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イベントレポート前編:Dataful Day Vol.5 〜みんなで目指そう!データ活用推進者への道 - 特別対談「今注目のビジネストランスレーターという役割 〜データ活用の先にみえるもの〜」

2022年2月10日(木)にユーザーコミュニティ“nest“による年に一度のオンラインカンファレンス「Dataful Day Vol. 5 〜みんなで目指そう!データ活用推進者への道」が開催されました。nest発足から5年目となる今年はこれまでの「ツールをよりうまく使うにはどうすればよいのか?」というフェーズからさらに一歩深いところへと視点を進め、「データ活用推進者になるためにはどんなアクションを取るべきか?」という部分にフォーカスした内容となっていました。

3時間に渡って開催された盛り沢山のセッションの中からこの記事では、このイベントの目玉とも言えるセッション、三井住友海上火災保険株式会社のCMO(チーフマーケティングオフィサー)木田浩理氏とnest運営メンバー六信孝則氏による特別対談「今注目のビジネストランスレーターという役割 〜データ活用の先にみえるもの〜」の概要をお届けします!

数字が苦手な文系人間からデータトランスレーターに転身

六信:今日の対談、楽しみにしていました。さっそくですが、木田さんの自己紹介からお願いできますか?

木田:現在は三井住友海上火災保険株式会社のCMOとしてマーケティング業務全般を担当しています。それ以前のキャリアは多岐に渡っていて、最初は通信キャリア、その後政治家秘書やIT企業、広告や通販などを経験しました。統計ツールの営業をしていた30歳くらいの頃に「これから活躍する人材はデータサイエンティストだ!」という内容の本を読んで感化され、そこから紆余曲折を経てデータサイエンティストになりました。今はデータマーケティングを主にやっています。

私はもともと数字が苦手な文系人間ですが、最近の統計ツールや可視化ツールはとても発達していて統計学の知識がなくても使いこなせるGUIベースのものになっています。なので、最初は見よう見まねで一つずつ学習して身につけていきました。いきなりデータ分析だけをしていたわけではなく、販売業務をしながらデータ分析をしていた時期もありました。そういう中で、現場の知見を活かして今度はデジタルマーケティングをやってみよう、もっとデータ分析を深く学ぼう、など少しずつのステップアップを繰り返した結果、今のビジネストランスレーターというポジションにいつのまにかたどり着いたという感じです。

六信:ビジネストランスレーターとは具体的にはどういった職業なのでしょうか?

木田:データ分析者がよく直面するのが、現場の人にうまく意図が伝わらない、という状況です。現場の人もデータ分析者との意思疎通がうまくいかないと感じていることが多くあります。この場合、両者の間には大きな溝があるわけです。その溝を私は常々感じていて、その溝を埋める必要があると考えていました。その溝を埋める役割をする人、つまりデータを翻訳する人、あるいは現場の言葉を翻訳する役割を担う人のことを「ビジネストランスレーター」と呼びます。

データ分析者はいい分析ができるといい仕事をしたと思いがちですが、そのデータが使われないまま放置されるケースが実は多くあります。しかし、データで得られた知見が経営判断に活かされて初めて分析結果は意味を持ちます

経営判断に影響力を持てるような人材になりたいと考えた時に、自分に足りないのはロジカルに考える思考回路、つまり自分の思考を司るOSのようなもの、だと気が付きました。そのOSをアップデートするのにすごく役に立ったのが「問題発見プロフェッショナル」という書籍です。この本は問題を発見し、それを解決していくために必要なフレームワークが順序立てて書いてあるので、現場で起きている問題を解決するのに必要な論理的な思考回路を体系的に学習することができます。これはデータサイエンティストとしてもビジネストランスレーターとしても欠かせないスキルです。

三井住友海上火災保険株式会社 木田浩理さん

独りよがりのデータ分析は現場で使ってもらえない

六信:データトランスレーターとして現場と向き合う際にどのようなことに気を付けるべきでしょうか?

木田:私の著書、データ分析人材になる。目指すは「ビジネストランスレーター」の中で5Dフレームワークというものを紹介しているのですが、まずDemand、つまり要望をちゃんと聞く、次にDesign、全体のデザインを考えなくてはならない、次にData、その次にデータを分析するDevelopの部分、そして最後に現場を巻き込むDeploy、つまり展開で成り立っています。データ分析の仕事はDemand、Design、Deployの部分の比重が思ったより大きいです。

六信:データ分析というととりあえずデータに手を伸ばそうとしがちですが、データがあるかないかは一旦置いておいて、まずDemandを把握するところから、ということですか?

