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小説『雪が二人を祝福すると』(作:サカモト)

 2月11日土曜日。奇しくも大雪となってしまったが、僕は今日、告白する。今日こそ、彼女に告白する。


 彼女と出会ったのはサークルの新歓コンパだ。中高と文化部だったのにインカレテニスサークルの勧誘に断れず、慣れない飲み会にきてしまったのが運の尽き。先輩たちの飲み会特有のコールや、勢いに任せたテンションの高い会話に合わせることができず、肩身の狭い思いをしていた。

 隣に座る彼女もまた僕と同じように居心地悪そうにしていた。化粧っ気がなく少しイモ臭い服装をしつつも、クリリとした目と赤らんだ頬がなんとも可愛らしかったことを覚えている。

「大学の飲み会って、なんだか居心地悪いね」

 僕に気を遣ってか、はたまた自分の居心地の悪さをごまかすためか。少し困ったような笑顔で、彼女は僕に話しかけてきた。その場に馴染めないもの同士、二人だけで色々と話をした。新生活の楽しみや授業への不安。好きな小説やテレビ番組。話すうちに同じ学部であることも分かり、連絡先を交換することに成功した。思えばこの時点で、僕は彼女に恋をしていたのだろう。


 その後も少しずつ距離を詰めていき、同じ授業をとって一緒に授業を受けたり、テスト勉強をしたり、ご飯に誘ったりと、地道に彼女との接点を増やしていった。中高男子校であった僕にしては頑張った方ではないだろうか。

 知れば知るほど彼女は魅力的である。優しく、愛嬌があり、勉強熱心で、少しユーモアもある。彼女と付き合いたいという想いは、日に日に大きくなっていった。


 そして今日、彼女を大学へ呼び出した。あいにくの大雪で、大学から遠い家から通う彼女は電車の遅延で少々遅刻するそうだ。雪は刻々と激しくなり、寒さで指がかじかむ。しかし、この告白が成功すればこの雪も僕らの交際を祝福する桜吹雪へと変わるだろう!


 彼女が来た。薄ピンクのロングコートを着ており、彼女の柔らかい雰囲気とマッチしていた。

「遅れてごめんね、電車遅れちゃって......」

「だ、大丈夫! 全然待ってないよ」

 息を切らしながら、そう謝る。僕との待ち合わせに間に合うように、少し走ったのだろう。律儀な彼女らしい。

 いざ告白しようと思うと、どうにも会話がぎこちなくなってしまう。ていうか「全然待ってないよ」てなんだ。普通に30分以上待ってるだろ!

 いざ告白しようとすると、うまく言葉がでない。しばらく沈黙が続き、彼女は不思議そうな顔をしている。こんなことではダメだ! 僕は勇気を振り絞り、決意を固める。

「あ、あのさ!」

 告白の言葉はシンプルにすると決めている。

「初めて会った時から好きです。付き合ってください!」


 彼女は、初めて出会ったときと同じ、少し困った顔でこう言った。

「ごめん。私、彼氏いるから」