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土の海に張る氷

もぐらはいくら爪を立てても

地面は硬く

アスファルトの下まではどうしても帰れない


少し前までは見渡せば柔らかい土が広がり

掘っても

掘っても

私の世界が待っていた


土の中で産まれ

暗闇で育った私は

地底で暮らす家族に

この先ずっと逢えないのだろうか



地上に来てからは


美しい絵画と珈琲

ジャズにシネマと

時間を忘れて酔いしれた


もぐらの私は知らなくてよかった世界

地底には無い花という愛が咲く世界



地上の美しさに私はうつつを抜かしていた


アスファルトに覆われ帰れないと知り
一気に押し寄せる焦燥が

無駄と解りながら

硬い地面に爪を立てさせる


爪が割れるたびに

地底との距離は離れていく


ごめん

私はこっちで暮らす

家族が元気でいてくれと

祈りながら

雑多に暮らすことにする


私はミミズを食べるのをやめ

硬いパンを無作為にかじった


無駄に晴れて

太陽が邪魔だ



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