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新しい浮世絵を作るために考えたこと

半年ほど前から取り組んできた浮世絵を現代に蘇らせるプロジェクトの最初の作品がついに完成しました。

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令和新版画「雨の銀座/東京夜景」

大判錦絵 水性多色木版(和紙:越前生漉奉書)

イメージサイズ 240×360mm(紙サイズ 280×410mm)

画:つちもちしんじ 彫:柏木隆志 摺:山本駿 版元:都鳥

https://miyakodori.booth.pm/items/1571239

完成された版画には、彫りと摺りの丹念さから魂が吹き込まれたような雰囲気があります。職人さんが丹念に摺りを重ねたという深みはデジタルや印刷物では出せない迫力があり、浮世絵は絵師だけでない彫師と摺師の技を見るものという良く耳にするお話もなるほどとうなづけました。それを感じていただくには実物をご覧いただくしかないのですが、僕がこの版画を作るにあたってどんな浮世絵的な表現方法をしてほしいと思い、原画を描いたのかをいくつか挙げてみようと思います。それがどんな形で版画として仕上がったかをご覧いただくと、また違う見方ができて面白いかもしれません。

こちらがまず版元に僕が提出したデジタル原画です。

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①青と黄色の色彩対比(ヨーロッパ印象派のオマージュ)

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線画を抜いただけの塗りの状態です。ゴッホが浮世絵に憧れたように、僕は絵を志したときからゴッホに強い影響を受けているので、ヨーロッパ印象派の浮世絵の影響を逆輸入的に引き戻すという意味で、青と黄色の強い対比を基調とした作品にしてみたいと思いました。

②線のグラデーション表現(新版画の技法)

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こちらは線画なのですが、線の部分でも建物の明るい部分の色をグラデーションで明るくしてもらおうと思いました。新版画の吉田博が夕焼けなどの時に輪郭を柔らかく表現する時など使っている技法で、新版画を復活させるという意味で是非やってみたいと思っていました。黄色と青色を2回に分けて摺る手順を踏んでもらっています。

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③雨と雨雲の表現(浮世絵の技法)

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浮世絵で表現されてきた雨の美しさは必ず入れたいと思いました。歌川広重の「大はしあたけの夕立」のように、日本の雨の多い気候を情感豊かに表現しているものを目指しました。雨の線には偏光顔料という角度によって、色彩がプリズムのように光る新素材の顔料を使うことにしました。また、雨雲のうねる波のような形は摺り師のライブ感で摺ってもらうことで、浮世絵ならではの質感にしたいと思いました。(この摺りが職人さんのご苦労もあって、とても美しいのですがネットで伝わりづらいのが惜しいです)

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大きく分けて僕はこの絵の中に、ヨーロッパ印象派、明治大正期の新版画、江戸期の浮世絵の3つをこの絵の中に僕なりの解釈で盛り込みました。ベースには漫画的な方法でという点を付け加えるべきかもしれないです。過去には憧れを持ちつつ、行き着けないそれこそが一番の僕の要素だと思っています。

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