見出し画像

【寄稿】小島ブンゴード孝子さん「デンマーク「普段着のデモクラシー」から学び市民の力で政治を変えよう」

幼少時から学ぶデモクラシー

デンマークは夫婦共働き社会。学校入学前の子どもたちは、昼間は保育園に通い共同生活をしています。

その子どもたちを見守り、指導している「ペダゴー」と呼ばれる幼児教育者は、国のガイドラインに示されている子ども目線でのデモクラシーを育むための「学びプラン」を参考に、園児一人ひとりの「自己決定と自助能力」を伸ばし、園児たちが共同体の一員として決定に参加するよう、常に心がけています。

義務教育の学校(小中一貫制)には学校理事会があり、保護者・教職員・地域代表に加え生徒代表も入り、学校運営の決定に加わっており、グループワーク形式の授業が約8割を占めています。

また、中学生を対象に、2年に1度疑似選挙や青少年国会が開催され、全国の約半数の自治体には、選挙で選ばれた中学生で構成される「子ども市議会」が設けられ、大人市議会へ政策を提案しています。

こうしてデンマークの若者たちは、日常生活で対話や決定に参加することからデモクラシーを学び、政治を身近に感じるようになっていきます。

そのためか、デンマーク人は「討論好き」で、同じことに関心を持つ人が2人いれば、すぐ組織を作ってしまうと言われるほど組織づくりが好きな国民でもあります。世代を超えた地域のスポーツクラブ、集合住宅の住民たちが組織する住民委員会、地域のシニアが集う会、さまざまなボランティア団体など挙げればきりがありません。

影響力を持つ団体の数々

このような活動は、日本にも多く存在しており、それ自体何ら変わりありませんが、一つ非常に大きな違いがあるように思います。それは、各地の組織・団体・クラブが、互いにどれだけ連携し協力し合っているか。つまり、多くの点が繋がって線となり、さらにそれが面へと広がっているかです。

デンマークには障害者団体が多く存在していますが、その中の36団体は、今から90年前に、1つの組織の下にまとまりました。この統括団体には、約40万人の障害者が加盟しており、大きな社会的・政治的影響力を持っています。

また、デンマークにはシニアによるシニアのための「エルドラセイエン」と呼ばれる全国組織があります。1986年に設立されたこの組織は、全国に215の支部を持ち、各地域で生きがいづくり活動や各種ボランティア活動、さらにシニア市民のパイプラインとして自治体へも積極的に働きかけています。そしてこの全国組織には、デンマーク総人口(約590万人)の16%に相当する96万人が加盟しており、私もメンバーの1人として組織の活動を支援しています。政府が高齢者に関わる法案を提出する際には、必ず事前に「エルドラセイエン」に意見を求めると言われるほど、地方だけでなく国の政治にも大きな影響力を持っているのです。

また少し時代を遡れば、19世紀後半には女性の全国組織が結成され、女性の参政権獲得(1915年)や男女間の賃金格差解消や、女性の政治参画(現在の女性国会議員は43・5%)など女性の社会的地位向上に努めました。これらすべて、点が線そして面へと広がったからできたことではないでしょうか。

投票率が政治の正当性を高める

4年に1度行なわれるデンマークの地方選挙の投票率はおよそ70%台、国政選挙ならば80%を切ることはありません(昨年の総選挙では84・2%)。これはまさに、市民が負担している高い税金が、必要な分野に必要なだけ分配されているかをウォッチするためであると同時に、自分たちの意見を反映してくれる人を政治舞台に出したいからに他なりません。

高い投票率はその国の政治の正当性(legitimacy)を高め、低い投票率は正当性に欠ける偏った政治が続くことを意味します。日本でも少しずつ女性の政治参画、地方政治が変わる気配が見えてきたようですが、まだ点レベルであるように思われます。これを線から面へと広げる活動を女性が主流となって、精力的に、かつ戦略的に進めていただきたいと切に願っています。

「多数決で物事を決めるのは暴力に等しく、対話と相互理解によって合意に至るプロセスこそが民主主義」。

これが、デンマークのデモクラシーです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?