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社員は“囲い込んで”も成長しない。社内外で挑戦する社員を応援するデュアルキャリア制度を全社的に導入してみた

元Jリーガーの社長だからアスリート採用しているんでしょ? デュアルキャリアって、アマチュアの選手が競技を続けるための救済策でしょ? 世間的にはそんなイメージがあるかもしれませんが、前回のnoteでお話したように、私は最初から「ある確信」を持ってアスリートのデュアルキャリア採用を始めました。そしてそれは、私の想像通り、ある意味では想像以上の結果を生み出してくれました。

今回、日本の人事部が主催する『HRアワード』にエントリーさせていただいたのは、バリュエンスが行った“実験”の成果を多くの人に知ってもらいたいと思ったからです。

前回のnoteはこちら

アスリートの新しい働き方がヒントに

アスリートが働くことの効果については、すでに前回のnoteでお話しました。私の仮説では、「アスリートは目の前のことに興味を持って取り組む、目標に向かって努力する、日々の取り組みの中で絶えずPDCAを回すことが得意」なので、ビジネスでもいい影響をもたらしてくれるというものでした。

この点は、弊社で定点観測している仕事・人間関係・健康に関するパルスサーベイや業績評価(MBO評価)でも明らかになったのですが、これはアスリートの特性もさることながら、「やりたいことを諦めない」「何かをやり遂げるために別の何かを犠牲にしない」デュアルキャリア自体の効果ではないか? という新たな期待が生まれてきました。

あなたが「自分らしく」生きるための働き方とは?

実はこれもアスリートのデュアルキャリア制度を始める前から考えていたことでした。

バリュエンスでは、「大切なことにフォーカスして生きる人を増やす」ことを目指しています。お客さまや社会に対してなんらかのインパクトを与え、影響力を行使するには、まずは自社で働く人間が「自分らしく」生きられる働き方を選び、仕事でもプライベートでも「ありのままの自分」でいられることが重要です。

アスリートにとって「自分らしく」いられるとはどういうことか? 突き詰めると、それはつまり競技を続けること。デュアルキャリアで働くアスリートは、これまで一生懸命に取り組んできた競技を続けながら、新しい仕事に出会い、そこでも「自分らしさ」を発揮できる場所をつくれるわけです。

これは何もアスリートに限ったことではありません。バリュエンスのメンバーでありながら、先日デビューを果たしたシンガーソングライターの結美(ゆうみ)さん

の例からもわかるように、誰もが好きなことをしながら働ける環境があれば、人生はより充実するはずです。

人生を充実させることが仕事に悪いはずがない

副業、複業、デュアルキャリア、パラレルキャリア……、言い方はいろいろありますが、日本社会ではこれまで、夢や趣味、自分のやりたいことを続けること、複数の仕事を同時にすることを「どっちつかず」「中途半端」と揶揄する風潮がありました。

でも、人生が充実して悪いことってあるでしょうか? 

企業が従業員の人生を保証してある意味で家族丸抱えで囲い込み、そのかわりに献身と忠誠心を求める時代は終わりました。

企業は自分らしく生きるための手段でしかなく、人生の主人公はいつも自分でいい。キャリアデザインやキャリアアップ、ジョブ型雇用のような考え方が徐々に当たり前になってきている現在、デュアルキャリアは企業と社員との関係性の変化をポジティブにとらえるために有効な方法ではないかと思うのです。

全社員を対象にデュアルキャリア制度を導入

アスリートのデュアルキャリア制度導入から2年、バリュエンスではついに

  • 社内デュアルキャリア制度(社内兼務)

  • 社外デュアルキャリア制度(副業)

  • 週4日勤務制度

を全社員に適用し、バリュエンスのすべてのメンバーがデュアルキャリアを行い、自身のキャリアを自ら考え、形成していくことを目指すことになりました。

今回、バリュエンスで全社的に行う施策は以下の通りです。

社内デュアルキャリア……役職者を除くすべての社員が対象。現在の仕事をしつつ、自分の興味がある新しい仕事にチャレンジしやすい状態を創出することを目的に、公募と同様の枠組みで行う。社内デュアル先との兼務割合は30%(週1.5日)上限、対象者の人事異動(所属変更)は行わない。任期は1年間とし、翌年は改めて公募に応募することができる。

社外デュアルキャリア……仕事+余暇+自己投資をバランスよく行える状態にし、自分らしさの探求や自分磨きといった自己投資を行いやすい環境にしていくことを目的に実施。引越作業、食品配達、コンビニなど、収入UPを目的とした仕事を除き、一定のルール内で運用している。

週4日勤務……本人の希望に応じて週4日の勤務体制を認めている。給与は8割だが、社外デュアルキャリアや育児・介護といった事情でフルタイムの就業を望まない社員でも柔軟に働ける。フルタイムか週4日勤務かの切替に制限は設けておらず、本人・上長からの申請に基づき許可制で運営。

みなさんどうでしょう? 自分の会社にこんな制度があったら利用してみたいと思いませんか?

