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【小説】窓辺しとど


最近本当に短い時間しか眠れなくて、2時すぎに寝たはずがさっき3時半ごろに目が覚めてしまいまして。

時折通る車の音以外しない窓の外は雨らしく、寝るのを諦めてこの作品の行動とほぼ似たことをやり、気付いたら4時頃に思いつきで書き始めたこの文が4:44に完成していた、という訳です。
空もいつの間にか白んでいたしビルの明かりも見えなくなっていました。
窓は冷たかったしちょっと寒かったので、毛布被りました。笑
そして瀬尾自身はこの後すぐにタイトル画像を作り、そしてSHOWROOMでこれを読まずにはいられませんでした。ちゃんちゃん♪笑

配信アプリ等での使用・改変等はご自由に。

転載・自作発言・再配布はご遠慮ください。

クレジット(瀬尾時雨)を、配信等では口頭で構いませんのでお願い致します。

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  窓辺しとど

 ふと目を開ける。
 暗闇の中、手探りでスマートフォンを充電コードごと手繰り寄せ、目を逸らしながらロックを解除した。
 時刻はまだ到底日の出には遠くて、実はまだ眠りについてからそんなに時間が経っていないことを示していた。
 はぁと大きく息をついて、再びスマートフォンを投げ出し目を閉じてみる。部屋で響く時計の音や、こんな時間にも関わらず時折外を走る車の音に耳を傾けていたが、一向に眠れそうにない。
 私は諦めてゆっくり体を起こした。掛け布団を取っ払い、窓辺に寄ってカーテンを少し開けた。点滅信号がそっと顔を照らしてくる。
 どうやら雨が降っているようだ。道路が街灯に照らし出され、黒くしとどに光っている。
 おもむろに移動し、そっと窓辺に腰を掛けた。何となくだ意味などない。ただもっとよく外を見てみたかった。何かに呼ばれるように、そのまま窓に頬を押し当て、その意外な冷たさに少し肩が揺れた。
 ゆっくりと辺りを見回す。
 まず雨。雨は、思っていたよりもよく降り、忙しなく地面を叩いているらしい。潴(みずたまり)が細かくチラチラしている。
 やはり車は通るが辺りに人影はない。
 煌々と目の前に光を落とし続ける自動販売機、近くのマンションの入口や野外に面した廊下を照らす灯(あかり)、控えめに名を知らせてくる店の看板。
 更には、遠くに見えるビル群のまばらな灯に、どこぞの鉄塔の赤いネオン。
 それらをこうして今、まじまじ見ているのが、もしかしたら私一人なのかも知れないと思うと――そして、こうしている私の様を見つけているのがその幽かな灯たちだけなのかもしれないと思うと、なんだか心の糸が絡まり、解けそうな気がした。
 空はどんよりとはしていない。日の出の刻は近付いては来てはいるが、それにしてはまだ濃く蒼い。
 地上のこの矮小なやりとりを、どういう思いかは知れねど見守っているのだろうか。滑稽だと辟易しているのだろうか。或いは意味は無いのかもしれない。いっそ見えていないのかもしれない。
 それでもなんだか特別な気がした。

 ふと動かした手が窓枠に触れた。鍵を開け、少しだけ窓を動かす。
 大きめの雨と車の走る音、その香り、そして木々の揺れる音。嗚呼、もうこんな季節だと言うのに空気が肌寒い。窓も未だに冷たいままで、いつからか触れている腕からも、体温は奪われていく。

 他と比べて僅かに斜めの電柱、その電線から滴る大きな滴、靄がかっているビルの袂、色を弾く車や建物の硝子、何かのシンボルを象った道端の柵、その横で待ちぼうけるバス停、それを見守る消火栓の看板、普段は気付かない道路の白線や傷や窪み。
 色々な物が目に止まった。
 私は涙は出ないけれども、この世界に泣く人達の気持ちがほんの少しだけ、分かった気がする。

 どれほどそうしていただろう。空が白み始めた頃だ。
 傘を指した男性が一人、信号にやってきた。点滅信号もいつの間にか規則を取り戻し、その傘を向かいの道路に足止める。
 私は見つかってしまわないよう、窓に手をかける。そしてその冷たさを撫ぜた後、閉めた。
 鍵は掛け忘れ、カーテンは開け放したままにしてしまったがそれは別に良かった。灯ひとつも無い部屋に戻り、モゾモゾとだらしなくベッドに潜ると、もう一度だけ、何も考えずに空と窓についた水滴を見、そのまま眠りについた。
 冷えた体に、片付け忘れていた毛布が温(ぬく)かった。
 窓の外、まだ雨はしとどだ。

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2020/05/19

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