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20、さながら昔でいう書生のような眼差しで、建物を継ぐケアの担い手たち #リガレッセ #リノベーション #但馬

日高町荒川区「いのうえさん」から受け継いだ、築150年の家。
入って左手、最も目を引くのは神棚。
神棚の水器を朝晩お供えすることが、夜勤スタッフのルーティンだそう。
リビングから2階を見上げると、書生さんが使用していた部屋の小窓が見える。
手洗い場をちょうど車椅子に座って見上げる先、壁の木材の切れ目に、
近くを歩きながら集めた素材でできたのであろう木々のブーケが引っ掛けてある。
床暖房があったかい。足先が冷えやすい年を重ねた方も、住んでいる家族に会いに来た人も、ホッとする、足元のあったかさ。

もう5年も経つと、玄関のスロープが削れている箇所もある。
何度ここに、この場所を選び暮らそうとする人が出入りしたんだろう。
何度ここから、いのちを終えた人たちが出ただろう。


12月、兵庫は豊岡市、日高町。「ケアとまちづくりを考える会」に、話し手としてお招きいただきました。主宰は、リガレッセの代表 大槻さんと、守本くん。守本君は、2019年8月に豊岡で「ケアとまちづくり未来会議」を主催した人でもあります。

今回は、大槻さんが大切に場を作っているリガレッセを舞台にして、「ケアとまちづくりを考える会」の話を聞きに、お近くの神社の宮司さん、荒川区で長らく区長を務めてきた方や、リガレッセのお隣に住む方、竹野町で町全体の暮らしを考えて活動する女性達。
但馬はもちろん大阪からわざわざ来てくださったことに加えて、リガレッセのスタッフの方も聞き手として熱心に聞いてくださり、話し手の私もほくほくする時間を過ごすことができました。

リガレッセの事業は、専門用語でいうと、看護小規模多機能型居宅介護事業所・・・、つまり、数人で暮らしを共にしながら、家に暮らしてきたことの延長線上で、リガレッセに暮らしの場所を移し、いのちをまっとうできる場所。(と私は捉えている)

リガレッセの成り立ちを見聞きする機会に恵まれ、今回の「ケアとまちづくりを考える会」でうっすらと見え隠れした、リノベーションされた建物の存在意義について、ふと感じ得たことについてアーカイブしておきます。

古民家をリノベーションするには、かなり大きなリスクが伴う。新築を建てた方が結果安くなることだってあるかもしれない。でもそれ以上に、その土地のストーリーを丸ごと外見から受け継ぐことができる、大切な役割を果たすことができると私は思う。

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古民家をリノベーションする時に、いくつかの越えなければいけないものが出てくると思っている。それらを代表する、非常に感情的な部分は、

・大家と合意
・その近隣の住む方々の理解

リガレッセの大槻さんは、実に見事にこの2つを時間をかけ丁寧に、しなやかに行なっている。
土地・建物の持ち主であった「いのうえさん」から、どうぞお願いします、と深々と未来を託された。
お子さんをおぶって畑の手入れをしていたら、みかねた近隣の方々が手伝いに来てくれた。
もちろん全員とはいかない。でも近隣に住む方々が、あの子たち、面倒みてやらなくっちゃ!とお節介を焼いてくれるような、そんな関係性を毎日毎日のやりとりの中で積み重ねている。

・開けてみなければどんな状態かわからない

リノベーションは、費用対効果を短期的に図ることが難しい。(もちろん指標を立てることはできるが)
土地、建物の適正価格自体、あってないようなものも多くある。
建物の床をはがしてみたらとんでもない虫食いだった、ということも珍しくない。
つまり引き受け手が、この買い物は相応だったか?という算盤を持ち出すことよりも、その土地、建物の何を大切に継いでいくかで、の問いに向き合っていくことになるのだ。

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大槻さん達スタッフの方は、多少壁が剥がれてきても、屋根裏に潜んでいそうな生き物の気配がしても、気にしないという。

ここは、築150年。この歴史ごとまるっと抱えて、ケアの必要な方達と暮らしていく、そうした働き手の気概がなければ、いくらデザインが良かったとしても、本来の意味での心地の良い空間は生まれないだろう。

・この場所に存在する意味を問い続けていく姿勢

リガレッセとして事業を5年もされていると、日高町のグランドゴルフ場でも話題になるという。

「おい、俺らが世話になれるあの場所って、どんな場所だい?」
「おう、あそこは昔、いのうえさん家だったところでよ、若い子達が一生懸命働いてるんだよ。なんでも看護師がいてな、泊まれて・・・・」

この日高町は広いが、ここリガレッセがある荒川区には、小学生が4-5人、中学生に至っては1人だという。
高齢者率は30%前後だが、やはりこの地区で若手が働いているということ自体、この場所に存在する価値そのものだと、荒川地区の方々はもう気づき始めている。
リガレッセがあの場所に存在し、自分たちも遠くない未来に何かしらで関わりを持っていくのだろうと思っている。

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リガレッセは、小規模多機能の拠点に加えて、misoをオープン。リガレッセの医療サービスを受けているに関係なく、misoでこの土地で取れた無農薬野菜を美味しくいただける
カフェで、確実に地区の方達との関係性を近づけていっている。

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単一の事業所、という考え方ではなく、この地区全体のことを考えていく、存在意義を考えていくと、内に閉じこもった”施設”ではなく、地区に飛び出していくケアの働き手、担い手として個人個人が存在意義の代弁者として地区に飛び出し、活動が活発になっていく。

継ぐものと、負担なく暮らせるその絶妙なバランスを、スタッフ全員で守っているリガレッセという場。例えていうなら、さながら昔でいう書生さんのような眼差しで、継いでいく。

今度は、草むしりをしに行きます。

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参加してくださり、最後までとっても活発に質問してくださったり、話しかけてくださった方々。ありがとうございました。

藤岡聡子
ほっちのロッヂ 共同代表
株式会社ReDo 代表取締役/福祉環境設計士
info(@)redo.co.jp
http://redo.co.jp/

私、藤岡聡子については、下記記事を読んでみてください。
・灯台もと暮らし
【子育てと仕事を学ぶ #1】藤岡聡子「いろんなことを手放すと、生死と向き合う勇気と覚悟がわいてきた
月刊ソトコト 巻頭インタビュー
・soar
「私、生ききった!」と思える場所を作りたかった。多世代で暮らしの知恵を学び合う豊島区の「長崎二丁目家庭科室」

おまけに:
読み物:人の流れを再構築する、小さな実践について|藤岡聡子
人の流れはどのようにして新しく、懐かしく再構築できるのだろうか?その大きな問いに対して、小さな実践を綴っているマガジンもあります(本音たっぷりで書いています。)