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母になるとママの不思議行動は愛の表れだと気付く

トイレに行くと、たまに思い出すことがあった。
小学校低学年の時に同級生が教えてくれたことだ。

「うちのお母さん、扉を開けたままトイレに行くんだよ」

私の家族には扉を開けたままトイレに行く人はだれもいなかったので、子ども心に不思議だった。トイレは扉を閉めて入るもの。友人のママはちゃんとした大人である。ちゃんとした大人はマナーを守るものなのに、なぜトイレの扉を開けたまま入るんだろう。

その後しばらくはトイレの扉を開けたまま入る人が世の中にはいることを知らなかった。そのため、彼女のママは私にとって「実はちょっとヘンな人」という認識になった。
にこやかで大柄な美人なママだった。言動はもちろん普通だ。好きか嫌いかと言えば、好きな方の人だ。でも、こっそりとちょっとヘンな人だとも思っていた。

あれから数十年経ち、私も大人になり、子どもに恵まれ、母親になった。

母になってようやく、トイレの扉を開けたまま入る気持ちが分かった。少しずつ自我が目覚めハイハイなどで自由に動き回れるようになった乳幼児は、母親の姿を見失わないように後追いすることがある。後追いする子どもはどこまでも付いてくる。母親がトイレに入り扉を閉めると、子どもは不安になって泣き出したりなんとか扉を開けようとする。
子どもが不安にならないように、母親の姿が見えるように、トイレの扉すら開けっ放しにすることがあるのだ。

あの友人のママはおそらく、子どもが不安にならないようにトイレの扉を開けたままにして入っていたのだろう。子どもがとっくに後追いをしない年齢になっても、その習慣が続いていたのだろう。
そう気付いた時、胸の中が温かくなった。彼女は愛情に包まれてのだろうと改めて思った。
私の母の不思議行動にも、私たち子どもへの愛情から起こったものがあるかもしれない、と思えた。

友人一家は引っ越し、今はどこにいるかも分からない。
もし友人のママとお話する機会があれば、トイレの扉を開けたまま入っていた理由を聞いてみたいような気もする。
でも、私の幸せな推測のままにしておきたいような気もする。

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