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スマートフォンと映画泥棒、の話

 映画館には、上映中でもスマートフォンをいじる人がいる。

 足繁く通っていると怒りの感情は湧かなくなるもので「またかぁ」と呆れる、くらいのものだ。知り合いの中でそういう人がいたら縁を切るとは思うけれど。

 ただ単純に疑問である。映画の上映中、スマートフォンを開く理由がよく分からない。マナーとかの話ではなくて、今その場で開かないといけない訳はあるのだろうか、と考えてしまう。

 インターネットでこの話題を調べてみるとマナーだとか、個人的な許容の話になりがちである。しかし『映画スマホ』の話の筋はそんなところには無いように思う。

 僕が行ったことのある全ての映画館では、本編開始前に「携帯電話・スマートフォンの電源はお切りください」というお願いの映像が流される。多くの人は、これを守るということを『マナー』だと捉えているのだろうか。

 考えてみて欲しい。例えば駅で電車を待っていて「黄色い線の内側でお待ちください」という放送が流れた時、黄色い線をはみ出している人に「マナー違反だ!」となるだろうか。

 飛行機に乗って、「シートベルトをお締めください」といったアナウンスが流れた後に「ちょっとトイレに」と立ち上がろうとする人がいたとして「マナー違反だ!」と思うだろうか。

 所謂「お願いの体を成したアナウンス」というのはそこかしこに存在する。しかしそれは本当に、出来ればやらないで頂けると助かります的な意味では無いことは誰もが知っている。

 駅で黄色い線の内側に入らないといけないのは電車が侵入する際に危険だからだし、シートベルトを閉めないといけないのは離着陸や強風のため、飛行機が大きく揺れて危ないからである。

 これらの「お願い」には理由がある。では、映画館において携帯電話やスマートフォンの電源を切らなくてはいけない理由はなんだろうか。

「他のお客様のご迷惑になるから」が本来の理由ではないだろう。なぜなら映画館にとっては「お客様各自のお気持ち」は知ったこっちゃないからである。

 駅に入ってくる電車に対して、黄色い線より外側を歩いていた人がいたとしよう。その人がちょっとした拍子に躓いて線路に落ちてしまい、電車がそれを轢いたら間違いなく駅が困る。

 飛行機でシートベルトを締めない乗客がいたとして、飛行機が予期せぬ挙動をしてその乗客が悲惨な目にあったとしよう。これも航空会社が困ってしまうのである。

「上映中にスマートフォンを開く人がいて、その光が眩しくて他の人が不快」は映画館からしたら別に困ったりしない。そんな話はお客様同士で勝手にやってくれという話だろう。

 では映画館が、作品上映中にスマートフォンを開かれて困るとしたら何故だろうか。そこで頭に浮かんでくるのが映画泥棒である。

 映画館で映画を見たことのある人なら誰でも知っているであろう映画泥棒。「劇場内での映画の撮影・録音は、犯罪です」で始まるアレだ。

 スマートフォンで映画を撮影されていたら、映画館としてはめちゃくちゃ困ってしまうだろう。

 誤って線路に落ちて列車に轢かれる人が出ないために黄色い線の内側へ下がらせるように、機内の揺れにより転倒や衝突などの事故を防ぐためにシートベルトを着用させるように、映画泥棒をさせないため、映画館ではスマートフォンの電源を落とさせるのではないだろうか。

「いや、撮る訳ないじゃんw」

 みたいな話では無い。そんなこと言ったら黄色い線の内側に下がらなくても電車に轢かれることはないし、シートベルトを締めなくても機内は安全だ。

 轢かれるかもしれないし、転倒するかもしれない。撮影されるかもしれないから全員のスマートフォンの電源を落とさせるのだ。

 という、ここまで全て妄想である。根も葉もない与太話を1500字も展開できるようになったあたり、物書きとして少しは成長しているのかもしれない。

 ともあれ「映画の上映中には携帯電話・スマートフォンの電源をオフにする」という行為を『マナー』としてしまうのは個人的には疑問である。マナーというのはいわゆる心遣い、気遣いのことだと思う。この話はそういう問題では無いのではなかろうか、というのが僕の考えだ。

 個人的に、映画の上映中にスマホがピカピカしているのは些か気分が良くない。しかし気分の良し悪しで他者を糾弾することの方がもっと良くないだろう。そう思って「本当に他者への気遣いだけの話なのだろうか」と考えた結果が今日の話である。

 昨今流行りの応援上映や爆音上映のように、「スマートフォン出し放題上映」や、何も持ち込むことのできない「素っ裸上映」的なそれぞれのニーズに合わせたものが行われたらこの争いは集結するのだろうか。

 いや、もしかしたら「電源を切れと言われた後にスマートフォンを開く」という背徳感を楽しんでいる人もいるのかもしれない。そんな下らないことを考えていると、次第に嫌な気分も収まってくるものだ。

 今日はスマートフォンの光を気にしないまま終われるといいな、などと思いながらも、今後も僕は映画館に通い続けてしまう。だって映画が好きで、映画館が大好きなのだから。

 

 

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