見出し画像

柔らかで透明で無垢なその心を

故郷の好きなところを考える授業で、
「僕は、夕焼けが好き」
と、ある子が言った。
どうして?と尋ねると、
「海で見える夕焼けが綺麗だから」
とにっこり笑った。
なんて繊細で味わい深い感じ方なんだろうと胸を打たれた。
ここに住んでいる子は、皆んな故郷の海が大好き。

元気いっぱい遊んだ帰り道、皆で歩く海岸線。
陽が遠くに沈みゆく。
一瞬、立ち止まって海を見る。
緋色に染まる海面が、あなたのガラス玉のようにキラキラと輝くその瞳に、映し出されていたことだろう。

そんな情景を想像すると、尊いなと思う。
子どもの心は、スポンジのように沢山のことを吸収する。
世界は未知のことばかりで、見る物・嗅ぐ物・聞く物・触れる物・味わう物…一つ一つに感動を覚える。
子どもの時は、一日が凄く長く感じた。
日々の中で、"出会い"が多かったからだと思う。
目に留まるものが多く、色々なことが新鮮だった。
毎日毎日、楽しくて面白かった。

大人になった今では、一瞬で一日は過ぎ去ってしまう。
同じ日の繰り返しのように思える。
新たな気づきにも中々巡り会えない。
何となく、惰性で生きているような感覚に陥ることがある。

カフカによると教育には二つあるという。
まだ何も知らぬ子どもたちが、真実に向かって猛烈に突進するのを防ぐこと。
もう一つは、骨抜きにされた子どもたちを、そっと徐々に虚偽へと導くこと。

あなたたちの、柔らかで透明で無垢なその心をどうか良い方向へと導けますように。
嘘偽りない気持ちから生まれる言葉を届けたい。
あなたたちが、何かを知りたいと思う時、精一杯のサポートをしたい。
引き止めるのではなく、真っ直ぐに進むその背中を見守るのだ。


「海で見れる夕焼けが綺麗」
そう感じた心を大切にしてね。
いつか故郷を離れても、あの時見た海と夕焼けは綺麗だったなって思い出せるように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?