行するだけの臨時総裁として見られていたことも、就任を敬遠されたひとつの原因にな

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          下山事件を読む 第3章 吹き荒れるレッド・パージ

          相次ぐ鉄道テロリズム  レッド・パージの前段として、鉄道にまつわる未解決事件を見ておきたい。 庭坂事件 【場所】現在の福島市町庭坂 【日時】1948年(昭和23年)4月27日午前零時4分 【概要】継目板(レールとレールを接続するための鉄板)・ボルト(継目板用)・犬釘(レールを枕木に固定するために用いられる釘)が外されていたことが原因で蒸気機関車が脱線した。この結果、機関士と機関助士の2名が即死し、技師が重傷を負った。その後、この技師は死亡した。事件の真相は明らかにならなか

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          下山事件を読む 第2章 躍進する日本共産党

          日本共産党の台頭  1945年(昭和20年)8月30日、GHQのマッカーサーは厚木飛行場に降り立った。GHQが最初に行ったことは、国家主義・国粋主義的なものの排除である。その標的になったのが、旧軍人や官僚、財閥、国家神道、天皇などであった。同年9月、第一次戦犯指名が行われ、同月末、財閥解体が発表された。12月には神道指令が発表され国家神道が廃止された。そして、翌年1月元日、昭和天皇は「人間宣言」を行った。  その一方で、獄中につながれていた徳田球一たち日本共産党員は194

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          下山事件を読む 第1章 時代背景

           下山事件を題材にした本を読みながら、ひとつ思ったことがある。それは、事件当時の時代背景を十分に認識し当時の雰囲気をよく掴んだ上で読み進めなければ、結局のところ下山事件のことを正しく理解できないということだ。「理解」と言っても、今まで多くの人が挑戦しているにも拘わらず未だ事実が明らかにされていないこの大事件を、私ごときの人間が完全に理解することは不可能であることは承知している。しかし、“おぼろげながら”でも事件の全体像を把握するためには、やはり、その当時の歴史的な出来事を理解

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