木田:そうですね。Demandを把握した上でどんな問題があるのかを洗い出していく、というのがスタートです。どうしてもデータがあって可視化ツールがあるとそこから入りがちなのですが、まず現場が求めるものはなにか、あるべき姿はなにか、それに向けた問題はなにか、そこを埋めるべき方法は、というのを考え、意思決定プロセスを変えていくためにデータをどんな風に使えるか、というのを考えていくべきですね。

例えば、百貨店に勤務していた頃、入店客数の予測モデルを作ったら役に立つのではないかと思い立ち、こういうイベントがある時にはこのくらい集客数が増える、あるいはこういう条件の場合はこのくらい集客数が減る、というのをデータから導き出して上層部に見せたのですが、「ふーん。でもこれ使えないよね」という反応しか返ってきませんでした。

実際、数日前に客数予測ができたところで、そこからシフトを組み直せるわけでもないですし、現場では全く役に立ちませんでした。現場の視点に立っていない分析結果はこのように独りよがりなものになりがちです。やはり現場のDemandを汲み取るところからというのが何よりも大事です。

(左)三井住友海上火災保険 木田浩理さん  (右)帝国データバンク 六信孝則さん 

ビジネストランスレーターの今後とデータ活用の先にある未来

六信:ビジネストランスレーターは今後どんな存在になっていくと思いますか?

木田:データがうまく活用されている状態というのは意思決定プロセスにきちんとデータが活用されている状態です。現状は多くの現場で分断が起きていてうまく機能していません。この分断が埋められれば今まで以上にデータは重要になってくると思いますし、誰もがデータ活用できる世界になっていきます。ビジネストランスレーターは日本の人事制度であまり重要視されていない部分もまだまだありますが、ビジネストランスレーターは正にこの分断を埋める役割を担う重要な存在です。

そういう意味ではこれから5年先、10年先にはビジネストランスレーターはより求められる人材になっているのではないかと思います。その時こそ、例えばこのnestにいる方々のポテンシャルがいかんなく発揮される時かも知れません。そんな日が一日でも早くやってくるようにより多くの人たちにビジネストランスレーターという職業を知ってもらい、目指してもらいたいと思っています。

編集後記:

あらゆる職種のそれぞれの専門が細分化されていく昨今において、異なる専門の人たちの言い分に耳を傾け、全ての人が納得できる解決策を提案することができる仲介人というのは必要不可欠であり、そういう能力を有する人材は今後ますます価値が高くなっていくだろうな、と常日頃から筆者はぼんやりと思っていたのですが、今回のセッションで木田さんのお話を聞き、それが確信に変わりました!

「ビジネストランスレーター」というのはまだ耳慣れない職業かも知れませんが、人と人とが繋がることが社会である以上、人と人との溝をうまく埋めてくれる役割を担う人というのは今以上に求められるようになるはずです。「ビジネスとデータ分析の両方の領域に理解のあるジェネラリスト」と表現されるビジネストランスレーターという存在に関心を持った方、目指してみたいと思った方はぜひ木田さんがオススメしていた書籍を読破するところあたりから始めてみてはいかがでしょうか?(「問題発見プロフェッショナル」以外に、滋賀大学データサイエンス学部教授の河本薫氏の著書「データドリブン思考」もオススメされていました。)

イベントレポートの後半ではnestメンバーがこれまでの取り組みやこれからの目標について宣言する「わたしたちのデータドリブン宣言​​」の様子をご紹介します。

(データのじかん編集部 田川)

★★ユーザーコミュニティ”nest”とは★★
ユーザーコミュニティ”nest”はウイングアーク1st製品を活用し、データ活用を促進する人・企業のためのコミュニティです。「データ活用で世界を笑顔にする」をビジョンに掲げ、コミュニティ活動をしています。コミュニティでは、ユーザー同士が製品の情報や事例を共有し合ったり、製品活用にあたっての疑問を投げかけたり、データ活用にまつわる交流をすることができます。ご登録はこちらからお願いいたします。

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