小説 『恋のキューピッド』(作:むしぱん)

 僕は恋のキューピッド見習い、アイメル。
 一人前の恋のキューピッドになるために、人間界で修行をしているところなんだ。

「おい! アイメル。次はあのショッピングセンターだ、ついてこい!」

「はい、サー!」

僕のお師匠様、アドルは凄腕の恋のキューピッドで、SNSでも超話題の人気者!
人間界にまで名が知れ渡るなんてそう簡単じゃないんだ、かっこいいなあ。

「1階のカフェに高校生と思われる集団がいる」

「見えました、男3人、女3人ですね」

「どうやら、このうち手前の男女4人はカップルのようだ」

「えっ……。本当だ! ヤジルシがお互いを向いています」
「ははーん、分かったぞ。残りの男女2人をくっつけようという計画に違いない、ですよね、お師匠様!」

「ふむ、正解だ。推理力が付いてきたようだな、アイメル」

お師匠様に褒められた! ふっふっふ、今日は冴えているぞ。
ちょっと補足をすると、お師匠様はスマートフォンなどの情報を盗み見るチカラを持っている。そのチカラを使って恋のお助けをするんだ。もちろん、悪用はしないぞ!
今回もきっと彼らのLINEから計画を見つけ出したんだろう。この短時間で、さすがだ。

そして僕には、恋愛感情のヤジルシが見える。人から人に向かって「恋」の気持ちが見える。でもまだチカラを使いこなせなくて、よーく目を凝らさないといけないし、集中力もすごく必要になるんだ。

「そうしたら、サー。僕、カフェのテラス席を空けてきます! 告白のセッティングをして、誘導しましょう!」

「あっ、おいアイメルまt……」

何かお師匠様が言った気がするけど、僕はわくわくして飛び出した。成功するといいな!

 __「少年が動きました! お師匠様の言葉を信用してくれたみたいだ」

計画としては、僕が告白の場所をセッティングして、お師匠様が少年のスマートフォンにそのことと、告白の後押しのメッセージを送る。そうしたら後はもう彼ら次第だ。

「……」

お師匠様は2人をじっと見つめながらさっきから黙り込んでしまった。はて、どうしたんだろう。緊張してるのかな。
少年はラッキーだぞ、なんたって僕たち恋のキューピッドに出会えたんだから。

「あれっ⁈ 少女が少年を残して帰っていく……」

どうしてだ、少年は告白に失敗したみたいだ。なんでだ、僕たちが完璧にセッティングしたはずなのに……。

「……おいアイメル」

「はいっ、サーなんでしょう!」

黙っていたお師匠様が僕を低い声で呼ぶ。あれ、なんだか怒っている?

「お前、あの2人のヤジルシ、ちゃんと確認したか?」

ヤジルシ……?いや、確か他の4人のヤジルシしか見ていない。

「だって、彼らの友達がくっつけようと計画しているって」

「それは周りの奴らの勝手な計画だろう! 見てみろよ、ヤジルシを」

僕は言われたまま、テラスに立ち尽くす少年と、帰ろうと荷物をまとめている少女をじっと見る。

「そんなっ! 少女から、ヤジルシが、出ていない……」

「やっぱりな。だからいつも言っているだろう! きちんと確認してから動けと!」

お師匠様に怒鳴られる。僕のミスだ。またやってしまった。これじゃただのお節介だ。

「まったく。人の気持ちにまだまだ寄り添えてないな。そんなんじゃいつまでたっても半人前のままだぞ!」

「ごめんなさいっ、次こそはもっとちゃんとお役に立ちますからあ……」

__僕が一人前の恋のキューピッドになる日は、まだまだ遠そうだ。