心の中で「本当はチャレンジしたい!」と思っている社員の背中を押す

実はこの各制度は「公募」という形ですでにスタートしていたのですが、お察しの通り、自ら手を挙げてあえてデュアルキャリアに挑戦する人はなかなか出てきません

制度を整え、運用を開始する際、「20%程度の社員がこの制度を活用してくれるのでは?」という淡い期待を抱いていました。しかし、自ら手を挙げてデュアルキャリアを行う人は期待にはほど遠い3%未満

なぜ手を挙げないのか? なぜチャレンジしないのか? 正直毎日のように悩みました。

悩みに悩んだ末に自分の中で出た答えは、本当はチャレンジしたいけど、不安や恐れがあり一歩踏み出せていないだけではないか? ということでした。

キャリアに対する考え方もそれぞれあると思いますし、97%の社員が変化する社会の足音を感じていないわけではないでしょう。でもまだまだ複数の仕事を同時にするという働き方が一般的ではない中、なかなか一歩が踏み出せない、ハードルが高いと感じているのかもしれません。

社員のチャレンジを企業が応援するというHRの形

制度をつくったのはいいですが、使われなければただの話題づくり、アピールで終わってしまいます。

大切なことは、選択肢があることを大々的に示し、「特別な誰か」だけではなく、全社員が等しく気軽に挑戦できるシームレスな環境を提供することです。

本当はチャレンジしてみたい! そんな97%の社員の背中を押す制度として6月1日からスタートしたのが、営業部を中心としたジョブローテーション型のデュアルキャリアです。

この制度は、社員の働く部署が偶数週と奇数週で変わるというもの。

部署を定期的に横断することで、自分の目の前の仕事だけでなく一緒に働くメンバーの仕事の実際を知ることができます。仲間の立場に立って仕事をすることは、自分の仕事を改めて考えるきっかけになるはずです。

そして何より、「自分の仕事はこれ」と決めて、それだけに取り組んでいては気づけない自分の新しい可能性を解放してもらう狙いもあります。

私がサッカーにドハマりした理由も、体操クラブや水泳クラブでサッカー以外の競技を経験したからこそ。他のスポーツを経験して初めて「自分はサッカーに向いている」と認識できたのです。比較対象となるスポーツをやってみてわかること、サッカーだけしかやっていなかったら見えなかったことがたしかにありました。

ジョブローテーション型のデュアルキャリアでは、「いろいろやったからこそやっぱりサッカー」となってもいいですし、他のスポーツが得意と気づいてそちらに目を向けるきっかけにしてもらってもいいと思っています。

「選択できない負」をなくしたい! いずれ働き方はガラリと変わる

もちろんバリュエンスでは、こうした働き方制度の利用を強制しているわけではなく、「社員個々人がチャレンジしたいことを会社としても全力でサポートしたい」、「仕事以外にもやりたいことがある社員が自由にチャレンジできる状態をつくりたい」という思いで選択肢を示しているに過ぎません。

3年以内にいなくなる新入社員が問題として取り上げられ、「石の上にも3年」など、まだまだ一つのことを続けてやることが美徳とされている世の中ですが、いずれこの常識は崩壊します。

そうなったとき、デュアルキャリア制度は、特別な制度ではなくなり、すべての社員が複数の職場、役割、視点、やりがいを持つことが当たり前になります。

個人的には近い将来、デュアルキャリア制度は、制度ですらない当たり前のものになるのではないかと思っています。

2023年5月時点で、10人が社内デュアルキャリアを実施し、32人が社外デュアルキャリアを選択、5人が週4日勤務を選んでいます。

全社員の3%に満たない数ですが、すでにデュアルキャリア制度を始めている人は、アスリート同様パルスサーベイ、業績評価(MBO評価)でも高い数字を出しています。

意欲がある人、自分で能動的に動ける人なのだから当たり前ともいえますが、動き出せば何かが変わるのは明らかです。デュアルキャリア制度は、社員一人ひとりの可能性を解放するための制度。今後は実施結果をしっかりと分析し、バリュエンス全体の働きがいにつなげていきたいと思っています。

今回、全社員に広くデュアルキャリア制度を導入するのは、「選択できない負」をなくしたいという思いが一番。

大きく価値観が変化する「答えがない時代」を生きる私たちにとって、働き方の変化は、すべての人が待ったなしに取り組まなければいけないことだと思います。

あなたのキャリアをつくるのはあなた自身。そんなふうに言われても、かなりのリスクを背負って転職するしか選択肢がなかった日本社会に、デュアルキャリアは一つの明示的な“答え”になるのではないでしょうか?

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